知識や技術を活かして大活躍。歴史をバンバン変えてしまうのではないだろうか?
と、現代ではもはやイチジャンルとして確立された元祖作品が『戦国自衛隊』です。
しかし内容は、そんな生易しいものではありません。
現代の火力を持った自衛隊さえも、容赦のない戦国の掟、非情な倫理の前において、アッサリと犠牲になってしまう。
何より恐ろしいところは、戦闘訓練を施された自衛隊員でさえも理性を失ってしまう点でしょう。
人間の本質をズバリと見抜いたかのような。腹の底をえぐり出されるかのような。
単純にドンパチやらかしてスッキリ!ではなく、CGがなくとも大迫力の映像となった骨太の名作。
まずは、あらすじから見て参りましょう。
※アマゾンプライム会員でレンタル324円(2022年7月3日現在)
基本DATA | info |
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原題 | 『戦国自衛隊』 |
英語TITLE | G.I. Samurai |
制作年 | 1979年 |
制作国 | 日本 |
舞台 | 日本、越後国他 |
時代 | 戦国時代、永禄年間あたり(1558-1570年) |
主な出演者 | 千葉真一、夏木勲、渡瀬恒彦、江藤潤、岡田奈々 |
史実再現度 | 歴史+SF・人物関係は史実準拠 |
特徴 | 元祖自衛隊異世界スリップものにして最高峰の作品 |
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【あらすじ】自衛隊、戦国時代でかく戦えり
198X年、伊庭義明(千葉真一)三等陸尉以下21名の自衛官たち。
彼らは移動中、不思議な空間の歪みに呑み込まれて、新潟県の補給地ごとドコかへ飛ばされてしまう。
一体何が起きたのだろうか。
砂浜のような場所で隊員たちが戸惑っていると、数騎の騎馬武者が接近してきた。
「お祭りでもやってんのかなぁ」
彼らの姿を見て、訝しむ自衛官たち。
と、騎馬武者たちはイキナリ彼らに矢を射かけて来た!
やむなく機関銃で応戦する彼ら。
しばらくの戦闘を経た後、豪快に笑いながら登場したのが「越後の龍」こと長尾景虎(夏八木勲)だった――。
この長尾景虎の誘いに応じて戦国に巻き込まれながら、それぞれの道を模索していくことになるのが本作のメインストーリー。
タイムスリップした現実に向き合おうとする者。
戻る道を模索する者。
適合して生きていこうとする者。
そして命を落とす者。
皆それぞれがもがき苦しむ。
そんな中、長尾景虎と意気投合した伊庭の胸には『このまま景虎と共に、天下を狙えるのではないか?』という野心が渦巻いてくるのであった……。
現代兵器があっても楽勝にあらず
本作の魅力は何か?と問われたらこう返します。
「(敵攻略の)難易度が高すぎる」
これに尽きます。
槍や弓で戦っているところに、ヘリコプターや機関銃を持ち込むのだから、バッタバタと敵をなぎ倒せるだろう。
そう考えてしまうのは大間違いで、まったく思い通りにいかない。
本作の戦国武士がやたらと強いのは、考えてみれば当然で、現代人よりも当時を生きる上では優れた点がたくさんあるのです。
互いの長所をピックアップしてみましょう。
◆自衛官の強み
・現代の兵器を持っている
・歴史の結果を知っている
◆戦国時代人の強み
・倫理観がハードで殺しにためらいがない
・補給と数の面で圧倒的に有利
・戦術戦略面で工夫をこらしてくる
要するに、現代人の利点は武器が優れていることだけ。
『それで十分じゃないの?』と思われるかもしれませんが、この武器とて有限ですから使ったら終わりなのです。
補給と数の面で不利であるというのは大きなハンデです。
序盤、景気よく機関銃をぶっ放している場面を見ると「おいおいそんなペースで大丈夫か?」と心配になってしまいます。
弾切れ・燃料切れになったら、現代兵器はただのガラクタなのですから。
能天気に「ぶわははっ! 戦国武士がゴミのようだ!」と喜んではいられないのです。
長尾景虎がヘリに乗っても何だか説得力があるんだなぁ
そして戦国時代人のヒャッハー上等、ハードコアな倫理観が圧倒的に強い。
機関銃ぶっぱなされても次から次へと襲ってくる。
相手が装甲車だろうがヘリコプターだろうが、恐れず突っ込んでくる。この覚悟が凄い。
「人に向けて初めて銃を撃ってしまいました!」なんてはしゃいでいる現代人じゃあ、そりゃ勝てないわなあ、と痛感させられます。
自衛官が、武士をバタバタとなぎ倒すシーンが見られるのかと思ったら、逆にプレデターに狩られるような展開を見せたりするわけです。
この精神性の差を端的に体現するのが、あどけない若武者(なんと薬師丸ひろ子!)でしょう。
あまりの可愛らしい容姿に、敵対した自衛官が思わず銃をおろしてしまうと、アッサリ槍で討ち取られてしまいました。
ここでやられた現代人は、最期に一言。
「戦国……時代……」
そう、これぞまさに当時の価値観。
彼らは基本的にヒャッハーなんだよ、という世界観の構築がキッチリ描かれているからこそ、難易度が高く面白いのです。
現代人ごときが、戦国武士相手に勝てると思っているのか、という問いかけは正しいと思います。
これはトンデモ歴史映画すべてに共通して言えることですが、大事なのはきちんと史実を踏まえること。その上で独特の世界観を構築せねばなりません。
「どうせトンデモなんだから適当でいいや」
そう甘っちょろく見たトンデモ歴史映画は、基礎工事を手抜きしているようなもので絶対にコケますからね。
トンデモ歴史映画って、実は歴史に対する姿勢が正統なものより大切なんですね。
基礎が出来た上で応用しているのが、トンデモ歴史映画なんです。
本作は基礎工事がバッチリできているからこそ、派手な跳躍が説得力を持って成立しているのです。
長尾景虎が笑顔でヘリコプターに飛び移っても本作が重厚なのは、まさに世界観がしっかりしているからです。
そして本作最大の見せ場が、やはり川中島の戦いでしょう!
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