ドラマ『パリピ孔明』

ドラマ『パリピ孔明』公式サイトより引用

三国志

ドラマ版『パリピ孔明』で気になった名言・名場面・兵法・故事を徹底解説

2024/11/29

原作漫画、アニメに続き、昨年(2023年)は実写ドラマまで放映された『パリピ孔明』が熱い!

実写版では『三国志』ファンにはおなじみの戦いへと向かっていく展開。

史実ネタの読み込みを思い出しながら、感動のフィナーレへのテンションをもう一度味わいましょう!

 


お断り:姓、名、字とは

ドラマでは、こんな風に自己紹介されます。

「姓は諸葛、名は亮、字は孔明と申します」

これはどういうことか。

姓:一族の名前。本貫をつけることもあります。諸葛亮の場合、琅琊(ろうや)が本貫の諸葛氏、琅琊諸葛氏となります

名:生まれた時につけられた名

字:成長してからつける呼び名。名を呼ぶことを忌避するためにつけます。そうはいっても相当親しくなければ使いません。馬超が劉備を字で呼んだところ、関羽と張飛が「ラフすぎんだろ!」と激怒したこともあったとか。

諸葛亮孔明という表記は、「名」と「字」を同時に呼ぶので、ミスとされます。

孔明の方が馴染み深いと思いますが、ここは「諸葛亮」とさせていただけます。ご容赦ください。

 


死せる孔明、生ける仲達を走らす

亡くなった人物の意思や思想が、今を生きる人々に影響を与え、動かすこと。

冒頭で死の淵にいた諸葛亮。あれは【五丈原の戦い】です。

敵対する魏の司馬懿(しばい、字は仲達)との対陣中、病没してしまいます。そこから若返り、劉備と出会った青年時代にまで戻り、ハロウィンの渋谷に転生してきます。

なぜ日本語ができるのか。なぜカクテル作りがうまいのか。そういう疑問はとりあえず考えないでおきましょう。

なお、諸葛亮は「丞相」と呼ばれることもあります。います。彼は蜀で丞相であったためそう呼ばれます。

ライバルの曹操は後漢の丞相であったため、赤壁の戦いを描く作品では曹操が「丞相」と呼ばれています。まぎらわしいのでご注意ください。

 

三顧の礼

重要な人物に礼を尽くし、迎えること。

このドラマでは、竹林を通り抜けた劉備が、諸葛亮の住まいを訪れる場面が入ります。

だんだんと近づいてくる劉備。再会できたら、私は元の世界に戻るのでは? そう諸葛亮は考えています。

劉備には腕の立つ勇敢な義弟である関羽と張飛がおりました。

しかし、頭の切れる参謀役がおりません。

誰か賢者はいないか?

そう悩んでいたところ、徐庶という優れた人物が諸葛亮の情報を提供します。この徐庶の友人である諸葛亮の話を聞き、劉備は呼び出そうとします。

すると徐庶は呼び出すのではなく、訪れたらどうかと提案します。

それもそうだ。劉備は関羽と張飛とともに、諸葛亮の住む廬を訪れます。

年長者でありながら、三度も訪れてきた劉備。その誠意に感激した諸葛亮は、その知能を劉備のために用いるのでした。

 


泣いて馬謖を斬る

重大なミスを犯した部下を処断すること。

渋谷のBBラウンジのオーナーである小林は、重度の三国志マニアです。

どのくらいマニアか? 本棚を推察してみました。

ちくま学芸文庫『正史 三国志』全8巻セット

横山光輝『三国志』全巻

吉川英治『三国志』全巻

『三国志事典』

『三国志演義事典』

最低限、これだけは揃っていることでしょう。

そんな小林は、諸葛亮に馬謖を斬った理由を尋ねます。

諸葛亮の弟子に、馬謖(ばしょく)という人物がいました。

【街亭の戦い】の際、馬謖は山頂に陣を敷きます。高所への布陣は兵法の基礎とはいえ、この場合は水源を遮られるため禁忌でした。そんなミスのために大敗を喫し、大損害を受けてしまいます。

諸葛亮は信賞必罰を重んじます。愛弟子だろうとミスはミス。馬謖を処刑したのでした。

この小林は過去において馬謖級のミスをやらかした過去があります。そのためか、諸葛亮に馬謖はなぜあんなミスをしたのか尋ねます。

小林が手にしているカードゲームの札は、長野剛さんが描いています。コーエーテクモゲームスはじめ、歴史イラストでは有名な方です。このカードを売ってくれ! そう目を輝かせた方も多いことでしょう。

 

知音

互いをよく知り合った友のこと。

小林と諸葛亮ってまるで「知音」(ちいん)みたい。そんな言い方もできます。

なぜ諸葛亮は音楽に詳しいのか?

設定上必須だからというだけではなく、古代中国では音楽が大変重要な意味合いを持ちます。音楽のわかる人は素晴らしいと賞賛されます。

諸葛亮がしばしば持ち出す人物に、呉の周瑜がいます。彼はこう言われたとか。

「曲をミスると周さまがこっち見るよ!(曲に誤り有らば周郎顧みる)」

軍を動かすにせよ、太鼓や銅羅でテンポをとることは重要です。軍師が音楽に詳しくても別によいのです。

そういう音楽を通した友情があればこそ「知音」という呼び方が通用します。

 

石兵八陣

『三国志演義』に登場する諸葛亮の計略のこと。

このドラマは『三国志事典』と『三国志演義事典』を参照しています。

正史『三国志』とは、真面目な王朝の歴史を記した歴史書です。

一方で『三国志演義』は、それを盛ったバージョンのこと。「七実三虚」(七割史実ベースで三虚が史実)という言葉で表現されます。

この「石兵八陣」とは、呉の陸遜との対陣の際に諸葛亮が用いた不思議な陣とされます。それをBBラウンジで再現する様子が描かれます。

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張飛の酒乱

小林は張飛の酒豪伝説について、諸葛亮に尋ねます。張飛は酒乱で粗暴であったとされる劉備の義弟です。

でもよ、当時のアルコールは酒乱になるほど酔い潰れられなくね?

そういうツッコミです。

当時の酒は黄酒(ホアンチュウ)でしょう。日本酒やワインと同じ程度の度数です。

もっと強い40度前後の白酒(バイジウ)は、宋代以降とされています。それと比較すると弱いようで、大量に飲めば荒れますかね。

私も小林と同じ疑問を抱いたことはあります。

アジア人はアルコールに弱いし、当時の人は今より弱かったのかもしれませんね。

実は中国の蒸留酒はなかなかややこしい。いつからか、これがはっきりしません。漢起源説もあり、孔明の敵である曹操が酒の作り方を記していた伝説もあります。

三国時代は戦乱の時代。米の節約のため、魏呉蜀のうち、呉以外では禁酒令も出されたことがありました。

曹操は酒で憂さ晴らしする漢詩を詠んだし、孫権はともかく酷い酒乱。度数が低かろうと、酒乱に陥る三国志の英雄はいたようです。

張飛の場合は酒だけでなく、そもそもが横暴でパワハラ気質であったとされます。これは劉備も認識していて、そのうちなにかやらかさないか不安に思っていたそうです。

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丁原

諸葛亮は不動産会社から格安案件「丁原アパート」を勧められますが、不吉であると断ります。

丁原とは、部下である呂布に殺されてしまった人物のこと。そんな名前のアパートがあるか!

 

近きを以て遠きを知り、一を以て万を知り、微を以て明を知る

諸葛亮は相手をじっくり観察します。キモいですか?

はい、そうですね。しかしこれぞ軍師のあり方。

『荀子』にはこうあります。

近きを以て遠きを知り、一を以て万を知り、微を以て明を知る。

じっくりと相手を見て、推察することが大事です。

軍師は卑劣なことも勝つためにするもの。詐欺師みたいな奴だと言われますが、そういうものです。

 

屠蘇散

諸葛亮が飲むと声が梶裕貴さんになってしまう、そんなあやしい薬を作ります。

そんなバカな! そう突っ込みたくなるようで、歴史的には案外正しい。

『三国志』には日本人にとってもおなじみの名医が出てきます。

華佗(かだ)です。

華佗は正月に飲むお屠蘇のレシピである「屠蘇散」(とそさん)を開発したとされます。

現代からすれば「ハーブを混ぜた健康にいいものね」となるものの、これを伝えられた当時の人々からすれば驚きの薬です。ちょっとした体調不良をスッキリさせてくれるだけでもありがたいものですから。

ちなみにこのお屠蘇の風習は中国では廃れ、日本の方が残っているとか。

孔明が何を使って秘薬をこしらえたのかは謎ですが、屠蘇散みたいな材料かもしれませんね。

ちなみに日本だとあまりありませんが、中国ではこの俳優に対する吹き替えが結構多い。香港出身の俳優が大陸のドラマや映画に出ると発声が大きく異なるので、吹き替えがおなじみです。

華佗の医術で肘の切開手術を受ける関羽/wikipediaより引用

 

兵法三十六計

諸葛亮のしばしば引いてくる『兵法三十六計』とは、三国時代には成立していません。

とはいえ『演義』の世界では使います。

このドラマは『演義』要素も入れているので、そこはよいのです。

 

筮竹

諸葛亮は占いの際、パスタのような棒を手にしています。

筮竹(ぜいちく)といい、易占いという中国由来の占いに使います。

『麒麟がくる』では松永久秀、『鎌倉殿の13人』では全成が用いていました。

筮竹を用いた占い師は、かつて日本でもよく街にいたものです。

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横光三国志

クリーニング店でKABE太人が手にするのは『横光三国志』。

日中国交正常化に向け、日本の少年少女が手に取るように描かれた傑作です。今でも読み継がれる定番ですね。

本作に出演した森山未來さんや向井理さんも愛読していたとか。

KABE太人は全巻読了していないようで、知識が少し偏っているようです。

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赤兎馬

ラッパーの赤兎馬カンフーが出てきます。

赤兎馬は『三国志』に出てくる最強の名馬で、呂布のものを劉備の義弟・関羽が引き継ぎました。

汗血馬という血のような汗を流す馬だという説もあります。

彼は赤兎馬をあえて名前につけるほど、相当ディープな『三国志』マニアです。

 

ラーメン

英子と諸葛亮がラーメンを食べる場面があります。

日本では中国風の麺類はみんな「ラーメン」です。

実は漢字表記が謎。「拉麺」という表記もありますが、拉=引っ張って作るという意味です。

日本のラーメンは機械を用いたり、包丁で切るので「切麺」(チャーミェン)ではないかという指摘もあります。表記は「柳麺」だったという説も。

現在では差別的であるため用いられませんが、「支那蕎麦」という言い回しもかつてはありました。

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孔明車

諸葛亮はデコバイクに乗る場面があります。

『演義』準拠のイメージとされるものの、彼はまず馬に乗りません。

車に乗ることがお約束。本場では「孔明車」という呼び方もあります。

牛が引く四輪車に、三輪車に、牛車に……ありとあらゆる発明があるとされる諸葛亮。後世の伝説も含まれているのでご注意を。

諸葛亮はなぜ車に乗るのか? あの孔明扇を手にしているのか?

文官であることが強調されています。中国では文官上位が理想とされます。文官なのに戦も強い諸葛亮を理想化していくために、優雅な彼の姿が強調されるのです。

 

王八蛋(ワンバダン)

諸葛亮は「王八蛋」と煽ります。

中国語には「バカ」や「アホ」なんて言葉がないというのは大嘘で、これはそうした罵倒です。

孔明の生きていた時代にあったかは不明ですが。字幕の「亀の子どもが」ではなく、ただの「バーカ」でいいと思います。

語源には「八徳を忘れた者」という説もあります。これには日本語でも同じ言い回しがあります。

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 (てい)という八徳を失ったものを「忘八」または「亡八」と書き「ぼうはち」と読みました。特に遊郭に関わるものをこう呼んだとか。

 

聖人は天を手本とし、賢者は地を手本とし、智者は古を手本とする

『三略』から引用する諸葛亮ラップが見事です。

 

信賞必罰

『韓非子』より。諸葛亮が好きな概念。成果を上げたらご褒美を、失敗したら罰則を。これを徹底させます。

 

文選

諸葛亮がラップで歌うのは『文選』収録の「去る者は日に以て疎し」。

『文選』は孔明たちのちょっとあとの六朝時代に編まれた名文集で、日本でもお馴染みです。

『三国志』の時代は中国文学史においても重要で、魏の建安文学はそれまでの文章を変えたとされます。紙が本格的に普及した情報革命の時代なのです。

そんな『文選』を知っている赤兎馬カンフーは何者なのでしょうか。只者ではありません。

 

錦嚢妙計

諸葛亮は英子に巾着袋を渡し、困った時に開けるよう命じます。

なんじゃそりゃ、素直にアドバイスすれば?

そう言いたくもなりますが、これが中国時代劇のお約束。「錦囊妙計」あるいは「錦嚢策」といいます。リアリテイは二の次、このお約束がよいのです。

どのタイミングで使うか?アドバイスがどう生かされるか?諸葛亮ならではの持ち味です!

 

断金の交

諸葛亮が占った卦は「断金の交」と出た。

二人がいれば金だって断てるという固い友情を結ぶたとえです。

『三国志』では孫策と周瑜という呉の名コンビがこの交わりを結んだことでおなじみです。

 

狼顧の相

諸葛亮と小林の会話で、AZALEAをプロデュースする唐澤を「狼顧の相」と呼びます。180度首が回るとされ、司馬懿がそうであったとされます。

誇張もあるのでしょう。ここで孔明が説明する通り、「これは孔明の罠だ」とすぐ見抜くほど観察眼があり、猜疑心旺盛であることのたとえかと思われます。

司馬懿主役のドラマ『軍師連盟』ではこの「狼顧の相」を披露する場面が登場します。

唐澤も『孫子』読んでいて、孔明と話が弾み、英子ははやっているのかとびっくりしています。

実は『孫子』はビジネスやスポーツにも取り入れられる定番。知っていてもおかしくはないと思います。実際役立ちますよ!

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拱手

英子が歌うと、周囲が聞き惚れる。そんな中、ウサギの着ぐるみが手を合わせる不思議なポーズをします。

「供手」という古代中国の敬意を示す礼。これで中身が諸葛亮だと推察できるのです。

「抱拳」という、右手で拳を作り、それを左手で抱えるポーズも時代劇でおなじみです。

諸葛亮は昔の中国出身ですので、口元を隠しながら食事をするなど、古式礼法にのっとった所作をしております。

 

草船借箭

赤壁の戦いにおいて、呉の都督・周瑜が諸葛亮に「10万本の矢を集めてくるように」と告げます。

これが100万いいね企画のもととなるエピソードです。

諸葛亮はわざと敵の船に近づき、相手が雨あられと矢を放ってきます。船に藁マットをくくりつけ、この矢を回収した諸葛亮。見事な計略です。

ただ、これは実際には呉の孫権が魏軍と対峙した濡須口の戦いで用いた計略だとされます。狙ってそうしたというよりも、偶発的なラッキーかもしれません。

魏は水軍の使い方が呉に及ばず苦労しています。それを踏まえれば、諸葛亮よりも孫権が用いたとみなすほうがはるかに自然です。

こういうことをつっこんでいくと、疑念を覚えるじゃないですか。

大軍師という諸葛亮の話って、勝手に盛っているんじゃないの!

そうです、これが「実七虚三」ということです。

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饅頭

饅頭は諸葛亮が発明したというセリフがあります。

あくまで伝説です。

人間の生首を捧げる風習がある慣習を見て、生首ではなく、その代替品として用いるように饅頭を生み出したとか。

伝説の類ですので、話半分に聞いておきましょう。諸葛亮はそういう伝説だらけの人物です。

 

祖茂

小林が身代わり作戦を聞くと、祖茂(そぼう)のようだと言い出します。

孫権の父である孫堅が敵将に追われていた際、祖茂という武将が赤い頭巾を被って身代わりになったという逸話があります。

ミア西表が赤いキャップを被るところにも、それが反映されています。

 

蔣琬

小林の恩人である先代オーナーは、その腕前を「孔明に抜擢される前の蔣琬(しょうえん)のようだ」と言います。

これはなかなか重要です。蔣琬は諸葛亮の死後、後事を託された人物です。

つまり、孔明が去っても小林がいればどうにかなると示されているようでもあります。

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成済

落ちぶれた頃の小林は、反社会組織の成済(せいさい)のようなものだった――そう語ると、諸葛亮は自分の死後のことかと言い出します。

諸葛亮の死後、蜀と呉は滅び、魏により統一がなされます。

しかしこれも長続きしません。諸葛亮のライバルとして有名な司馬懿が権勢を握ります。

司馬懿の死後、子の司馬昭はさらに露骨となりました。

魏の皇帝一族である曹髦(そうぼう)は、司馬昭打倒の兵をあげます。

このとき司馬昭の片腕ともいえる賈充は成済に曹髦殺害を命じます。曹髦殺害後、成済は弟ともども謀殺されるのでした。

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沐猴にして冠す

沐猴(もっこう)にして冠す。『史記』「項羽本紀」より。

サルに冠を被せたようなもの。格好だけつけて中身がない人間が重要な役割についた様。

曹操「薤露行」(かいろこう)はこの一節を引き、後漢の政治腐敗を批判しています。

小林と前園ケイジの因縁には因縁がありました。売り込みに来た前園に、小林やイーストサウスの真似をしていては駄目だと言うのでした。

そのとき、袁術と同じだと言います。

袁術とは後漢一の名族出身。彼のもとに服していた孫堅は、戦乱の最中に皇帝のあかしである伝国璽(でんこくじ・玉製のハンコ)を発見しました。

正史では袁術は孫堅の妻・呉夫人を拘束し、玉璽を差し出させました。

『演義』では孫堅の死後、父の兵を返してもらうために長男の孫策が玉璽を袁術に渡しました。

かくして玉璽を手に入れた袁術ははしゃいでしまいますが、中身が伴わないために敗走。「甘い水が飲みたい」と嘆きながら亡くなったとされます。

袁術は中身のないダメな人物として有名です。小林はなかなかきついことを言ったものだと思います。

 

乱世の奸雄

諸葛亮は復讐の念を抱く前園を警戒し、曹操も徐州で虐殺を行ったと言います。

これはなかなか重要です。

「乱世の奸雄」として知られる、諸葛亮最大の敵である曹操。その曹操は父・曹嵩(そうすう)が殺害された時、その怒りのあまり事件の起きた徐州で大虐殺を行いました。

諸葛亮は徐州琅邪郡出身です。徐州出身の諸葛一族にとって、この虐殺のあとでは曹操に従う気には到底なれなかったことでしょう。

諸葛一族からは曹操に敵対する諸葛亮、その兄の諸葛瑾が出ています。もしも曹操が怒りにかられ徐州で虐殺をしなかったら、歴史は変わっていたことでしょう。

ここで前園ケイジの怒りと、曹操の怒りが重なります。

前園ケイジは曹操をモチーフとしたキャラクター像であるとわかります。

 

贅閹の遺醜

前園ケイジが曹操ってどうなのよ? まあ、曲が“SOSO”だけどね。そう突っ込みたくなった方も多いかと思われますが、私としてはキャスティングも含めて素晴らしいと感じました。

前園は父が大手広告代理店・電報社の御曹司で、金の力でのしあがった設定です。

ハァ〜? ボンボンが金の力でのしあがる? 卑劣できたねーヤツだな!

曹操もそう罵倒されたことがあります。

曹操は宦官・曹騰(そうとう)の孫です。去勢した宦官なのになぜ孫がいるのかというと、養子です。

しかし当時からそんなことでいいのかという批判はつきまといます。当時は宦官の政治介入による弊害が深刻化しており、社会問題として認識されていました。よりにもよって宦官が、残せないはずの子孫を持つってどうよ? そう思われると。

かつて小林は「これは【官渡の戦い】だな」と例えたことがあります。曹操とライバル袁紹による、天下分け目の戦いです。

この戦いの前に、袁紹のお抱えライターである陳琳(ちんりん)は檄文を書き、その中で曹操をこう罵倒しています。

贅閹(ぜいえん)の遺醜――贅とは贅沢三昧をする父のこと。閹とは宦官のこと。

成金と宦官が残したしょうもねえヤツ! そう罵倒しているのです。

「俺の親父とじいちゃんは関係ねえだろ!」

曹操はそうブチギレ、陳琳を見つけ次第殺すと思っていました。いざ捕まえて陳琳本人に煽りまくる檄文を読ませ、曹操はこう言います。

「あのさ〜、お前センスあるけど、さすがにボロクソに書きすぎじゃね。父と祖父のことは言い過ぎっていうかさ。なんでこんなことすっかなあ?」

「えっと……ナイスな煽り思いついたら、止まらなくて、ポチッとするもんじゃないですか(箭は弦上に在れば発せざるを得ず)。俺、そういう仕事のプロだし……」

素直な言い回しと才能を気に入ったのか。曹操は陳琳を採用。お気に入りのライターになったそうですよ。

『文選』にも彼の曹操ディス文は収録されています。そのため、現在でも読めます。

 

万事倶に備われども、只だ東風を欠くのみ

小林は前園に、イーストサウスのパクリではいけないと言った。

英子がイーストサウスをスタジオで偶然見かけたという。

この瞬間の諸葛亮は、『三国志演義』第49回と同じくこう思ったことでしょう。

万事倶(とも)に備(そな)われども、只(た)だ東風を欠くのみ――全ては揃っているけれども、東南の風が欠けていると。

『演義』では、火計をしたい周瑜が風がないことに悩み、寝込んでいるところに諸葛亮がやってきてこう告げています。

このあと諸葛亮が風を呼ぶ祈祷を始めるというのは、『演義』の展開通りです。唐突ではないということになります。中国の祈祷らしく、東洋占星術ではおなじみの星宿を読みあげています。

ちなみに諸葛亮は祈祷のため、英子が入院すると蝋燭を病室に置いています。あれは五丈原での諸葛亮回復のための祈祷に即しています。そのときは効果がなく、諸葛亮は没しています。むしろ不吉ですよ!

こうした諸葛亮の祈祷は、魯迅から「話盛り過ぎ!」と突っ込まれています。『演義』でゴリゴリにされているとは指摘されてきたのですね。

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蔣幹

孔明と小林が東南の風を呼ぶ祈祷をする一方、KABE太人には先輩ラッパーのダイナーが接触してきます。

ダイナーは前園陣営につかないかと誘いをかけるものの、KABE太人は一度は断ります。

これも計略通り……どこが計略かというと、ダイナーは『演義』では蔣幹に該当すると推察できるのです。

蔣幹(しょうかん)は曹操に仕えた人物です。周瑜と顔見知りであり、曹操から彼を引き抜くよう命じられ、周瑜の説得へ向かいます。

しかし、周瑜はかえって孫権への忠義を語ったため、蔣幹は断念したのでした。これが『正史』です。

『演義』ではこれを赤壁の戦い前夜に設定しました。かえって周瑜からニセ情報をつかまされ、曹操に不利益をもたらす人物とされています。

ダイナーは英子陣営を訪れ、そこでの情報を前園陣営に流し混乱させるよう、計略に組み込まれています。まさに蔣幹です。

 

苦肉の計

諸葛亮がさんざんKABE太人を罵倒し、英子が止めても止めようとしない。怒ったKABE太人は前園陣営へ向かってしまう。目撃者はダイナー。

これは『演義』における「苦肉計」の再現です。

赤壁の戦いにおいて、呉の黄蓋が曹操軍へ投降するよう装い、油を満載した船で接近することにします。

とはいえ、あの曹操を騙し切れるか?

そこで周瑜は黄蓋を鞭打ちの計に処します。黄蓋の降伏は確かなものだろうと曹操は油断してしまい、まんまと火計を受けてしまうのです。

諸葛亮の痛罵があまりにひどいのは、苦肉の計のメンタル版ということで理解しましょう。甘くしては計略が成立しません。

 

千里行

前園の妨害を受け、小林は「千里行」だと諸葛亮に語ります。

「関羽千里行」のことです。

劉備の義弟である関羽は、曹操陣営に捕虜となってしまいます。関羽を気に入った曹操は、高待遇で引き抜こうとします。しかし兄を裏切れぬ関羽は曹操陣営を脱出し、劉備の元へと戻ろうとします。

このとき、関羽を引き止めたい曹操は猛将を配置。関羽はそれを突破し、千里の道を突破し、劉備のもとへ戻るのでした。

それほど大変だということです。この逸話は昔から愛されており、ドニー・イェン主演映画にもなりました。

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長坂の趙雲

そんな千里行状態の英子を救出するのは、ミア西表です。

ここで小林は、かつて魏の名将・張遼にたとえたミア西表を、実は趙雲だったと褒め称えます。

【赤壁の戦い】の前、劉備軍は曹操軍の追撃を受け、絶体絶命のピンチ【長坂の戦い】に陥りました。

そんな中、劉備の妻子までもはぐれてしまいます。劉備の子である阿斗を抱えて駆け抜け、見事に守り抜いたのが趙雲でした。

英子が阿斗ならば、ミア西表は趙雲ということですね。

 

徐庶

小林がいう「徐庶状況」とは、母が曹操軍に捕まったため、曹操陣営に仕えるしかなかった徐庶のことを指します。

人質を取られるなどの事情により、思うように動けない状況をさします。

 

月明らかにして星稀なり

月明らかにして星稀なり。

月が輝けば星が見えにくくなる。大英雄の前では、雑魚はしぼむってこと。

出典は曹操「短歌行」です。

サマーソニアという決戦の場で、鮮やかに歌い踊る前園ケイジ。

しかし彼は曹操にオマージュを捧げているため、敗北することとなります。その契機がイーストウエスト(東南)の風。偽りの降伏してきたKABE太人のせいでした。

前園ケイジはアニメには登場せず、原作とドラマ版に出ています。

原作では小柄で細身、シャープです。横光三国志や人形劇版に似ています。日本風曹操像ともいえます。

曹操は小柄でブサメンというのが本場中国定番の描き方でした。

しかし日本で決定版と言えるほどの吉川英治版では、鳳眼(ほうがん、鳳凰の目のように細いという意味)でシャープなイケメン。色白、漆黒の髪、中肉で、若い頃はなかなかの美少年とまで描写されます。

これが日本独自の曹操像となりまして、横光版や人形劇もそうなっております。原作版の前園ケイジもこうした曹操像に準拠しております。

ただし、映像化となればまた話は違ってくる!

本国でも京劇ともなると、曹操役は変わる。白塗りで陰険そうなメイクで、大柄な役者が演じます。演劇や映像作品ともなると迫力が欲しい。高い身長の曹操でも、そこは許容範囲です。

ドラマ版はマッチョでむしろ大柄になりましたが、映像化ゆえの迫力を踏まえるのであればよいのです!

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槊を横たえて詩を賦す

『演義』の赤壁の戦いでは、曹操は『文選』にも収録された代表作「短歌行」を歌い上げつつ、盛り上がる様子がお約束です。

『正史』ではいつこの作品を詠んだのか、不明です。

ただし後世、北宋の政治家にして詩人、トンポーローの生みの親伝説まである蘇軾が「前赤壁賦」でこう詠みました。

槊(ほこ)を横たえて詩を賦(ふ)す

武器を横たえて詩を詠むなんて、マジ曹操ぱねぇわ!

月岡芳年『月百姿』赤壁月/wikipediaより引用

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このことから「短歌行」と赤壁は結びつけられ、戦う前に歌い踊ってテンションを上げる曹操が定番となります。

名場面でハイテンションで歌う曹操は印象的でして、そういうノリノリぶりが前園ケイジに反映されているとすれば、ばっちりです!

この曹操は絵の題材とされ、赤壁を訪れた蘇軾、そこで詠まれた曹操の姿は月岡芳年「月百姿」でも描かれています。

月岡芳年『月百姿』南屏山昇月 曹操/wikipediaより引用

 

曹瞞伝

曹操が歌うのはありなのか? というと実は諸葛亮よりそれに近いのではないかとも思われます。

曹操は敵から憎まれており、『曹瞞伝』という呉によるアンチ本があったとか。

曹瞞とは「曹の嘘つき野郎」というストレートな罵倒です。

そこによれば、曹操はチャラいヤツでした。

曹操、あいつマジありえねーすよ!

ピタッとした服を着て、ポーチに色々物入れて持ち歩いててさあ!

現代人からすればそれの何が悪いのかわからないかもしれませんが、諸葛亮を思い出しましょう。

上流階級の人はむしろゆったりした服を着ることがマナー。曹操はそんなもんお構いなし。

前園ケイジのピタピタ短パンと毛皮は、現代版曹操といえるのかもしれませんね。

おまけに音楽がチョー好きで、バンド演奏させてずっと聴いてんだよ!

いいから真面目にしていろというツッコミのようです。

曹操は詩人としても中国文学史に名を残しております。当時の詩はメロディをつけて歌うもの。おまけに彼は音楽も大好き。

妻・卞夫人はシンガー(歌妓)出身です。

人をすぐおちょくってさ、ズケズケ物を言い過ぎでさ。

テンションあがると皿に頭突っ込むほど爆笑してんだよ。威厳ってもんがねーの。

こうしてみてくると、型破りで可愛いところもあるように思えますね。気取りと無縁の性格のようです。

いかがでしょうか、実写版でなんだかカワイイ、完敗して膝を抱えてシュンとした姿に愛くるしさすらあった前園ケイジって、曹操にオマージュを捧げていると思えてきませんか?

 

学ぶにあらざれば以て才を広むるなく、志あるにあらざれば以て学を成すなし

完敗し落ち込んでいる前園に、諸葛亮はこう言います。出典は『誡子書』です。諸葛亮が我が子に諭した書です。

学ぶことで才能は開かれる。その志がなければ、学問が完成することはない――そう諭しました。

前園ケイジは、小林への復讐心で勝ち上がろうとしました。彼はゴーストライターを用いたとはいえ、中身がないわけではありません。

歌もできる。踊りは最高。あの肉体美、カリスマ性! そこに偽りはありません。

曲作りさえ学べばきっと再起できるはず。そうどん底にある宿敵を諭す諸葛亮は、確かに前世よりも丸くなったように思えます。

ちなみに、そんな諸葛亮が見守ってきた月見英子。彼女の名前は諸葛亮の妻である黄月英が元になっています。

 

本国でも受け入れられる、日本による三国志魔改造最新鋭として

「日本人なんですけど、中国の歴史が好きです」

本場の方にこう言うと、『三国志』だろうと返ってきます。これはもう江戸時代からの伝統です。

『三国志演義』は文体がかしこまっています。格調高いといえばそう。クラシカルな文体です。日本の漢文読解は唐までの文語特化型ですので、読み易いのです。

同時期にベストセラーであった『水滸伝』といった作品は、くだけだ文体過ぎて読みにくい。そのため翻訳が遅れ、ブームの到来は江戸時代も折り返しを過ぎてからになります。

そんなわけで早くから庶民にまで愛されてきた『三国志』。自由気ままな魔改造の歴史も長い!

真面目なお勉強の題材としてだけではなく、さまざまな娯楽のモチーフともされてきました。

日中関係の影響も受けます。「脱亜入欧」が叫ばれる明治以降には見方も変わってきます。

諸葛亮は軍歌「星落秋風五丈原」がなまじヒットしたために、名誉日本の英雄扱いされてしまいました。

現代人からすれば理解に苦しみますが、いわばジャイアニズムです。

日本はアジアの盟主だから、中国の英雄も俺のもん! そんな理屈ですね。

同じ枠には南宋の忠臣・文天祥もおりますが、彼は娯楽作品では取り上げられにくい人物であるためか、今は知名度がかなり下がってしまいました。

吉川英治『三国志』も、不幸な受容がなされてきました。日中戦争で従軍する兵士が手にして、ガイドブックのような読み方をされたこともあったのです。

そんな不幸な戦争が終わり、日中の国交は断絶します。

そこでまたもや『三国志』の出番です。横光三国志は、日中国交正常化を見据え、日本の子どもたちが中国を理解することも目的のひとつとして描かれました。

コーエーテクモゲームスの『三国志』もの。そしてたくさんの漫画。海を超えて、本場にもこうした作品は届いてゆきます。

日本による『三国志』の解釈はもはやおなじみ、海を超えて愛されるモノ。受け入れられるかどうかは、敬意と愛、その出来次第。

スタッフが『三国志事典』『三国志演義事典』を持ち歩き、渡邉義浩先生が考証をつとめるこのドラマは、愛にあふれています。原作もアニメも、すでに国際的に人気です。

実写版もきっとそうなることでしょう。さあみなさん、孔明とともに、これからも天下泰平の世をめざすのです!

諸葛亮孔明
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【TOP画像】ドラマ『パリピ孔明』公式サイト(→link)より引用

【参考文献】
渡邉義浩『三国志事典』(→amazon
渡邉義浩/仙石知子『三国志演義事典』(→amazon
ちくま学芸文庫『正史 三国志』全8巻セット(→amazon
興膳宏/川合康三『精選訳注 文選』(→amazon
井波律子『三国志名言集』(→amazon
井波律子『三国志演義』(→amazon
渡邉義浩『三国志 演義から正史、そして史実へ(中公新書)』(→amazon
渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む 』(→amazon
渡邉義浩『魏武注孫子』(→amazon
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→amazon
吉川英治『三国志』全巻(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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