江戸時代

「犬のお伊勢参り」が江戸時代に意外と流行っていたってマジかよ!

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犬のお伊勢参り
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犬の次は牛や豚 ただし猫は記録に残らず

この記録のあと、犬の伊勢参りの話は伝聞として、あるいは目撃談として記されます。

首に木札をつけ、出身地と飼い主の名前をつけると、伊勢に参拝して戻って来るのです。

犬は、行く先々で路銀を首にくくりつけてもらいました。

人々はたとえ犬であっても、いや犬だからこそ、伊勢参りであれば邪魔をしないのです。

そんなことをしたら罰が当たると考えていたのでした。

餌を与えて路銀を恵む。かくして親切のリレーで伊勢にたどりつき、往復ができるのです。

伊勢参りをする犬は、白い犬がほとんどでした。

日本では伝統的に、白犬は神聖であるとみなされていたのです。

イヤイヤ嘘でしょ、ありえないでしょ、と思うかもしれません。

しかし犬の帰巣本能は大変優れていますし、十分にありえることではないでしょうか。

当然ながら、伊勢への参拝者が一緒に歩き、先導していったのではないか、ということも考えられます。

現代も盲導犬、介護犬、探知犬、ありとあらゆる犬がいます。

犬の知能をもってすれば、人の協力があれば、伊勢参りは可能だったのでしょう。

犬の伊勢参りは、全国的なブームになりました。遠いところですと、なんと津軽と伊勢を往復した、という記録も。

そうなると、犬の参拝は記録するほど珍しいことでもなくなってきまして。

「これはレアケース!」として新たに記録されるようになったのは、豚と牛の伊勢参りです。

いやいや、コントやろ……と口をアングリさせたくもなりますが、豚や牛の知能も犬に匹敵するとされています。

ありえないことでもないのでは……。

ただし、猫の参拝は記録に残っていないとか。

これもなんだか納得できるような。

 

悲しき失敗例もありまして

もちろん、失敗例もあります。

伝言ゲームをしながら、すごろくのように犬を進めていくわけです。

道中のチェックポイント同士のやりとりが失敗したり、札が判別できなくなってしまったりすると、迷い犬になってしまいます。

路銀をつけた犬を見て、よからぬことを企む輩もいたようです。

参拝をするような忠犬を手に掛けるというのは、神罰がありそうでちょっと怖いですよね。

しかし、世の中にはそんなことを気にしない人もいました。

失敗した犬のその後を想像すると、なんとも胸が痛みます。

 

日本人と犬のゆるやかな暮らしがあった

犬の伊勢参りが成立した背景に、江戸時代における日本特有の、人と犬のなごやかな暮らしがあります。

もし今、犬がリードもつけずにふらふらと街中をうろついていたらば?

保健所へ連絡されてしまう可能性も否めないでしょう。

ところが江戸時代の場合、首輪も、リードも、個人の所有権すらない犬がいたのです。

現在でいうところの「地域猫」のような飼育方法で、集落単位で所有権がありました。

このような犬の飼育方法は、「里犬」と呼ばれていました。人々は、犬が往来をうろうろしている光景に慣れきっていたのです。

これが変わったのが、明治維新以降でした。

首輪とリードをつけ、主人と一対一で飼育される西洋犬を見た人々は、「里犬」は非文明的だと考えるようになりました。

「里犬」は治安、街の美化、狂犬病予防といった名目で駆除されたのです。

日本固有の犬種が激減、あるいは絶滅にまでおよんだのは、そのような変化が背景にありました。

かくして明治の文明開化とともに、終焉を迎えた犬の伊勢参り。

明治時代、西洋犬を見た人はその賢さに驚いたと言います。

しかし現代からすれば、伊勢参りをする日本の犬たちも、かなり賢く素晴らしい資質を備えていたと思えるのです。

忘れてしまうにはあまりに惜しい、犬の可能性を示した話ではないでしょうか。

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文:小檜山青

【参考文献】

『犬の伊勢参り (平凡社新書)』(→amazon

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