タイタニック号の描写で良く出てくるのが、金を渡して救命艇に乗ろうとする輩。
97年のディカプリオ映画ででも、そんなくだりがあったかと記憶します。
実はこれ、モデルとなった貴族夫妻がいるのです。
が、気の毒な事に、全くの事実誤認。事故後に生き残った夫人が、こうした誹謗に対して怒りをしたためた手紙が、このほどオークションにかけられました。
リバプール・エコー紙が報じています。(2015年1月12日付け)
准男爵夫人「酷いったらありゃしないわ」
怒りの手紙を書いたのはルシール・ゴードン。旦那さんのコズモ・ダフ・ゴードンは准男爵なので、貴族夫人となります。
で、この旦那さんともどもタイタニック号に乗り込み、例の大事故に遭遇するのですが、乗り込んだ救命艇には収容の余地があったのに、乗組員に「転覆してしまったらどうする」と言いつけて、事故現場で溺れる人を見捨てさせたとされています。
このネタは何度となく使われ、1997年の映画「タイタニック」でも出てきますし、2012年に英国のITVで制作されたミニシリーズでも取りあげられています。
しかし、実際はと言うと、そんな事をしていなかったと言うのですから、当事者にしたら怒り心頭。1912年5月27日付けで3枚に渡る手紙を書き残しているぐらいです。
余程腹に据えかねたのでしょう。こんな下りがあるぐらいです。
「私達が助かった事についてニューヨークから嬉しいとの電報を送って頂くなんて、貴方は何て親切な方なのかしら。帰路の際に英国に受けた待遇は、とてもじゃないけど、まともじゃなかったのよ!!!! 酷いったらありゃしないわ」
ビックリマーク、なんぼ付けてまんねん奥さん。
新聞には「マネーボート」と書かれ
事故原因の調査はアメリカで先に行われました。その後、1912年の5月2日から7月12日にかけて、英国でも事故調査委員会が開かれ、ナイツブリッジの自宅にも調査員が訪れていました。文面はこんな筆跡でした。
心無しか、筆跡が乱れている気が…。「心底ウンザリなの」って感じですね(苦笑)。
40人収容の救命艇に乗ったのは12人だけ
もっとも、突っ込まれる素地はありました。救命艇は40人まで収容可能だったのに、実際に乗ったのは12人でしかなかったからです。
その上、ルシール自身が当時の有名なファッション・デザイナーで、裕福な暮らしぶり(だからこそ、タイタニック号にも乗れたのでしょう)。やっかまれていた可能性があります。
ともあれ、当時のタブロイド紙には、こんな事が書かれたそうです。曰く、救命艇を漕ぐ乗組員に金を渡して早く漕ぐように命じた。その為、近海に溺れている人が助からなかった。
そして、記事には「マネー・ボート」との見出しが付けられました。
実際にはどうだったか。聴取から、夫妻は救援をしようとする乗組員を邪魔した節は無かったと調査委員会は結論づけています。しかし、救命艇が周回して乗客らを助ける事は出来たかもしれないとも見なしていたそうです。
つまり、話に尾鰭が付いて、気が付けばスキャンダルネタに化けていたという訳です。仮に現場海域から早く去ろうとしていた事が本当だとしても、巨大船が沈没する際には周りに浮かんでいる物体が巻き込まれて一緒に沈んでしまう現象は知られていますし、そのような判断が一概に間違っているとは言えません。
ルシールは、事故後もずっと否定的な報道をされたので、夫は傷ついていたと後に語っています。
「このような例のない内容を持つタイタニック号の著名な乗客の手紙は、滅多にお目にかかれません。あの悲劇の直後である事を思えば、特にそう言えます」とRRオークションのエグゼクティブ副社長であるボビー・リビングストン氏は話しています。
恨みと無念の詰まった手紙という所でしょうか。落札したら祟られるかもね?
南如水・記
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