今回から『信長公記』巻三、元亀元年(1570年)の話に移ります。
同年2月〜3月上旬頃の出来事になりますので、日付を見ながら進めて参りましょう。
2月25日
信長が上洛のため岐阜を出発し、赤坂(岐阜県大垣市)に宿泊
26日
常楽寺(滋賀県湖南市)に到着、数日滞在
3月3日
近江中の力士を常楽寺に集め、相撲大会を開催!
おそらく、この相撲大会の準備のために滞在したのでしょう。
行司は木瀬蔵春庵という者が務めました。
我も我もと、多くの力士が集まり、なかなかの激戦となったようです。
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優秀な力士を採用して軍を強くせよ
このころ織田家では、既に木下秀吉(後の豊臣秀吉)が一軍の将として活躍するようになった後のことです。
ゆえにドコかでその話を聞いて
「木下殿のように信長様の目に留まれば、俺もいつか侍大将になれるかも」
と、希望を抱いた者が多かったかもしれません。
中でも、鯰江又一郎と青地与右衛門という二人が勝ち残り、良い取り組みを見せたので、信長が召し抱えて「相撲奉行」に任命しています。
これはただ単に遊びで作った役職ではなく、腕の立つこの二人に
「お前たちの目から見て優秀な力士をガンガン採用して、ウチの軍を強くしろ」
ということでしょうね。
尾張や美濃は落ち着いたものの、近畿辺りはまだまだキナ臭い地域が多く、戦は加熱していく一方でしたから。
また、他にも深尾又次郎という者が技能的で面白い取り組みを見せたので、褒美として衣服が与えられました。
特別賞・努力賞ってところでしょうかね。
なお、当時の相撲は「武家相撲」と呼ばれ、身体を鍛えることが重要な武士にとっては非常に重要だったのです。
ゆえに相撲を推奨している地方大名も多かったですが、その中でも信長は突出しておりました。
軍強化だけでなくイベントも兼ねていた
信長がどれほど相撲好きだったか?
というのは以下に詳しい記事がありますので、要点だけかいつまんでご説明申し上げますと……。
日本史上No.1の相撲好きは信長!趣味が高じたイベントに参加者1500人
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正確な回数こそ把握できないものの、信長は元亀元年(1570年)から天正9年(1581年)までの間に、何度も相撲大会を開いていた記録が残っております。
その目的は次の通り(上記の記事より引用)。
・力自慢の者をスカウトできる!
・神事であるから邪気を祓うことも期待できる!
・興行を皆で見ることで盛り上がって楽しい! 福利厚生の一環にもなる!
・派手なイベントを開催することで、実力を見せ付ける!
強い者を集めるという実践的な一面と、エンタメ要素を含んでいたのですね。
合理的な信長らしいと申しましょうか。
そもそも彼が「うつけ者」と呼ばれたのは、こうした荒ぶるエンタメを率先して行い、蹴鞠やお勉強などの貴族的教養を避けていたからとも言われております。
相撲だけでなく、乗馬や水泳など。
身体を鍛える、武芸を鍛えることを常日頃から行っておりました。
現代のヤリ手社長たちがジムで汗を流すのと同じかもしれませんね。
一国の大将たるもの、自らが動けなければ、配下の武将たちも付いてこなかったかもしれません。
ちなみに源頼朝も、相撲を愛していたことで知られます。
京都の医師宅に滞在
5日
相撲大会を終え、京都に到着。
今回は上京の半井驢庵という医師の家に滞在しています。
医師といっても、彼はただの町医者ではありません。
半井家は、朝廷の一機関・典薬寮のトップ・典薬頭を務めていた家柄です。
先祖を遡ると、なんと奈良時代の和気氏に行きつくのだとか。
宇佐八幡宮神託事件で有名な和気広虫・清麻呂姉弟の家です。
この二人と事件については、それぞれの記事をご参照ください。
和気清麻呂が道鏡のせいで「別部穢麻呂 わけべのきたなまろ」に改名させられて
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当時の皇室や公家に余裕がないとはいえ、信長が宿所にできる程度の屋敷は持っていたでしょうね。
近郊地域の大名・武将や、徳川家康も続いて上洛し、ここへやってきて信長にあいさつをしていったため、「大変賑やかになった」と、信長公記には書かれています。
半井家の人たちも、連日の応対で大変だったでしょう。
長月 七紀・記
※信長の生涯を一気にお読みになりたい方は以下のリンク先をご覧ください。
織田信長の天下統一はやはりケタ違い!生誕から本能寺までの生涯49年を振り返る
続きを見る
なお、信長公記をはじめから読みたい方は以下のリンク先へ。
◆信長公記
大河ドラマ『麒麟がくる』に関連する武将たちの記事は、以下のリンク先から検索できますので、よろしければご覧ください。
麒麟がくるのキャスト最新一覧【8/15更新】武将伝や合戦イベント解説付き
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【参考】
国史大辞典
『現代語訳 信長公記 (新人物文庫)』(→amazon link)
『信長研究の最前線 (歴史新書y 49)』(→amazon link)
『織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで (中公新書)』(→amazon link)
『信長と消えた家臣たち』(→amazon link)
『織田信長家臣人名辞典』(→amazon link)
『戦国武将合戦事典』(→amazon link)