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豊臣vs徳川をめぐる『東照宮縁起絵巻』は歴史の改ざんなどではない 本郷和人東大教授の「歴史キュレーション」

更新日:

 

日本中世史のトップランナー(兼AKB48研究者?)として知られる本郷和人・東大史料編纂所教授が、当人より歴史に詳しい(?)という歴女のツッコミ姫との掛け合いで繰り広げる歴史キュレーション(まとめ)。

今週のテーマは、『東照宮縁起絵巻』から読み解く豊臣対徳川です!

 

【登場人物】

本郷くん1
本郷和人 歴史好きなAKB48評論家(らしい)
イラスト・富永商太

 

himesama姫さまくらたに
ツッコミ姫 大学教授なみの歴史知識を持つ歴女。中の人は中世史研究者との噂も
イラスト・くらたにゆきこ

 

◆「神君家康」解く 没後400年で「東照宮縁起絵巻」公開 大阪日日新聞 2016年4月19日

本郷「少し前の記事なんだけど、これをぜひ取り上げたい」
「どうしたの?今ごろになって」
本郷「うん。この記事を読んだときにものすごく違和感があったのだけれど、自分なりに冷静に考えられるように冷却期間をおいたんだ。その結果として、やっぱり大事な問題だから、検討した方が良いんじゃないか、という結論に自分の中で達したんだ」
「あら、そうなの。それじゃあ、感情的にならずに冷静に議論を進めましょう。危ない雰囲気になったら、私がレフェリーストップをかけるから、たぶん大丈夫よ。それで,どこが気になったの?」
本郷「ええとね、〈・・・大阪城天守閣の解説は『(関ヶ原)合戦を『豊臣対徳川』の構図に位置づけ、歴史を改ざんした』と指摘している。『兵乱の本基』について、跡部氏は『研究者の常識では関ケ原合戦は豊臣体制を前提にした路線対立であり、徳川家康対石田三成だ』と説明〉という箇所なんだ」
「大切なことだから、くどいけれど、もう一度、言い直すわね。大阪城天守閣と学芸員の跡部さんは、「関ヶ原の戦いというのは豊臣体制を前提にした路線対立である。だから東軍の大将は徳川家康であり、西軍の大将は石田三成である」と解釈する立場に立っている。ところが、『東照宮縁起絵巻』は関ヶ原の戦いは『豊臣対徳川』だという。跡部さんたちは「これは歴史の改ざんに他ならない」と考える、というわけね」
本郷「そうだね。記事については、そういう理解で良いと思う」
「あなたが言いたいのは、西軍の大将は石田三成ではなくて、毛利輝元だろう、ということかしら? そういう見方は多いわよね」
本郷「いや違う。たしかにぼくも、西軍の大将は毛利輝元だ、と声高に主張していたことはあった。でも石田三成か毛利輝元か、という問題は小さいんだよね。問題の本質はそこじゃない」
「え? じゃあ、問題の本質はどこにあるの?」
本郷「『東照宮縁起絵巻』が関ヶ原の合戦の構図を『豊臣対徳川』としたのは、『歴史の改ざん』なんてとんでもない。それこそが真実なんだ。『関ケ原合戦は豊臣体制を前提にした路線対立であり、徳川家康対石田三成だ』なんてのは『研究者の常識』でなんてあり得ない。『アホな研究者の常識』かもしれないけれど・・・」
「はい、ストーップ! アホはだめ、アホは。続ける前に謝罪して」
本郷「ああ、そうか・・・。はい、熱くなって言い過ぎました。すいませんでした・・・。では続けるね。『関ケ原合戦は豊臣体制を前提にした路線対立であり、徳川家康対石田三成だ』というならば、徳川家康が勝とうが、石田三成が勝とうが、体制の主は豊臣秀頼だ、という解釈で良いよね?」
「うん、もちろん、そうなるわね」
本郷「豊臣秀頼は豊臣体制の主です。ということは、豊臣秀頼の立場を言い換えると、どうなる?」
「一番手っ取り早く言うならば、天下人、ということになるかしら?」
本郷「そうでしょう? 跡部さんという方は、関ヶ原の戦いの後も、秀頼こそが天下人だ、と考えているわけだね。でも、そうすると、説明が付かないことがこのあとに立て続けに起きるんだ」
「それはどういうもの」
本郷「何といっても、領土だ。徳川家康の命令による所領の宛て行いと、その反対として、所領の没収。その延長線上には、西軍についた大名の切腹も命じられている」
「ああ、なるほど。でもその時に確認しておきたいの。その命令は、五大老筆頭としての家康の命令、とは考えられない?」
本郷「それはムリだね。だって、肝腎の豊臣家の所領が、220万石から65万石に減らされているんだよ。豊臣家の家来の五大老として、主である豊臣家の所領を減らすなんてあり得ないよ」
「ああ、なるほどね」
本郷「ぼくはこういう時こそ、基本に戻るべきだと思う。将軍権力の二元論、思い出して」

「将軍とは何か、将軍の権力とは何か、というときに必ず持ち出される定理ね。将軍とは二つの権力を持つ。一つは全ての武士を主従制の中に取り込んでいる。これが主従制的支配権。二つめは政治行為を行う。これが統治権的支配権ね」
本郷「うん。佐藤進一という偉大な研究者が発見した定理だね。それ自体を深めることはここではしないけれども、要するに、将軍=天下人は、全ての武士を主従制の中に取り込んでいるんだ。そこで問題になるのが主従制だけど、これを具体的にいうとどうなる?」
「従者は主人のために命を投げだして尽くす。まあ、戦場での働きよね。これが『奉公』。それに対して主人は『ご恩』を与える。それは本領を安堵すること、それに新しい土地を与えること」
本郷「そう、そのとおり。関ヶ原の戦いのあと、家康は論功行賞を行う。手柄のあったものには新しい土地を与え、敵方に回った者には領地を没収したり、削ったりする。そのどちらでもない場合でも、本領の安堵を行っている。日本列島に居住する全ての大名に対して、だ。これは家康が・・・」
「なるほど。主従制的支配権を行使しているに他ならない,と言いたいのね」
本郷「そうだね。家康は関ヶ原の戦いで勝利し、豊臣対徳川の戦いで勝利し、新たな天下人になったんだ。だから『東照宮縁起絵巻』の解釈は正しい。『歴史の改ざん』などでは断じてない」
「念のために聞くけれど、他に解釈のしようはない?」
本郷「うん、大丈夫だと思うよ。ええと・・・・・・、なるほど、そうか!」
「どうしたの?興奮して」
本郷「いや、いま気がついたよ。家康は前田利家の死後、まず前田家を挑発し、それから上杉家を挑発し、ともかく戦いを引き起こしたがっていたでしょう。いままでぼくは、秀吉が戦いの中で織田家の天下を奪った方法をまねて、日本列島規模の戦いを起こしたがっていた、と説明していたんだ」
「うん、たしかにそうだったわね」
本郷「それはそれで間違いじゃないんだけれどね、そこに『戦いのルール』を加味して考えるといいんじゃないかな」
「どういうこと?」
本郷「古来、戦いでは、勝った方が敗者の全てを奪う。命も財産も。財産には奥さんや領地や宝物など、全てが含まれる」
「そうよね。命がけの武士の戦いって、そういうものよね」
本郷「家康は、この『戦いのルール』を全国規模で展開することにより、豊臣家からいっぺんに全てを奪おうとしたんじゃないかな。全国の大名たちは『戦い』に身を置く人たちだから、そのルールは身にしみて知っている。だから、豊臣家から徳川家へ、という天下人の移譲が、みんなにスムースに理解された、と考えれば良い。そうか、『戦い』のもつ本来的な力を、今までなおざりにしていたんだ!」
「確かにそういえば、明治維新が成し遂げられるときに、西郷や大久保は、幕府軍と一戦することが必要だ、と説いていたというわよね」
本郷「うん。徳川がもう天下人ではない、と満天下に知らしめるために、それは必要だったわけだね」
「そうなると、関ヶ原の戦いのあとに家康が『特別な思し召し』で秀頼の命をたすけてあげた、という『東照宮縁起絵巻』の解釈も・・・」
本郷「うん。いろいろ政略的な駆け引きはあったにせよ、本質は間違っていないだろうね。家康はあそこで秀頼を殺してしまっても良かった。それができなかったわけではなかった。ただ、生かして置いた方が良いかな、という判断で生かしておいたにすぎない。秀吉と織田秀信の関係と同じでね。その意味で『東照宮縁起絵巻』は正しいんじゃないかな、やっぱり」

 

 

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