おそらく世界で最も有名な美人であろう――クレオパトラ7世は紀元前30年8月12日が命日。
世界三大美女の一人に数えられ、「コブラに腕を噛ませて死ぬ」という最期もまた、彼女の美しさを際立たせる伝説の一つとなっています。
そんな調子ですから生前の頃はさぞかしキラキラした生活を送っていたことでしょう……と思いきや、彼女の人生は波乱そのものだったことをご存知でしょうか?
実は華麗なイメージに反して苦難の連続だったのです。
一体クレオパトラとはどんな女性だったのか。
その生涯を見て参りましょう。
※世界三大美女=クレオパトラ・楊貴妃・ヘレネー(日本だとヘレネーの代わりに小野小町)
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「カエサルへの贈り物」と称して自ら寝具の中から……
クレオパトラのイメージといえば、大胆不敵で男を翻弄する、美しき悪女といったところでしょう。
ローマのカエサルを手玉に取り、そのあとはアントニウスを籠絡……と、こうしたイメージには、偏見があることを忘れてはいけません。
貞節とは無縁、淫らな異国エジプトの女王というイメージは、彼女を滅ぼした側が広げた物語です。
クレオパトラは、弟プトレマイオス13世と妹アルシノエ四世によって玉座を奪われ、その奪還のためにカエサルを誘惑したとされています。
「カエサルへの贈り物」と称して自ら寝具の中から転がり出た場面は有名で、絵の題材にもされています(TOP画像)。
しかしカエサルとて「なんかすごくセクシーな女王が来ちゃったぞ!」と、ただ鼻の下を伸ばしていたわけではないでしょう。
ローマにとって友好的な政権をエジプトに立てたいと画策している時、うら若き女王が庇護を求めて来たとすれば、カモがネギをしょって来るようなもの。
クレオパトラが美しかろうがそうでなかろうが。
性格が善良だろうがそうでなかろうが。
どのみちあまり関係はなかったでしょう。
重要なのは彼女が王家の女性であった点です。
新たな庇護者を求めてアントニウスに接近
もしもカエサルが、そのままローマの実力者として君臨をし続けたのであれば、クレオパトラの運命もまた安定したものであったでしょう。しかし……。
紀元前44年。
カエサルはブルータスらの刃に斃れてしまい、クレオパトラは新たな庇護者を求めて、アントニウスに接近しました。
この行動を恋多き多情な女と片付けるのは簡単です。
が、やはり政治的な背景を無視することはできません。
アントニウスからすれば、カエサルの後継者として、エジプトを拠点にできれば旨味があります。クレオパトラも庇護者がなんとしても欲しいわけです。
熱烈な恋愛関係があったほうが、話としてそれは面白いでしょう。
しかし、支配者層の人間である二人にとって、まず念頭に浮かぶのは利害関係ではないでしょうか。
アントニウスは自分こそカエサルの後継者であると、プロパガンダを流布しました。
エジプトにおいては、その喧伝の際にクレオパトラも利用されました。
「カエサルが愛した女は今どこにいる? このアントニウスの腕の中だ。アントニウスはエジプトも、美しいエジプトの女王も手に入れたのだ」
クレオパトラは愛人というよりも、むしろトロフィーのように扱われたわけです。
ここまでの流れは彼女の読み通りだったかもしれませんが、コトはそう簡単ではありませんでした。
アントニウスは、若き政敵であり、カエサルが後継者に指名したオクタヴィアヌスに追い詰められていくのです。
そしてオクタヴィアヌスもまた、クレオパトラを利用します。
「アントニウスは、邪悪な異国の女王に骨抜きにされたのだ。あいつはもうローマのために戦ってはいない。淫らなクレオパトラのために剣を執っているのだ。ローマ市民諸君、きみたちはそれでもあの愚かな男を支持するのか?」
アントニウスが利用したクレオパトラを、今度はオクタヴィアヌスが悪用。
彼女は男を手玉に取る女王どころか、男たちにいいように扱われる宣伝素材のような存在になってしまったのです。
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