1516年(日本では永正三年)4月23日、欧州でビール純粋令という法律が施行されました。
ビールといえばドイツ、ドイツといえばビール。
そう連想される通りドイツの法律……といいたいところですが、この時点ではまだ統一されていないので厳密にはそう言い切れません。
今も南ドイツの州として地名を残す”バイエルン王国”というところでした。
毎年ビールの祭典・オクトーバーフェストをやっているところですね。
時代は神聖ローマ帝国が傾く一方だった頃。
「ビールを取り締まってる場合か?」と言いたくなりますが、一応ちゃんとした経緯や目的はあります。
サッカーがお好きな方にとってはバイエルン・ミュンヘン、旅行好きの方にとってはロマンチック街道やノイシュヴァンシュタイン城が思いつくでしょうか。世界に名だたる自動車メーカー・BMWとアウディの本拠地としても有名ですので、ドイツの地名のなかでは聞き覚えがある人が多いでしょう。
バイエルンでテコ入れのため
バイエルンの歴史から話すと本題から逸れてしまうので手短にマトメますと。
10世紀に「バイエルン」という国ができ、以来19世紀までずっと同じ名前・国体・王制を保ち続けた地域でした。
しかし、経済的には北ドイツに追いつけない面も多く、そのテコ入れの一環としてビール純粋令が布かれたのです。よし繋がった。
当時ドイツのビールは、今よりももっとバリエーションが豊かでした。
いい意味でも悪い意味でも、です。
現代でもベルギーなどでは、フルーツや香草を使ったビールが盛んに作られていますが、この法律が作られるまではドイツでも製造していました。
しかし、全ての業者で質を安定させることは難しく、また不届きなヤツはどこにでもいるもので「味ごまかすために(ピー)とか(ズキューン)とか入れちまおうぜ。誰もわかんねえよゲッヘッヘ」なんてことを本当にやっていた悪質な業者もいました。
ぶっちゃけた話、明らかに飲食物じゃないモノも入れていたそうです。
ワインの香りや味わいを表すとき「鉄釘のような」なんて表現をすることがありますが、多分この時代のドイツの業者だったらホントに釘を入れていたでしょう。そのくらいサイテーなヤツがいたのです。
そこで、「これはいかん」と考えたのが当時のバイエルン王・ヴィルヘルム4世です。
パンよりビールが大事ってどんだけ
法律の内容は大きく分けて二点。
一つは、「ビールの原料は麦芽、水、ホップに限る」こと。
後に酵母も認められ4種類になります。
ホップというのは松ぼっくりのような形の花をつける植物で、ビールの苦味の元でもある重要な材料です。
よくCMで「ホップの苦味がなんちゃら」と言っているアレですね。
もう一つは、「小麦をビールに使ってもいいのは王室の醸造所と修道院に限る」というもの。
小麦といえば当然パンの原料ですが、あっちこっちで小麦をビールに使われてしまうとパンを作るための小麦が足りなくなってしまいがちだから、という理由でした。
この時代から既に
「ビール>>>>(越えられない壁)>>>>パン」
という認識だったんですね。
日本史上の酒好きでもここまでの人はいないような気がします。ドイツ人パネェ。
現在小麦を使用したビールはドイツ語で”ヴァイツェン”というのですけれども(厳密にはもっといろいろ決まってますが割愛)、このとき許可を得たのが宮廷と修道院のみということで、「貴族のビール」とも呼ばれたそうです。
実際、ヴァイツェンを始めとした小麦使用のビールは、麦芽(大麦の芽)のみ使用のものと比べて味が穏やかで上品です。
「ビールは苦いからイヤ」という概念が変わる可能性もあります。
そしてこの二点を定めたことにより、バイエルン王国内のビールの質は飛躍的に向上します。
おそらくや逮捕なり行政指導なりをされた人も大量にいたのでしょうけども、残念ながらそこに関する記録は見つけられませんでした。
それまでは質の良いビールを北ドイツ諸国から輸入していたのですが、その必要もなくなり王室のお財布も安定。
あっちこっちの王家が財政難でパンクしがちだった近代において、バイエルンがずっと独自の王国を保てた理由の一つかもしれません。
今もドイツのビールにはこの規制が生きている
この路線はドイツ統一以降も保たれており、むしろバイエルンが起爆剤になってドイツ全土に広まりました。
EC(EUの前身)発足の際「ンなもん守ってたらウチのビール輸出できねえだろ!却下だ却下!!」とイチャモンをつけられたりしながらも、ドイツ側が「じゃあ輸入品に関しては守らなくてもいいよ。でもウチで作るビールは純粋令守らせるからよろしく★」と譲歩したため、ドイツ産ビールは今もこの方針を守っています。
現在は法律上、砂糖もOKになったそうです。
が、本家本元のバイエルン州ではやはり麦芽・水・ホップ・酵母だけでビールを作っているとか。
近年発泡性とかいろいろやり始めた日本酒の蔵元さんたちとは真逆の方向で面白いですね。
どっちにも良さはありますので、優劣がどうこうという話ではないですし。
上記の通り小麦を使ったビールは基本的に苦味が穏やかだったりしますので、必ずしもビール=苦いお酒というわけではありません。
炭酸を強く感じるもの。
泡を楽しむもの。
ハーブや香辛料などでフレーバーを楽しむものなどいろいろあります。
個人的にイチオシな銘柄もありますけれど、もはや何のコーナーだかわからなくなりそうなのでやめておきましょう。
よろしければ「ビールの歴史」もマトメましたので、以下に続いてご覧いただければ幸いです。
長月七紀・記