フランスで描かれた魔女像/wikipediaより引用

欧州

魔女裁判がとにかくヤバい「お前、ネコ飼ってるな」「はい」「魔女だ、死刑」「男ですが?」「死刑!」

迷信というのは恐ろしいものです。

一応それらしき理屈がくっついていることもありますが、特に科学が未発達だった時代は迷信こそが常識・正義とされていたことも多々ありました。

犠牲になったのはいわゆる”弱者”が多く、イヤな意味で何でもありだった中世ヨーロッパにおいては、身分ある人でもその呪縛に絡め取られてしまったなんてことも珍しくありません。

1435年(日本では室町時代・永享七年)、ドイツのアグネス・ベルナウアーという女性が魔女裁判で処刑されました。

これだけだと「ふーん」の一言で終わってしまう話なのですけども、魔女裁判というところにポイントがあります。
そちらの話から始めましょう。

 


ブラックすぎる中世の魔女裁判

中世ヨーロッパというと、RPGのモデルになっていたりして、ロマンある風景をイメージされる方も多いでしょうか。

実際はものすごく血生臭い時代です。
時代区分としては5世紀~15世紀くらいまでを指すことが多く、この頃のヨーロッパは「暗黒時代」とまで呼ばれていたほど大混乱の時期でした。

東西に分かれていたローマ帝国が両方ともポシャって、現在の諸国に繋がる国ができはじめたのはまぁいいとして、イングランドとフランスで百年戦争が起きるわ、スペインではレコンキスタが起きるわ、東のほうからはモンゴル帝国がペストというオマケつきで攻め込んでくるわ、これをカオス以外の何と表現すれば良いのかわからないほどです。

で、そんな混沌とした状態だったので、当然民心は落ち着きません。
さらに領主のさまざまな横暴が降りかかってくるのですから、時にはどころか常にストレスや恐慌状態のはけ口を探していたと考えていいでしょう。

魔女裁判
魔女狩り
これらはその最悪の一例です。

ちょっとでもアヤシイ・気に入らない・変わった言動の人がいれば、すぐに
「あいつがああいう行動をするのは魔女だからだ!やられる前にやっちまえ!!」
と村の人間が寄ってたかって私刑にするのが当たり前でした。

「裁判ってついてるんだから、ちゃんと聴取とかしてたんでしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは名ばかりの出来レース。

それどころか、苦しませるためだけの各種拷問や器具までさまざまな記録や現物が残っています。

この辺は事細かに書くと気分が悪くなってしまわれる方も多いかと思うので割愛しますね。

 


低学歴ニートで猫好きはアウト???

代わりに?”魔女”と決め付けられる言動の一例でも挙げてみましょうか。胸糞悪くなるのは同じですけど。

・猫を飼っている

・一人暮らし

・お婆さん

・ぼっち

・あまり教育を受けていない

などなど。

ワーワタシ,ハンブンイジョウ,ジョウケン,ミタシテルー(棒)

 


大雨は魔女のせいって、どれだけ魔力つよいんだ

ついでに「このあたりに魔女がいる!」とされた状況も書いておきましょう。
こっちも現代人からすると「ハァ?」としか言えませんが。

・大雨が降った

・地震が起きた

・授乳期の女性のお乳の出が悪くなった

・飼っている家畜が死んだ

などなど

これ、もし日本で適用したら、一定の年齢を超えた女性はほとんど魔女扱いされますね。

ちなみに、男性でもここに書いたような条件・状況が重なると、私刑の対象になることがあったそうです。

場所によっては男性が大多数というケースも。
もうムチャクチャってレベルじゃねーぞ!

魔女狩りの最盛期は16世紀ごろですが、ジャンヌ・ダルクが魔女の嫌疑で処刑されているように、15世紀の時点でそれなりの信憑性を持っていたようです。

ジャンヌ・ダルク
ジャンヌ・ダルクはなぜ処刑された?オルレアン包囲戦から最期の時まで

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犠牲者の一人アグネス・ベルナウアー

アグネス・ベルナウアーもこうした滅茶苦茶な裁判の犠牲者でした。

彼女はドイツ南部のアウクスブルクという町で裕福な商人の家に生まれたのですが、領主であるバイエルン公家の御曹司アルブレヒトに見初められて結婚します。

亡くなった時点でも25歳くらいだったそうです。
肖像画を見るとヨーロッパには珍しいあっさり系の美人で、一目惚れするのも無理はありません。

アグネス・ベルナウアー/wikipediaより引用

しかし、いかに裕福とはいえ、商人と貴族ではいわゆる”身分違い”。
当人同士は良くても、当時の上流階級からすれば非常識な結婚でした。

特に腹を立てたのが当時のバイエルン公=アルブレヒトの父親で、アグネスになんやかんやとイチャモンをつけます。
それでも若い夫婦は決心を変えず愛を貫いていましたが、父親のほうが先にブチキレてしまいました。

「あの女は魔女だ! 息子は魔法でたぶらかされているに違いない!」というわけです。

おかしいのは息子さんじゃなくてアンタの思考回路だってばよ。

 


ドナウ川に突き落とされる刑

当時の世間は皆父親と似たようなものだったので、哀れアグネスは、アルブレヒトの留守中に裁判という名の難癖をつけられ、ドナウ川に突き落とされて溺死させられてしまいました。
誰かハンムラビ法典持って来い。

処刑されるベルナウアー/wikipediaより引用

せめてもの慰めは、後年になってアグネスを哀れんでくれた人が出てき始めたことです。

19世紀には彼女を主人公とした戯曲が作られ、20世紀にはフランスでアグネスをモデルとした映画も作られています。

さらに地元・バイエルンでも、毎年彼女を偲んで野外劇を含んだお祭りが開かれているそうです。

”アグネス・ベルナウアートルテ”というまんまな名前のケーキもあるとか。
トルテとは丸型で焼いた後にクリームなどで装飾したケーキのことなのですけども、こちらはコーヒー風味のクリームを使ったケーキだそうです。うまそう。

悲劇をコーヒーの苦味で表現しているということですかね。
どうせならアルブレヒトという名前のお菓子と合わせると相性バツグンとかにしてあげたらいいんじゃないかと一瞬思いましたが、全ドイツのアルブレヒトさんがビミョーな気分になるからダメなんでしょうか。

現代でも誰かを吊るし上げてアレコレ言うのを”魔女狩り”といいますけども、現実のものに比べたらまだマシなほうですね。

とはいえ、一個人に全責任を押し付けてフルボッコにするのは大人のやることではないと思いますが。

長月 七紀・記

【参考】
アグネス・ベルナウアー/wikipedia
魔女狩り/wikipedia


 



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