2018年大河ドラマ『西郷どん』で、
「薩摩ことば(鹿児島弁)が難しくて理解できない」
というのが話題になっています。
そこで唐突ながら、手元の本を参照にしつつ、薩摩言葉の特徴をまとめてみたいと思いまして。
むろん私もネイティブではなく、様々な間違いがあるでしょう。
あくまで薩摩ことばを知らないヨソ者が、どうにかして
「ここを押さえればわかりやすいのでは?」
とまとめた記事になりますので、地元の皆さまからご助言がいただければ幸いです。
※鹿児島弁での「桃太郎」を聞くと、ドラマ『西郷どん』の言葉遣いがかなりマイルドであることがわかります
「ともかく発音を短縮する」
薩摩ことばについて調べていて、これは難しいのも納得できると思った特徴がありました。
「ともかく発音を短縮する」
一つ目は、『西郷どん』冒頭の台詞で既にあらわれていました。
西郷隆盛の銅像を見たときの岩山糸・西郷糸子(黒木華さん)の台詞です。
「ちごっ、ちごっ!」
これは“違う”という意味ですね。
「ちがう」を短縮して「ちごっ」にしていると。
“違う”が“ちごっ”はまだわかりやすいほうで、全体的には中々厳しいものがあります。
例:
・塩梅(あんばい)→あんべ
・妹(いもうと)→いもっ
・動く(うごく)→うごっ
・ぶったたく→うったくっ
・いらっしゃいますか→おじゃっすか
・兄弟(きょうだい)→きょで
・軽石(かるいし)→がいし
・大根(だいこん)→だこん
・向こう臑(むこうずね)→むかすね
・不調法(ぶちょうほう)→ぶちほ
難しいです、ハイ。
妹とか兄弟なんかは、今後も出てきそうですね。あるいは「いらっしゃいますか」なんかも。
ここは「ともかく短くするんだな」と意識すると、少しわかりやすくなるなぁと思いました。
「一つの単語に複数の意味をもたせる」
もう一つ、これは厳しいと感じたのは、
「一つの単語に複数の意味をもたせる」
ということです。
“あめ”という日本語には、“飴”と“雨”、両方の意味があります。
イントネーションの違いで区別できることもありますが、前後の流れから推察するほうが簡単です。
これが薩摩言葉ではさらに難しくなります。
例えば“へ”の場合、
“屁”(へ)
“灰”(はい)
“蠅”(はえ)
という三種類の意味があるんだとか! うーむ……。
他にも、こんな調子で
例:けけけけ。
意味:貝を買いに来い。
って、さすがにこれは……。ヨソの人からすれば、笑い声にしか聞こえないでしょう。
そういえば関東の人は、鹿児島だけでなく九州全体の言葉が、東北の言葉に思えてしまうときがある――と聞いたことがあります。
それはむしろ言葉ではなくイントネーションの特徴が似ていると感じるそうですが、もしかしたら東北地方でも短縮した言葉が多いので、似た雰囲気に思えてしまうのかもしれませんね。
では、ざっと同音異義語を見て参りましょう。
例:
・け:買うor貝or来る
・うごっ:たくさんor動く
・つっ:次or父or唾or粒
・づっ:おでこor先端
・で:台or代or題or礼
・でっ:大工or大豆or台木
・とっ:飛ぶor時刻orトンビorたこor温泉
・みっ:右or水or道
・よっ:欲or斧or集まるor近寄るor夜着
前述の「短縮する」という特徴とあいまって、短い単語で同じ音から始まるものがことごとく重なるというわけ。いやぁ、これは大変です。
ちなみに、「茶碗蒸し(むっ)」を「茶碗についた虫(むっ)」と勘違いして恥ずかしいという内容の、「ちゃわんむしの歌」という俗謡があります。
鹿児島県では知らない人はいないと言われるほど有名なんだそうです。
字幕表示で難易度が劇的に下がる理由
あまりの難しさに、心が折れそうになる人がいるかもしれませんが、ご安心下さい。この性質を理解さえすれば、薩摩言葉の難易度をグッと下げることができるのです。
ここで登場するのが、テレビの字幕。
「字幕にしても薩摩言葉だし!」という意見もあることでしょう。
しかし、考えてもみてください。
実際に字幕機能をONにすれば、こうなるわけです。
字幕なし:でこんけぇ。
字幕あり:大根買ぇ。
字幕なし:けけけぇ。
字幕あり:貝買来ぇ。
漢字が入って劇的に難易度が下がりますよね! これなら、なんとかなるのではないでしょうか。
薩摩ことばの魅力
『西郷どん』の低視聴率の理由に、薩摩ことばをあげるニュース記事をよく見かけます。
確かに難解ではありますが、もしこれが標準語であったらきっと伝わらないような、暖かく力強い、そんな魅力があると思います。
それこそが放言の魅力ではないでしょうか。
私の場合、前述の2つの特徴を意識して、思い切って字幕をオンにしたところ、ぐっとわかりやすくなりました。
皆さんも是非、おためしください!
文:小檜山青
※郷土文芸「さつま狂句」の投稿コーナーには薩摩ことばの魅力が詰まっています→リンク先
【参考文献】
『増補改訂版 かごしま検定―鹿児島観光・文化検定 公式テキストブック―』(→amazon)