幕末・維新

日本古来の走法・ナンバ走りを映画『サムライマラソン』に学ぶ!

先週2月22日(金)に封切りされた映画『サムライマラソン』を見て参りました!

1855年に行われた日本初のマラソン大会「安政遠足」を題材に用いた映画。
「史実に基づき!」とありますが、割とファンタジーな部分もあり、アクションと映像美、特に『サムライが走る姿』を楽しむのが良いと思います。

そんなワケで今回は、体育の成績がどん底だったわたしが「ナンバ走り」について考察いたします!

 


マラソンで藩士を鍛えて日本を守るぞ!

まずネタバレにならない程度にストーリーを紹介しますと……。

時は幕末。
大老・五百鬼はペリーと会談するシーンからはじまります。

五百鬼はおそらく井伊直弼でしょう。
悪役要素があるためか。ナゼか彼だけ本名ではなく、妙な仮名になっています。
ペリーとの会見シーンは雰囲気があって、呑み込まれます!

そんな黒船到来のニュースは各地に伝わり、一報を受けた上野国安中藩主・板倉勝明は
「ペリーの目的は日本侵略に違いない! 日本と藩を守るべく藩士を鍛えるぞ!」
として15里の遠足(マラソン大会)を思いつくのです。

ちなみに板倉勝明は実在の人物。
学問を奨励し、自らも著書を残し「学者藩主」と称される一方、西洋軍政の導入や杉の栽培など積極的な藩政改革を行ったお殿様です。

 


「幕府への謀反」と見なされ、刺客が放たれ!?

このマラソン大会、優勝者には褒美として「殿様が望みを聞いてくれる」という特典がありました。

そりゃあ、みんな盛り上がります。
ドサクサに紛れて、絵を勉強したいおてんば姫さまが脱藩を試みるというおまけ付き。

しかーし、ちょっとした手違いから、このマラソン大会が「幕府への謀反」と見なされ、五百鬼から和製ジャック・スパロウみたいな外見の刺客が放たれさぁ大変!

どうなる安中藩!
どうなるマラソン大会!

というのが大筋で、主役の佐藤健さんにはじまり、脇を固める長谷川博己さんや豊川悦司さんなど、癖のある役者さんたちが血なまぐさいシーンを熱演する中、ホッと一息、癒しを与えてくれるのが竹中直人さんです。

彼が演ずる「栗田又衛門」は隠居を宣告された腰痛持ち。そんな又衛門も「マラソン大会」への出場を決めます。
亡き親友の息子が「父のような立派な武士になるために出場する」と聞いたのがキッカケでした。

そこで又衛門が伝授するのが「ナンバ走り」という走法なんですね。

 


関節への負担が少なく、長時間の作業が可能

「ナンバ歩き」や「ナンバ走り」というのは昔の日本人の歩行法です。

右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して前に進む歩き方――そう認識されている方もいるかもしれませんが、ちょっと違うようで。

正解は「手を振らない歩行法」となります。
完全な再現が難しく諸説あるようですが、もし手を振るとしたら右手右足、左手左足の同側が同方向を向く歩き方になります。

ナンバ歩きの利点は身体の捻りを抑えるので、関節への負担が少なく、長時間の作業が可能となるそうです。
農作業のように腰を落として行う作業にはナンバの動きが不可欠だったのですね。

また着物が着崩れない利点も挙げられます。

つまり「ナンバ歩き」は特殊な歩行法ではなく、一般的な歩き方。
そもそも「ナンバ歩き」という名称は後世につけられたものなのです。

語源は、
・南蛮
・大阪の難波
・鉱山の滑車
・田下駄
・歌舞伎の所作
など諸説ありますが、当時はフツーの歩き方だったわけで(特殊に訓練された動きだった説もあります)。

となると、映画『サムライマラソン』の又衛門が子供に「ナンバ歩き」をわざわざ教えるのはナンセンスになりますが、江戸時代、走るのは飛脚、籠を担ぐ人など特殊な職業に限られておりました。

その意味で「走り」を教えることに意味があったのかなぁと。

明治時代に入り、現在の西洋式走りが広まるとナンバ走りはいったん姿を消します。
そしてその後の研究で、ナンバ走りの飛脚が日に四十里(約155km)とか五十里(約195km)を走ったことが分かると、ナンバの動きが注目され、スポーツなどに応用した本が出版されております。

※さすがに一日155kmは難しい気がしますが……

 

何故か走りたくなる

これを念頭に置いて映画を見てみましょう。
竹中直人、ナンバ走りしていますね!

あれ……主人公が脇差しに手を添えて腕を振らずに走ってきた……これぞナンバ走りです。

こうして見ると登場人物はナンバ走りだらけなわけですが、それが何とも美しい。
そう、これはサムライが懸命に走る姿を堪能する映画なのです。

最後まで見ると何故か走りたくなる――そんな映画でした。

文/馬渕まり(忍者とメガネをこよなく愛する歴女医)
本人のamebloはコチラ♪

【参考】
Wiki 安中藩/板倉勝明
ナンバ走り 古武術の動きを実践する 矢野龍彦 金田伸夫 織田淳太郎 光文社新書
ナンバの身体論 身体が喜ぶ動きを探求する 矢野龍彦 金田伸夫 長谷川智 古谷一郎 光文社新書
ナンバ歩きで驚異のカラダ革命 甲野善紀 株式会社立風書房

出演:佐藤健 小松菜奈 森山未來 染谷将太
青木崇高 木幡竜 小関裕太 深水元基 カトウシンスケ 岩永ジョーイ 若林瑠海/竹中直人
筒井真理子 門脇麦 阿部純子 奈緒 中川大志 and ダニー・ヒューストン
豊川悦司 長谷川博己
監督:バーナード・ローズ
原作:土橋章宏「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫)
脚本:斉藤ひろし バーナード・ローズ 山岸きくみ
企画・プロデュース:ジェレミー・トーマス 中沢敏明
音楽:フィリップ・グラス
衣装デザイン:ワダエミ
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/
©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON




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