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【魏武注孫子】
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曹操は性格が悪い 否定できません
ガタガタ言ってないで合理的に行動しろよ。
そんな視点こそ、曹操が『孫子』にわかりみを感じた理由でしょう。
ついでに言いますと、「これは嫌われ者になるなぁ……」という要素もふんだんに流れています。
それを裏付ける逸話を検証してみましょう。
・効率重視、人情軽視
曹操には、お気に入りの歌手がいました。
しかし、性格は最悪。そこで曹操は歌手を大量に雇い、訓練をします。
そしてその女よりもうまい歌手が出て来ると……。
「おっしゃー、あの性悪女はもういらんわ!」
曹操はノリノリで、性格の悪い歌手を殺しました。(『世説新語』)
人を情けじゃなくて能力だけで見ているなーッ!
「さすが曹操様、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!」
そう受け取るか、「いやいや、いくらなんでもそれはないっしょ……」と思うか。
受け取る側次第ですよね。
・まぁ、お前は使えるから許す
「官渡の戦い」を前にして、曹操は激怒しました。
敵である袁紹陣営の文人・陳琳(ちんりん)の檄文があまりに痛烈であったからです。
曹操の出自をバカにする一文を読み、曹操はこいつだけは絶対にぶっ殺すと息巻いておりました。
その一方で「これを書いた奴、センスあるな。俺本人ですら、これを読んでいると曹操は最低の奴だと思えてくるわ」と冷静に評価していました。
そして曹操は袁紹陣営に勝利。
そんな中、陳琳はこれはもう絶対に死んだな……と思いながら、曹操の前に引き出されます。
と、曹操は意外にも彼を許しました。
「お前、文才あるなぁ。でも俺の父と祖父までコケにするのはやりすぎだろ、なんで?」
「いや、だって、引き絞った弓は放たないとダメじゃないですか」
曹操は納得したようです。
考えようによっては、陳琳は自分の仕事を適切にこなしたと言えなくもないわけで、曹操は陳琳を許し、仕官させ、優遇しました。
後に陳琳は文人グループ「建安の七子」に名を連ねたほどです。
曹操からすれば「恨みで降伏した相手を殺すなんて、無駄無駄無駄、非効率だもんな」といったところでしょうか。
ただ、これは儒教的な価値観からはイケてません。
先祖までけなした相手は、絶対に許さない。そのほうが、格好がつくのです。
しかし、曹操の本音はこんなところでしょう。
「儒教で勝てるか? 飯が食えるか?」
・葬式も立派な墓も無駄だ
曹操は、死の間際にこう言い残しました。
「天下はまだ乱れているのだから、葬儀はしきたり通りにはできない。埋葬が終わったら服喪をやめろ。軍団を統率している担当者は部署を離れるなよ。官吏はそれぞれ仕事をしろ。遺体を包むのは平服でよい。金銀財宝を墓の中にはおさめるな」
これも『魏武注孫子』を読むと頷けます。
勝利のためには、ともかく効率効率効率!
そんな風にばかり考えていたら、そりゃこうなるだろうな、と。
葬儀も墓もとにかく地味が一番!乱世の奸雄・曹操の墓はリアルに質素だった
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ただ……残された家臣や遺族の気持ちはどうなのよ……と、さすがにツッコミたくなりません?
情けってものがあるでしょ。そもそもが、儒教社会ですしね。
曹丕にせよ、家臣にせよ。
曹操の言いつけ通りには動けなかったからこそ、それなりに立派な墓が残されています。
副葬品には、当時極めて貴重である磁器まであり、2019年のビッグニュースになったほどです。
曹操さん、「後世に大事なコトを伝えるため」と考えると、副葬品は無駄じゃなかったんです……。
・求賢令! 才能さえあればいいから!
曹操は、ともかく効率重視にして人材マニアです。
そこで、こんな命令を出しました。
「才能があれば不倫しても贈収賄するようなクズでも俺は構わない。出世のために奥さんを手に掛けた鬼畜でもいいと思う。ともかく才能さえあればいいから! 才能ある奴、カモンカモン! 役人たちもどんどん推挙して」
これが【唯才是挙(才能さえあればリクルート)】という理屈です。
探す手間が省けるので効率は良い。
しかし素行不良であってもよいものかどうか、そこは引っかかりますよね。
『魏武注孫子』には
「パワハラをするような上司の元では部下がやる気を失って、反乱を招く。パワハラ上司はすぐクビにしろ」
と書かれています。
これは部下がかわいそうだからという優しさゆえではなく、効率重視の結果ではあります。
・三顧の礼より脅迫だろ!
そんな曹操が仕官を迫った人物が司馬懿です。
ライバル扱いされる諸葛亮が「三顧の礼」で迎えられたのに対し、司馬懿と曹操の場合は全くもって心が温まりません。
「仕官か逮捕か、どっちがいい?」と迫りますからね。
オイオイオイオイ!さすがにそりゃないでしょ、とツッコミたくなりますが、これも曹操の効率第一主義のあらわれでしょう。
ただ、そういうことをすると恨みを買うわけでして……それが魏王朝の短命につながります。
※司馬懿の王朝簒奪は『三国志~司馬懿 軍師連盟~』というドラマになりました
曹操のこうした逸話から見えてくるものがありませんか?
効率重視で、愛する王の前で斬首した孫子と共通点はありませんか?
ラスボスタイプの性格なのだ
曹操は、魅力的ではあり、同時に極めて効率重視なのです。
今の世でも
コスパ!
コスパ!
コスパ!
と言われてウンザリしたことありません?
曹操も効率を大事にしすぎていて、人情、儒教規範、道徳律、周囲の意見を無視する傾向にあった。
たとえ反論されようとも、「無駄無駄無駄ァ!」で終わらせるタイプ――ということが『魏武注孫子』から伝わってきます。
彼みたいなキャラクターは、例えばフィクションではラスボスにピッタリ。言わば憎まれ役ですね。
思い出してみてください。
◆反撃に対して「無駄無駄無駄ァ!」と連呼する『ジョジョの奇妙な冒険』のDIO様ことディオ・ブランドー。
◆謀略の限りを尽くし「計画通り」と笑う夜神月。
◆全て計算通り、操ってはなんだか楽しそうな、シャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授。
◆高い知性ゆえに人間がバカに見えてしまい、ミュータントで世界征服こそ効率的だという結論に至る、マグニートー。
◆極めて精密な計略を用いて、ハリー・ポッターを殺そうとするヴォルデモート。
◆ただの目玉のようで、すべてを操るサウロン!
◆「結婚式で皆殺しにする方が、戦争をするより楽だ」と思っていそうな、タイウィン・ラニスター。
曹操がノリノリでコメントする『魏武注孫子』を読むと、こういうラスボス系の性格が見えてきます。
「戦わずして勝つ」という有名な名言だって、結局は謀略で滅ぼしたほうがいいという、タイウィン・ラニスターの思考と噛み合う。
聡明、決断力がある、データと向き合う。
その反面、傲慢、人情に欠ける、なんでもジャッジする。
自然とそうなってしまうがゆえに、フィクションのラスボスとしてはうってつけの性格なのです。
倒したくなりますよね?
『三国志演義』はじめとする後漢時代を描くフィクションにおいて、彼が敵役となってしまうので仕方ない。必然なのです。
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