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【『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』】
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クラブだ、祭だ! シェイクスピアを楽しもう!
イギリスの文化を語る上で欠かせないものといえば、クラブです。
シャーロック・ホームズの兄・マイクロフトが通う「ディオゲネス・クラブ」のことをご存じの方も多いことでしょう。
こうしたクラブは、なにも男性だけのものではありません。
シェイクスピア演劇を鑑賞する、「シェイクスピア・レディース・クラブ」もありました。
こうしたクラブ会員の要請に応じた公演もあったそうで、何とも楽しそうではありませんか。女性観客の熱気に感謝を述べた記録もあります。
なんだ、なんだ、シェイクスピアを支えた熱気は女性もあるんじゃないか!
そうワクワクしませんか。
熱気の頂点が、18世紀に開催された「シェイクスピア・ジュビリー祭」です。
シェイクスピアの生まれ故郷ストラトフォード=アボン=エイヴォンに、に会場が作られ、記念祭が開かれました。そこに女性たちも押し寄せたのです。
当時、ロンドンから馬車で2日間かかったこの場所。
それにもかかわらず、身分特定された204名のうち、46名が女性だったというのですから、驚きです。
しかも参加者は、コスプレもしておりました。
『マクベス』に登場する三人の魔女コスプレをしていた女性たちは、絵にまで残っております。うわぁ、楽しそうだ!
実はこのお祭り、上演はなし。
ともかくシェイクスピアファンが集まって、コスプレをして、盛り上がっていた場であったのです。
「なんだ、私たちと変わりがないんだね、ファン心理って!」
そんなふうに、ファンダムの楽しさを痛感できる方もおられるでしょう。
私もニヤニヤしっぱなしでした。
こうしたファンダムの活動は、軽蔑され、ミーハーだのなんだの、とかくバカにされるものです。
しかし、本書を読めば、開催者側だって無視できなくなっていたことがよくわかるのです。
女はそこにいて、盛り上げていたのです
戦場、歴史的な発言の場、文壇。
そこに女性がいたにも関わらず、無視されてきた歴史の場は実に多いと冒頭で書きました。
いたとしても、そんな女性は例外であり、変わり者。
いたとしても、そんな女性は浅はかで、イケメンにキャーキャー言っているだけ。
だから無視してよい……果たしてそうでしょうか?
本作が投げかけ、映し出す女性の姿と、その軽視ぶりを思えば、これは現在も続くことです。
北村氏も指摘している通り、俳優目当てでシェイクスピアを見る女性は、軽視されがちです。
歴史にせよそうで、女性の歴史ファンはそれだけで、
「イケメン武将が目当てなんでしょ? 歴女ってやつ」
と笑いものにされ、小馬鹿にされることもあるのだとか。
そういう見方が、いかに馬鹿馬鹿しく、くだらないものであるか。そのことに本書はきっちりと反論しているものでもあるのです。
どうして女性の姿が、シェイクスピア研究から排除されがちであったのでしょうか?
シェイクスピア本人が口上で女性観客を意識していたほどであるというのに。
興行側が女性観客を期待している構図だって、当初から現在まで変わりはないでしょう。
そして何と言っても、本書において「女性排除が愚かである」と明確に示しているのは、筆者たる北村氏その人です。
かつてレオ様のロミオに憧れた少女が、シェイクスピア研究者として、こんな素晴らしい一冊を出したこと。
これぞ、まさに反論として強力な一撃です。
イケメン俳優から入っても別によいじゃないですか。
その結果が、この素晴らしい一冊なのですから!
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書』(→amazon)