南方熊楠

南方熊楠と弟子の小畔四郎/wikipediaより引用

明治・大正・昭和

天才か奇人かギフテッドか~南方熊楠の人知を超えた記憶力と生涯

「天才とバカは紙一重」なんて言葉があります。

実際は、天才の言動が常人に理解できないことが多いため、こういう言い回しができたのでしょう。

芸術家に多いイメージですが、学者さんにも同タイプの人がいて、今回注目の方もその一人。

昭和十六年(1941年)12月29日、博物学者かつ生物学者かつ民俗学者だった南方熊楠(みなかたくまぐす)が亡くなりました。

「いったい何が専門なんだ???」とツッコミたくなりますが、そこが天才の天才たる所以。

驚異的な記憶力を持っていたため、一見関係なさそうにも思える分野それぞれで実績を上げていたのです。

 


9才で百科事典105冊をすべて暗記

南方熊楠が実際どのくらいスゴかったのか、例を挙げてみましょう。

・9歳のとき『和漢三才図会』(当時の百科事典)105冊を全て暗記して書き写した

・13歳のとき、英語&日本語&漢語の本から読み取った知識を使って自分なりの教科書を書いた

・数十年前にたまたま同席した人の名前&出身地&系譜などを全て覚えていた

……もう、ケタが違いすぎて絶句するしかないです。

海外ドラマ『SUITS』主役のマイク・ロスも同じような頭脳の持ち主でしたので、人類に一定の割合で出現するのでしょうね。

※私の知見では多くを語れませんが【記憶力 驚異】などと検索すると数多の記事がヒットします

そんな熊楠ですから、当然、今も昔も日本の最高学府・東大へ進学しています(当時は大学予備門)。

このときの同窓生のメンツがまた尋常じゃなく濃ゆい。

夏目漱石や正岡子規といった文人から、後々帝国海軍の要となる秋山真之(さねゆき)まで、さまざまな意味で日本を代表する人材が揃っていました。

※以下は秋山真之や夏目漱石の関連記事となります

秋山真之
バルチック艦隊に勝利した秋山真之の策「本日晴朗ナレドモ波高シ」

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吾輩は猫である
漱石の人生を一変させた小説『吾輩は猫である』些細なキッカケから始まった

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天才的頭脳をもつ一方、カンシャク持ちでもあり

「人生は一度しかないのに、興味の持てないことに使う時間はない!」

南方熊楠は、そんな独自の理論を展開。

あまり熱心に大学へ通わず、入学二年後の中間試験で落第したのをキッカケにあっさり中退しています。どうやら驚異的な記憶力も、本人にその気がないと作動しないようです。

その代わり(?)アメリカの大学で自分の好きな動植物の観察や標本作成などには全力を注ぎました。

学校を出た後は大英博物館の蔵書を読み漁り、一時期は東洋図書の担当として勤めましたが、ムシャクシャして暴力事件を起こしてしまい、出入り禁止になったこともあります。

このときに限らず、熊楠は癇癪玉を爆発させると誰の手にも負えなくなることがしばしばあったようで。

毎度毎度その頭脳を惜しまれて周囲が仲介に走っていたようです。

何かに突出した才能を持った、いわゆる「ギフテッド」な人の特徴なんでしょうかね。

こうした能力は記憶力だけに限ったことではなく、何らかの特異的才能で、日本人の2%が該当するそうですから、本稿をご覧いただいている方、あるいはその周囲にもおられるかもしれません。

あるいは歴史に名を残す偉人たちの多くがそうなのかも。

◆知られざる天才 “ギフテッド”の素顔(→link

アメリカ時代の南方熊楠

アメリカ時代の南方熊楠/wikipediaより引用

帰国後は一回り年下の奥さんをもらい、しっかり家庭を築いています。

長男が生まれたときは嬉しさのあまり、日記に

「子供を見てたら夜が明けそうだったよ、HAHAHA」(※超訳)

と書いています。

 


熊野の森を伐採するんじゃねぇ!

南方熊楠には天才・奇人の他に環境保護家という面もありました。

世は「西洋に追いつけ追い越せ!」の明治時代。

近代化・西欧化の名の下に、明治政府は行き過ぎた開発や文化の捏造を始めます。

足尾銅山事件や富岡製糸場など関東のものが有名ですが、もちろんそれだけではありませんでした。

田中正造
田中正造と足尾銅山鉱毒事件は結局解決したの? 閉山は昭和48年となってるが

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熊楠だけでなく、南方家が代々信仰してきた熊野神(三重や和歌山に広がる熊野古道の自然神)が宿るとされている森にまでその害悪が及びます。

政府の言い分は「国家のために神道を整理するので、神社を統合するよ!周りの木はもったいないから木材にするよ!(樹齢千年超えると高く売れるんだよね)」というもの。

もちろん地元の人々は大反対です。

特に熊楠は「熊野の森を伐採すれば、そこに住まう菌類などの絶滅を招く」として真っ向から政府に反対する運動を始めます。

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