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コブラの毒で自殺をするクレオパトラ/wikipediaより引用

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世界三大美女・クレオパトラ七世の人生は、華やかどころか苦難の連続ではないか

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世界三大美女の一人、クレオパトラ七世。
その美貌と言い、コブラに腕を噛ませたという最期と言い、彼女の名前は世界レベルで知られております。

本サイトで連載をされている歴女医まり先生も「毒蛇で自殺は大変よ」と仰られてましたが、実は彼女の人生そのものも、華麗なイメージに反して苦難の連続だったようです。

クレオパトラさん 毒蛇で自殺は大変よ♪ まり先生の歴史診察室♪

 

「カエサルへの贈り物」と称して自ら寝具の中から……

クレオパトラのイメージといえば、不適で男を翻弄する、美しき悪女といったところでしょう。
カエサルを手玉に取り、そのあとはアントニウスを籠絡する……。

しかしこうしたイメージには、偏見があることを忘れてはいけません。
貞節とは無縁、淫らな異国の女王というイメージは、彼女を滅ぼした側が広げた物語です。

クレオパトラは、弟アルシノエ四世と妹アルシノエ四世によって玉座を奪われ、その奪還のためにカエサルを誘惑したとされています。
「カエサルへの贈り物」と称して自ら寝具の中から転がり出た場面は有名で、絵の題材にもされています。

絨毯の中からカエサルの前に現れたとされるクレオパトラ/wikipediaより引用

しかしカエサルとて、「なんかすごくセクシーな女王が来ちゃったぞ!」と、ただ鼻の下を伸ばしていたわけではないでしょう。

ローマにとって友好的な政権をエジプトに立てたいと画策している時、うら若き女王が庇護を求めて来たとすれば、カモがネギをしょって来るようなもの。
クレオパトラが美しかろうがそうでなかろうが、性格が善良だろうがそうでなかろうが、どのみちあまり関係はなかったでしょう。

重要なのは彼女が王家の女性であった点です。

 

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新たな庇護者を求めてアントニウスに接近

もしもカエサルが、そのままローマの実力者として君臨をし続けたのであれば、クレオパトラの運命もまた安定したものであったでしょう。しかし……。

紀元前44年。
カエサルはブルータスらの刃に斃れてしまい、クレオパトラは新たな庇護者を求めて、アントニウスに接近しました。

この行動を恋多き多情な女と片付けるのは簡単です。
が、やはり政治的な背景を無視することはできません。

アントニウスからすれば、カエサルの後継者として、エジプトを拠点にできれば旨味があります。クレオパトラも庇護者がなんとしても欲しいわけです。
熱烈な恋愛関係があったほうが、話としてそれは面白いでしょう。

しかし、支配者層の人間である二人にとって、まず念頭に浮かぶのは利害関係ではないでしょうか。

アントニウス/wikipediaより引用

アントニウスは自分こそカエサルの後継者であると、プロパガンダを流布しました。
エジプトにおいては、その喧伝の際にクレオパトラも利用されました。

「カエサルが愛した女は今どこにいる? このアントニウスの腕の中だ。アントニウスはエジプトも、美しいエジプトの女王も手に入れたのだ」
クレオパトラは愛人というよりも、むしろトロフィーのように扱われたわけです。

ここまでの流れは彼女の読み通りだったかもしれませんが、コトはそう簡単ではありませんでした。
アントニウスは、若き政敵であり、カエサルが後継者に指名したオクタヴィアヌスに追い詰められていくのです。

そしてオクタヴィアヌスもまた、クレオパトラを利用します。

「アントニウスは、邪悪な異国の女王に骨抜きにされたのだ。あいつはもうローマのために戦ってはいない。淫らなクレオパトラのために剣を執っているのだ。ローマ市民諸君、きみたちはそれでもあの愚かな男を支持するのか?」

アントニウスが利用したクレオパトラを、今度はオクタヴィアヌスが悪用。
彼女は男を手玉に取る女王どころか、男たちに言いように扱われる宣伝素材のような存在になってしまったのです。

 

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アントニウスとクレオパトラに亀裂を入れる

紀元前31年9月2日、アントニウスとクレオパトラの艦隊は大敗北。もはや命運は尽きました。

クレオパトラは帰国し、毒を集め、死刑囚相手に実験を繰り返します。そこで、どうやらエジプトコブラが最も苦痛が少なそうだ……とつきとめたようです。

クレオパトラはアントニウスを無視し、一人でオクタヴィアヌスと交渉を開始。
「もし戦争を仕掛けたら、私の豊かな財産に火を掛けて自害します」

オクタヴィアヌスは、正直なところクレオパトラをどうするか、考えあぐねていました。

プトレマイオス朝は滅ぼす。しかし女王は無理強いすれば財産ごと死ぬという……それは何としても避けたい。
ここは甘い声で誘い、降伏してもらったほうがよさそうだ。そう考えるオクタヴィアヌス。
それと同時に策を仕掛けます。

アントニウスからの助命嘆願を無視し続けたのです。
その一方で、クレオパトラにはあなたが愛おしい、愛人にしてもよいと、甘い言葉を投げかけました。
クレオパトラの色香に迷ったというよりも、政治的な駆け引きであり、心理戦です。

次第にアントニウスとクレオパトラのカップルの間に、亀裂が入ります。

クレオパトラにとって、ろくな考えのないアントニウスは邪魔者になってきてはいますが、それでも彼を失い、その兵士まで失うことは考えられません。
アントニウスもクレオパトラに疑いの目を向けてはいました。
しかしここで彼女に別れを叩きつけてエジプトを出るというのは、死を意味するもの。

微妙なバランスの上に成り立つ、危うい関係は、何かのキッカケ一つで脆くも崩れ去りそうな状況になっておりました。

オクタヴィアヌス(アウグストゥス)/wikipediaより引用

 

「あの女が裏切ったんだ! 俺を裏切った!」

こうしたアントニウスとクレオパトラの行動は、単なる悪あがきであり、死を先延ばしにしているに過ぎませんでした。

そして紀元前30年、オクタヴィアヌスが進軍を開始。アントニウスの軍勢では裏切りが続出し、次から次へと味方が消えていきます。

「あの女が裏切ったんだ! 俺を裏切った!」
彼は悲痛な声で叫びながら、宮殿に駆け込みました。

そこで待ち受けていたのは、クレオパトラが霊廟で自害したという知らせでした。
もはやこれまでか!
敵に追い詰められ、もはや死は目前。アントニウスは剣を執り、腹を突き刺しました。しかし壮健な将軍である彼は、簡単に死ぬことができません。

腹部から大量の血を流し、息も絶え絶えになったアントニウス。
誰も彼にとどめをさしません。クレオパトラに報告せねばならなかったのです。

瀕死のアントニウスは霊廟に運ばれます。
クレオパトラの閉じこもった霊廟は入り口がふさがれていたため、瀕死のアントニウスはロープにくくりつけて運ばれました。
クレオパトラは胸をかきむしって嘆き、腕の中で死んでいった夫の死を悼みました。

しかし一体なぜ、クレオパトラ自害の誤報が流れたのでしょう?

考えられるのは、アントニウスが邪魔であった何者かの策。
そう、クレオパトラに他なりません。

 

色褪せていたのは彼女の美貌ではなく政治力か

霊廟から連れ出されたクレオパトラを、オクタヴィアヌスは丁重に扱いました。
オクタヴィアヌスにとって、生きたクレオパトラも、死んだアントニウスも、絶好の宣伝材料です。

「ローマを捨てて淫らな女を選んだ敵にも、その妻にも、私はこんなに寛大な態度を取るのだ!」
そうアピールする絶好の機会でした。

彼は、クレオパトラの望みであるアントニウスの葬儀も、かなえてあげました。
ところがクレオパトラは、一向に自分と交渉しようとしないオクタヴィアヌスの態度に、焦りを感じ始めます。
カエサル、アントニウスの時と違って、彼は交渉すらしようとしないのです。

やっと顔を合わせたときも、彼は丁寧だけれども冷淡な態度でした。
このときクレオパトラはオクタヴィアヌスを誘惑しようとしたと伝わります。しかし、その色香も色褪せたのか、それとも相手が潔癖すぎたのか、それも通用しません。

この場合、むしろ色褪せていたのは、彼女の政治力でしょう。
権力から失墜し、相手を惑わせる淫らな女王という悪名にまみれた彼女に、わざわざ手をさしのべる者はもういないのです。

『このまま生きていたら、ローマに連れて行かれ、死ぬよりも辛い目に遭うかも知れない』

クレオパトラは、ある苦い記憶を思い出していたかもしれません。

 

屈辱の生よりも、誇り高き死を!

紀元前46年8月。
カエサルの愛人となっていたクレオパトラは、ローマに招かれて凱旋パレードを見物していました。

そこで見世物にされていたのは、異国の反逆者たちです。
鎖に繋がれ罵声が浴びせられる中には、クレオパトラの妹であるアルシノエもいました。
あの時のアルシノエのような目に遭うことは、誇り高き女王にとって耐えがたいことです。

決断の時が訪れました。

クレオパトラは黄金の寝台に身を横たえ、死を選びます。

死にゆく女主人の傍らで、忠実な侍女も二人、運命をともにしました。
女王の豊かな乳房、あるいはなめらかな腕に毒蛇がからみつく。

なんとも絵になる光景です。彼女の最期は歴史絵画の題材にうってつけでしょう。

コブラの毒で自殺をするクレオパトラ/wikipediaより引用

しかし、本当に彼女が毒蛇に噛ませたかどうかは、判然としません。

奇妙なことに、部屋からは蛇は見つかりませんでした。体にも毒蛇に噛まれた人に出るような斑点はなかったと言われています。
二つの小さな刺し傷があったとされていますが、毒を直接飲んだのかもしれません。こうした状況から、他殺説もあるそうです。

「なんということだ! クレオパトラが自殺未遂だなんて」

報告を聞いて慌てたオクタヴィアヌスは蘇生を施させますが、内心は『このまま死ねばラッキー』と思っていたでしょう。

やはり女性を処刑することは、王として憚られる行為です。
事実、オクタヴィアヌスは、クレオパトラが生んだ男子を殺害しましたが、女子は見逃しました。

殺さないかわりに監禁して「敵を寛大に扱う」芝居をするのも面倒です。
ここで伝説として死に、その葬儀を悲しそうな顔で執り行うのが最善の方法。
凱旋パレードは肖像画でも間に合います。

オクタヴィアヌスは死せる政敵を駒として、プロパガンダのネタとして存分に利用し、その政治的影響力を一段と高めることに成功したのです。

男を手玉にとった淫らな女王――
そんなイメージは、プロパガンダが元ネタになっている要素も大きく、それがシェイクスピアからハリウッド映画まで、様々な作品の中で増幅されていったのですね。

政治的に不安定な玉座を守るため、流転の日々を強いられた苦悩の女王。
それが、絶世の美女クレオパトラ、真の姿ではないでしょうか。

文:小檜山青

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