歴史ドラマ映画レビュー

ヒトラーに毅然と抵抗して処刑~ドイツ女学生の映画『白バラの祈り』

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白バラの祈り
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信じたいことしか信じないという罪

ゾフィーら白バラメンバーは、人民法廷に立たされます。

法廷とは名ばかりで、ゾフィーたちは判事のローラント・フライスラーに罵倒の限りを尽くされます。

「我が国のおかげで学べる大学生の分際で、反逆するとはお前たちは寄生虫だ!」

そう罵倒される三人。

しかし、寄生虫と罵られているゾフィーの兄ハンスらは、戦線で祖国のために戦ったこともあるのです。

ハンスが、ドイツ兵が女子供を殺すことを前線で見た、耐えがたかった、と告発すると、年老いた裁判官は口を極めて罵ります。

「嘘をつけ!」

この構図のおかしさとグロテスクさ。

実際に戦場に立った兵士の証言を、戦場に立つことはないフライスラーが嘘つき呼ばわりし、寄生虫と罵っているのです。

事実や真実なんて関係ない。信じたいことしか信じない。

そして信じたくない真実を突きつけられた時、相手こそ嘘つきだと罵倒する。

これは70年前のドイツ人民法廷だけではなく、現代も世界中で溢れている光景。

ある意味、人の真理かもしれません。

 

ゾフィーは告発する

裁きとも言えぬ場を経て、ゾフィーたちは処刑へと向かいます。

かっちりと制服を着こなし、ほぼ無表情である看守すら、彼女らに同情や敬意のようなものを垣間見せます。

両親と最後の抱擁をすませ、涙ぐむゾフィーを見送るムーアの表情は複雑です。

娘のような年頃の女性が死にゆくことへの哀惜か。

それともゾフィーに告発されて己の偽りと罪を悟ったのか。

ゾフィーのまっすぐなまなざしは、見る者を告発してきます。

「あなたは本当に知らないのか? それとも知らないふりをしているのか? 目を見開いて真実を見ようとしているのか?」

ゾフィーは法廷でこう言いました。

「いつかあなたがここに立つわ」

彼女の言葉は、法廷の面々にだけ投げかけられたものでしょうか。

彼女の人生そのものが、良心に背く者につきつけられた告発のように思えるのです。

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著:武者震之助

【参考】
『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』(→amazon

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