世界史

13才少女がナチスに追われてスイスへ脱出『ファニー13歳の指揮官』

シリアから、ミャンマーから、あるいはウクライナから。

難民たちが必死に国を脱出する映像には胸を締め付けられますが、ましてやそれが幼い子供たちとなると、この子たちは一体これから……と、絶望的なまでに不安な思いに駆られてしまいます。

今から70年以上前、わずか13才の少女がフランスからスイスへ、子供たちを率いて脱出しました。

少女の名前はファニー。

そして出来上がったのがこの一冊『ファニー 13歳の指揮官』(→amazon)です。

確かに、おもしろい。

バツグンに面白いのですが、正直に言うと、当初の私は本書を甘く見ていました。

ティーンズ向けで、字も大きい。表示もかわいらしいし、まあそんなにヘビーな話ってわけじゃない。感動ものでしょう。

と、軽く考えていたのですが、とんでもない誤解でした。

ファニー・ベン=アミ。

この13才の少女はとんでもなく勇気があり、賢く、機転が利きます。

スパイ映画さながらの冷や冷やする場面もあれば、残酷な処刑や首つり死体も出てくる。

本書は感動する実話というだけではなく、凄まじく緊迫感のある一冊だったのです。

 

フランスなら大丈夫だと思っていた

1939年8月、フランス。ファニーの一家は絶望に襲われていました。

ロシアで生まれた彼女らは、共産主義者から逃れてドイツへ。

ユダヤ人であったためにナチスの迫害を受けて、フランスで暮らしていたのです。両親とファニーとその妹たち、つつましい生活でした。

しかし、その平和は突如、暗転します。

ある日、ファニーと父親はフランス共産党幹部の葬儀の列を見かけました。

「インターナショナル」の歌が流れているのを聞いて、父親は少し微笑みました。故郷のロシアを思い出したのでしょう。

その様子を運悪く隣人に見られ、「共産主義者」として密告されてしまったのです。

ファニーの父親は、夜中に突然連れ去られました。フランスならば大丈夫だと思っていたのに……と嘆く一家。

なぜこんなことになるのか。

悲しむファニーに、母親は語りかけます。

「外国人というだけで、いわれなき中傷を受けることがあるの」

このやりとりにはゾッとしました。現在もありうる恐怖ではないでしょうか。

ファニーは幼いながらも大人の会話を注意深く聞き、一体何が起こっているのか知ろうとしました。

「戦争が始まれば、わたしたちはひとり残らず、こまったことになるよ」

そんな大人の言葉を耳にして、ファニーは不安を感じます。

戦争は確実に、彼女に迫ってきていました。

 

ショーモン城に「子どもの家」とは……

迫る迫害を避けるため、ファニーは二人の妹を連れて児童救済協会の「子どもの家」に預けられることになりました。

これがなんと、驚くことにショーモン城であったのです。

ショーモン城

ショーモン城といえば、カトリーヌ・ド・メディシスが、夫の死後その愛妾であったディアーヌ・ド・ポワティエに与えた城です。

呪いの道具がびっしりと詰まっていたと伝わる恐怖の城。

そんな禍々しい城が、70人ほどの子供たちが身を寄せ合う場所となったのでした。

ディアーヌ・ド・ポワチエ
中世フランスの美魔女ディアーヌ・ド・ポワチエ~19歳若い王を魅了す

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ファニーたちは近くの村の学校に通いました。

村人たちは、彼女たちがユダヤ人であると知っていても、見て見ぬ振り。

ファニーは持ち前の好奇心で、様々な知識を身につけます。

その中には薬草に関するものもありました。

生まれながらのリーダーシップ、好奇心、高い知性。こうした彼女の特長は、のちに役立つこととなります。

1942年、初夏。

三年間におよぶ平穏はいとも容易く破られました。新しく村に来た司祭が、城の秘密を密告したのです。

「ドイツ軍が来るぞ!」

子どもたちは皆、近隣の農場に匿われ、7月には城は空っぽに。この城での経験も、あとで役に立つことになります。

読み進めるうちに、ファニーは何故こんなに賢く知識が豊富なのかと驚かされるのですが、その理由はちゃんと本書に書いてあるのでした。

 

勇敢な少女がレジスタンスを救う

ファニーたちはショーモン城を出て、母親とも再会、ムジェーヴという街で過ごしていました。

ある日、ファニーは妹が忘れ物をしたため、一人でその場所へと向かいます。

そこで髭だらけで、銃を持った怪しい男に発見されてしまうファニー。

緊張で硬直していたファニーは、やっとの思いで口にします。

「あなたたち、レジスタンス?」

そうだ、と答える男にファニーは感激。

「じゃあ、きみもドイツ相手に戦う気があるかい?」

割と気軽に13才少女を勧誘するレジスタンス。これが実話とは凄い。

「もちろん!」

ここで即答するファニーもかなりの度胸です。

かくしてファニーは、手紙を仕込んだパンをレジスタンスに届ける任務を日々続けることになるのでした。しかも母親にも秘密です。

こんな小さな女の子ながら、レジスタンスの適性抜群でうなってしまいます。生き延びる者というのは、やはり機転が利く者なのでしょう。

さらに別の日、村のパン屋がドイツ側であることに気づくと、夜にベッドからコッソリ抜け出し、夜間外出令も無視してレジスタンスのアジトへ報告。

少女が夜中に一人で……。このあたり、どうにもこうにもハラハラさせられます。

ここでファニーが亡くなるわけがないと思いつつも、こんな危険なことで大丈夫か。もはやスパイ小説並の緊張感なのです。

しかしその活躍がどれほど重要であったか。明らかになるのは、ずっと後のことです。

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