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【モンゴル相撲・ブフ】
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ブフと日本相撲の共通点は?
・伝統的に戦士の鍛錬としての側面と、神事としての側面がある
・かつては特別な行事の際に、神々への奉納として行われた
・女性への禁忌
日本の相撲では土俵に女性はあがれませんが、ブフの場合、競技前に力士が女性と接触することすらも避けなければなりません。
ただし若い世代では伝統的に守られていないようです。
・ブフの階級名も独特
ガルディ(迦楼羅、ガルダ)、アルスラン(獅子)……カッコイイ!
※外国人から見たら「横綱・大関・関脇・小結」などもカッコイイのでしょう
・ローカルルールや大会がある
現在、主な団体は、モンゴル国のハルハ・ブフと、内モンゴル自治区(中国内)のウジュムチン・ブフに大別されます。
が、全国各地に地方ごとのルールがありました。
日本の相撲でも、江戸時代以前は各地で興行が行われていました。
※現在も寺社で相撲大会が行われることがあります
ブフと日本の相撲、ここが違う
共通点が多いブフと相撲。当然のことながら、異なるルール等もあります。
・土俵がない
ブフでは足の裏以外の体が地面につくことが勝利敗北条件となり、「投げること」「転ばせること」が戦い方の基本となります。そのためパワーよりもテクニックが重視されます。
自らはうまくバランスを取り、相手がバランスを崩すように仕掛けて、巧みに勝ち進むのが名人の技となります。
重要なのは柔軟性や体幹バランスと言ったところでしょうか。この辺の感覚は、相撲というより柔道に近いですね。
・「決まり手」の概念が異なる
ブフの場合、技とみなすものの中には勝敗の決着に関わらない動作も含まれており、「決まり手」という概念はありません。
勝敗の記録にも「どの技を使って勝敗が決したのか」と記載されるわけではありません
・技の数は無限大
日本の相撲は、四十八手と呼ばれる決まり手があります。
しかし、ブフの場合、その概念はなく、動作ひとつとっても選手ごとに細かい動きの差があり、選手の数だけ技があると言えるかもしれません。
日本の相撲におけるモンゴル人力士の強さも、その変に秘密がありそうですね。
型通りでないぶん、相手を倒す&押し出すための体重移動の感覚が大きく異なってくるはずです。
なぜモンゴルの勇者は強いのか?
チンギス・ハーンの時代、彼らの軍勢に敗北した国の人々は、きっとそう考えていたことでしょう。
平成の日本においても、同じ疑問は湧いてきます。
なぜ、モンゴル人力士はあんなにも強いのでしょうか。
様々な議論がなされています。
が、その秘密は、ブフと相撲の違いにあるのかもしれません。
前述の通り、投げ技が主体のブフでは柔軟性とバランス感覚が重視されます。
また、ブフとともにモンゴルで重視されている乗馬技術も、バランス感覚や筋力を鍛えることに適しているとされています。
以下のYoutube動画をご覧ください。
2015年開催のナーダム(乗馬・弓・相撲の三種競技)。
そのうち乗馬競技をドローンで撮影した様子ですが、彼らにはモンゴル相撲と同時にこんな激しい騎乗能力も求められるのです。
昔、雑誌Numberのインタビュー記事で、JRA騎手(たしか武豊騎手)がこんなことを仰られていたのを思い出しました。
「鍛えられたサラブレッドは、車で言えばF1みたいなもの。慣れてない人が乗ったら、まず間違いなく事故(落馬)して危険」
おそらくやモンゴルの馬は、サラブレッドほどのスピードは持っていないでしょう。
しかし、彼らが走るのは状態の悪いデコボコの荒野。まっすぐ進むだけで、相当、困難なハズです。
子供の頃からそれに慣れ親しんでいた選手たちが、いざ体重を身に付けて、日本の土俵に上がったらどうなるか?
今、私達はその結果をテレビで見ているところです。
★
あらためてモンゴル相撲をおさらいしてみますと……。
・起源は古くて新石器時代(9,000年前)から
・新しい記録でもBC2世紀頃から
・匈奴の時代から「生きるために」鍛え続けてきた伝統を受け継いでいる
そりゃあブフは強いっすわ! と、思わず唸ってしまいました。
日本人が相撲や柔道に矜持を持つと同様、彼らも悠久の歴史と共にブフへの敬意を抱いてきたのです。
かつて草原の覇者となったモンゴル戦士を鍛え上げてきた格闘技。
モンゴル相撲が強いのも、至極当然の帰結なのでしょう。
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文:小檜山青
【参考文献】
井上邦子『モンゴル国の伝統スポーツ―相撲・競馬・弓射 (スポーツ学選書)』(→amazon)