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【司馬遼太郎が描かなかった幕末】
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「功山寺決起」はおかしい?
こうした司馬遼太郎のテクニックに騙されて、そしてがっかりする程度ならば害はありません。
本書はそれだけではすまない現象も記しています。
その一例が【功山寺決起】です。
元治元年12月15日(1865年1月12日)、高杉晋作が挙兵した事件であり、実際の挙兵地は下関の馬関なのですが、どういうわけかそれがいつの間にか長府の功山寺でのことにされていきました。
現在はどちらも下関市に入りますが、当時はまったく別の町でした。
そしてとどめが、ベストセラー『世に棲む日々』での章タイトルに「功山寺決起」と使われてしまったことだ、と筆者は指摘します。
この作品の発表後には立派な晋作の銅像まで造られてしまったわけです。
これは司馬遼太郎だけが悪いわけでもなく、歴史と観光に結びつけたい各地で陥りかねない現象ではあります。
観光客が楽しみたい歴史と、実際の歴史をどうすりあわせるか。
難しい点です。
司馬作品への思いがクールダウンされども
本書を読み終えたあとの気持ちというのは、複雑です。
よい読書体験だったという気分もあれば、好きなものの実像を知ってしまった虚しさもあります。
そういえば『竜馬がゆく』を読んだとある人が、
「竜馬に私と寝たらスポンサーになってあげる、って持ちかける金持ちマダムいるじゃん。なんか『島耕作』に出てきそうだよね」
と言ったことを思い出してしまいまして……。
聞かなかったことにしたかったのですが、本書を読んだらなぜか再びアタマの中に蘇ってしまい、心が冷え冷えとしたものです。
なんだか司馬遼太郎を貶めてしまうようなレビューになりましたが、本書も私の意図も、そう単純なものではありません。
歴史の魅力、可能性を大きく切り拓いたという点では、偉大な作家であることは間違いなく、多くの歴史ファンが司馬遼太郎から旅立ちました。
そして様々な史実に触れ、日本の歴史もまた成長していったハズです。
幕末史の復習にも、おすすめの一冊です。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰、龍馬、晋作の実像 (集英社新書)』(→amazon)