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【秀吉の虚像と実像】
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関白秀次
2016年大河ドラマ『真田丸』でも準拠した、豊臣秀次が突発的に切腹してしまった説を、本書では実像としています。
虚像は早い段階からふくれあがったわけですね。
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そこには政治的な意図、秀吉の行動を正当化する意図が見えてきます。
さらにおもしろいのが、秀次の死に殉じた妻妾たちが出てくる怪談を取り上げている点です。
とりわけ悲劇的な状況で亡くなった最上家の駒姫は、早い段階からヒロインとして選ばれていたことがわかります。
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世相が反映される「文禄・慶長の役」
世相が反映されるといえば「文禄・慶長の役」です。
江戸時代は愛児・鶴松の夭折に悲嘆するあまり、発作的に出兵をするという、不可解きわまりない狂気の発作のような扱いをされてきました。
ところが時代がくだるにつれ、水戸学の中で英雄的な壮挙とみなされるようになりました。
さらに幕末になると、ペリー来航以来の攘夷思想によって、ますますこの外征が評価されてゆくことになります。
そうなると、愛児の死をきっかけという動機も変わっていきます。
幕末を経て明治、大日本帝国の拡張期には、その版図拡大に先鞭を付けたものとして賞賛されました。
太平洋戦争の敗北後、こうした見方はまた消滅します。
最近、主にインターネット上で“文禄・慶長の役”は「アジアへの進出を狙っていたスペインを倒すためのものだった」という説が見られるようになりました。
史実根拠は極めて薄く、誰がそう書いているかの出典すらハッキリしません。
これもまた現在の世相を反映し、願望がこめられた説なのでしょう。
現代人の心情をも反映した虚像の部分も
歴史というのは結果が定まった過去のことであり、不変のものだと思われがちです。
しかし実際には、その当時の世相が求めた像が反映されます。
時代によって変わる秀吉やその周辺人物の像からは、そこに託された人々の願望がわかります。語り継がれてゆく過程で、歴史というのは、人の願望や時代を写す鏡のようなものなのでしょう。
本書は秀逸な一冊です。
秀吉に関する歴史を学ぶだけではなく、どの歴史上の人物や事件にも「虚像」という鏡があると読者に知らしめています。
2016年の大河ドラマ『真田丸』では、秀吉の期待に応えられず押しつぶされる秀次像、家を守るストレスによって精神の均衡を失う淀の姿が描かれました。
彼らの背後には、強大で情け容赦ない秀吉がいました。
視聴者はそうした描き方に共感をおぼえ、現代人が直面するパワーハラスメントやストレス問題をそこに見いだしていました。
『真田丸』は、実像にかなり近づけて描いた作品です。それだけではなく、現代人の心情をも反映した虚像の部分もありました。
その虚像という鏡に映されていたのは、パワハラ体質の上司やストレスに押しつぶされてあえぐ、21世紀の日本人の姿ではなかったでしょうか。
そんなことを本書を読み、感じたのでした。
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文:小檜山青
【参考】
堀新/井上泰至『秀吉の虚像と実像』(→amazon)