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ゴールデンカムイ尾形百之助と花沢勇作を考察~悲劇的で耽美な兄弟よ

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母は、父は、百之助を愛していたのだろうか?

父母の愛が欠落していたから、ああも歪んでしまった――そう尾形が語ったようで、冷静に考えてみましょう。

母を殺害した際、尾形はまだ子どもの頃のこと。父母の本心を極めて単純化して考えていた可能性はあります。

父が母の葬儀に来られなかったのは、再婚相手である現在の妻を尊重してのことかもしれない。

もしかしたら、そっと遠くから葬儀を見守っていたのかもしれない。

金一封くらい送っていたのかもしれない。

母にせよ、生きてもっと歳をとっていたら、しみじみと浅草芸者として愛されたころの思い出話を語ったかもしれない。

母がそこまで父を憎んでいなかったと思わせる場面が、最終巻の回想でやっと明らかになります。彼女は我が子を寝かしつけながら、父のような立派な将校さんになるよう、語りかけていたのです。

何より尾形は、父と同じ陸軍将校になりたかった。

欠けていた自分がそうなることで、復讐を果たしたいと語りますが、果たして本当にそうなのか?

幼い頃、母に語りかけられた、父のような立派な人物になれという願いに沿っていただけでは?

そう考えてくると、尾形百之助はむしろ素直で善良な、明治の青年に見えてきます。

軍人さんになって国に尽くすことは、当時の立派な青年の望みです。

道を踏み外した明治の青年たち――その例として上エ地圭二(うえじけいじ)がいます。

彼の父は、箱館戦争でも勲功のある立派な軍人であり、勝ち組に入る優秀な家に生まれました。

それがひねくれて殺人犯になる。嘘をつき、周囲を失望させることが行動原理になる。

本当に父を疎んじていて、憎み、嫌っていたら、そういう道もあったかもしれない。

そこまで堕落せずとも、明治人にはリセットする手段があります。それこそ大陸でも台湾でも樺太でも、自分の生まれなんて誰も気にしない場所に行く道はあった。

そうせずに、むしろずっと父母の影がちらつく場所にいた尾形は、実は両親が好きだったのでは?と思えます。

そんな敬愛する花沢幸次郎と尾形の対面は、父側が腹を刺されて死にかけています。そんな状態で、あたたかい言葉を聞けるわけもなく……。

尾形は、大事な誰かから愛される可能性を自ら先んじて潰してゆきます。

 


アシㇼパの瞳に照らされ、勇作の亡霊があらわれる

鶴見に造反し、杉元たちと行動を共にしていた物語前半の尾形――それが一変するのが、網走監獄襲撃の夜です。

このとき尾形は、杉元の頭部を射抜き、ウイルクを殺しました。

キロランケと合流した尾形は、アシㇼパを連れて樺太へ向かいます。

尾形に頭部を撃たれた杉元は回復し、キロランケたちを追いかけて樺太へ。

この樺太編の筋書きそのものにダマシがあったとも言えます。

アシㇼパと行動を共にするようにあってから、尾形の前には異母弟である勇作の“幽霊”が彷徨うようになりました。

そして尾形は、勇作と共に遊郭へ向かった日のことを思い出します。

兄弟はともに悪さをする。童貞を捨てるようにと促すものの、勇作は断固として断って去ってゆきます。

この回想場面にも、尾形の潔癖性が見られます。

勇作が去って偽装が終わると、絡みつく遊女の手をそっけなく払いのけました。

もしも尾形が父への当てつけのような人生を歩みたいのであれば、ちゃっかりと遊女と戯れても良さそうなところ。作中で好色さを描かれている牛山や白石ならば、確実にそうしていたでしょう。

実は尾形は生真面目では?

堅物なのは弟だけでなく、兄もそうなのでは?

樺太編では、尾形とその周囲の反応を示唆する場面が、杉元一行でも起こります。

尾形が嫌いな鯉登は、尾形は「山猫の子は山猫」と蔑む。客と寝る芸者を山猫と呼ぶスラングから、そう罵ったのです。

このとき注目したいのは、鯉登ではなく、それを聞いている他の者たちの反応です。

杉元はくだらないと一蹴し、谷垣や月島ですら、むしろそんなふうに蔑む鯉登に反発しているように思えます。

果たして軍隊内において、尾形の出生を蔑む者だけだったのでしょうか?

尾形を決定的に変えるのは、樺太編のラストです。

アシㇼパから刺青人皮を解く暗号を聞き出そうとし、彼女を騙すことに失敗。

このとき尾形は嘘をつこうとしてできず、杉元の好物として自身が好む「アンコウ鍋」と答え、咄嗟に思いついた女性名として母の名である「トメ」をあげています。

実は不器用でした。

尾形は、アシㇼパに自分を殺すように挑発するものの、彼女は殺そうとしません。

これを見た尾形は、お前のような奴らは存在してはならないと激昂。

アシㇼパは咄嗟に矢を放ってしまい、右目にこの矢が当たってしまいます。

狙撃手として隻眼になることは、かなりの戦力低下を意味します。

しかし、問題はそれだけではありませんでした。

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