須磨に流され、悲しみに暮れた光源氏。
讃岐で夜叉のような姿と化した崇徳天皇。
奄美大島で鬱憤を晴らすべく、剣の素振りをしていた西郷隆盛。
日本史では無念を連想してばかりですよね。
ところが、悠久の歴史を誇る中国には異端の傑物がいるもので。
「流刑、めっちゃ楽しい! 地方グルメ最高!!」と、全力で流刑ライフを満喫した人がおります。
その名も蘇軾(そしょく)。
1037年1月8日はその誕生日であり、号から蘇東坡(そとうば)とも呼ばれた北宋の詩人です。
話題のゲーム『水都百景録』。
中国明代の街づくりを進めるもので、新実装された杭州には、有能政治家としての蘇軾の軌跡が残ります。
彼が行った大規模な土木工事のあとが、現在も杭州に残されているのです。
それだけではありません。
彼は三国志屈指の大決戦【赤壁の戦い】を詠んだ『赤壁賦』の作者としても知られているのですが、多芸多才なだけあって、トロトロの食感がたまらない料理・東坡肉(トンポーロウ)の産みの親だったりします。
では一体、どれほど流刑をエンジョイしたのか?
現代人の心にも染み渡る、その悠久な生き方を振り返ってみましょう。
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スーパーエリート・三蘇
時は北宋1057年――日本は平安時代です。
超難関で知られる官吏登用試験「科挙」の試験委員長をつとめる欧陽脩(おうようしゅう)は悩んでいました。
※以下は科挙の関連記事となります
元祖受験地獄!エリート官僚の登竜門「科挙」はどんだけ難しかった?
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「どうにも最近の答案は、必勝パターンに乗っかったものが多いんだよなぁ。もっと個性が欲しいねぇ」
中国のスーパーエリート試験・科挙。
受験生もいろいろと対策を練っていまして、合格への必勝パターンなんてものを対策として学んでいるのです。
これがどうにも欧陽脩は気に入らなかった。
彼は試験委員長として、少しでも必勝パターンの臭いがする答案を片っ端から落としたのでした。
受験生からすれば悲鳴があがりそうな展開です。
結果、その年の合格者はわずか3名。しかもそのうち2名は、蜀(四川省)出身の兄弟でした。
兄の蘇軾(そしょく)
弟の蘇轍(そてつ)
あの超難関を、しかも二十歳そこそこの兄弟が揃って合格したのですから、これはもうミラクル。
こんな兄弟を育てた親もきっと凄いんだろうなぁ……と、調べてみたら、実際、父の蘇洵(そじゅん)も才に恵まれた人物で
遅咲きの官界デビューとなります。
「三蘇」
彼らはこう呼ばれて、北宋きっての文章家として名を残すようになります。
そんな蘇軾、さぞやエリート街道を驀進したんだろうなぁ、と思いますよね。
しかし実は……。
新法党vs旧法党
当時の北宋は、新法党と旧法党と呼ばれる官僚が政治闘争を繰り広げておりました。
この争いは、王安石が政治改革を断行しようとしたことから始まります。
世界史を習われた方は記憶の片隅にあるかもしれません。
蘇軾は、この争いにおいて旧法党に所属していました。
そして政治闘争に敗れ、エリートコースを外れてしまうのです。
36才となった1071年からは、地方勤務になりました。
「まぁでも俺って、地方勤務の方が好きだしね。中央はギスギスしてやってらんねぇし」
意気消沈することもなく、田舎生活を満喫し始めた蘇軾。
さらに彼は1079年、「皇帝を誹謗した罪」で黄州(湖北州)へと流刑となってしまうのでした。
このとき44才。
新法党の神経を逆撫でしたことが原因でした。
流刑ライフ、悪くないじゃん!
流刑の地に流された蘇軾は、当初こう思いました。
「やっぱ流刑やばいっす。ちょっと人生舐めてたのかもしれ……ん? よく見てみりゃ、黄州ってよさげじゃね? 長江の魚はめっちゃうまそうだし、竹藪あるってことは筍食べ放題じゃん! ヒャッハー!」
さすが生まれついてのグルメ。
実は黄州は、魚や筍だけではなく、豚肉も絶品として知られておりました。
この豚肉を最高に美味しく食べたい!
そう思った蘇軾は早速、研究を始め、そして完成したレシピが「紅焼肉(ホンシャオロウ・豚肉の醤油煮)」、つまり「東坡肉」の前身でした。
そんな蘇軾をみて、慌てふためいたのが、わざわざ駆けつけた弟の蘇轍です。
「兄上、口は災いの元でしょ。そもそも流刑だってその口の悪さのせいなんだから。おとなしくしてください!」
しかし、蘇軾はそんなことはお構いなし。本物の天才って、こんなもんなんですよね……。
給料も貰えないのに友人を接待し、真夜中まで酒を飲み、ときに詩を詠む悠々自適の流刑ライフ。
とはいえ、収入がないのはやっぱり痛い。一年間も遊んで暮らせば金がなくなります。
見かねた友人が、役所にかけあって荒れ地を借りてくれました。
「とりあえずこれでも耕せば、まあ、死なない程度には生きていけるか!」
蘇軾は晴耕雨読の日々を送る合間、近くの名勝を訪れては詩を詠む日。
この黄州時代に詠んだ作品に『赤壁賦』があるのでした。
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