まだ引っ張るのかという感じですが、「リア充」っていうと何となく恋人同士、つまり結婚前のカップルをイメージしますよね。結婚するとお金のことや生活について現実的に考えなくてはいけないからでしょうか。親戚とかママ友の付き合いとかありますし。
もちろんいつまでも恋人時代のように仲睦まじいご夫婦やご家族もいらっしゃいますが、そうとも言い切れないのがまた哀しいところ。特に両親のうちどちらかが亡くなった後、いろいろとめんどくさいことになることはそう珍しくなかったりして……。
今回はフィクションの世界ではありますが、そんなお話です。
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ロミオとジュリエットは四大悲劇に入らない
1606年(慶長十一年)の12月26日は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ、「リア王」が初演されたといわれている日です。
この話をご存知の方からすると、「何でクリスマス明け&新年直前のめでたい時期にこんなもん上演したんだよ」とツッコミたくなるタイミングでしょう。まさかシェイクスピアによるリア充への嫌がらせだなんてそんなバカな。
とはいえ日本では名前を聞いたことがあってもよく知らない方のほうが多いと思いますので、テキトーに省略しながら紹介していきますね。
先程「四大悲劇」と書いた通り、この作品はシェイクスピアの書いた数々の脚本の中でも、最も悲劇的なものの一つです。他には「ハムレット」、「マクベス」、「オセロ」が挙げられます。
最も有名であろう「ロミオとジュリエット」が入っていないのは意外ですが、途中にリア充シーンがある上、本懐を遂げていると言えなくもないからなんですかね。
まあそれはさておき、リア王のあらすじを一言で言うと「架空のイングランドで無茶振りした王様が三人の娘達と仲違いして嫌な死に方をする」という実に身も蓋もないものになってしまいます。これぞ悲劇。
※以下劇中の台詞は大いに意訳・超訳を含みますので悪しからずご了承ください。
「領土やるからワシを褒めろ!」って、何考えてんすか…
物語は、リア王が「ワシもう年寄りだから王様の仕事やーめた☆」と突然王位を放り出すところから始まります。この時点で娘達にぶん殴られても文句は言えないレベルです。
しかしその後「お前たち三人に領土を分割してやるから、ワシを褒めろ!」と何がどうしてそうなったと言いたくなるような要求をしたため、一先ず長女・ゴネリルと次女・リーガンはその通り父親をベタ褒めしました。
どうでもいいけど女性名の割にゴツイですよねこの二人。
しかし、三女・コーデリアだけは父親を褒めませんでした。
「お前は一番若いのに薄情なやつだ」とリア王は末娘をなじりますが、彼女は涼しい顔で「若いからこそ、正直なのです」と返します。
姉二人は既婚、コーデリアは未婚というのも関係あるかもしれません。結婚すると何かと面倒な人付き合いが増えますからねえ。
ゴネリルとリーガンがアホでコーデリアが賢いというよりは、前者二人が現実主義、後者が理想主義だとみることもできますね。
が、耄碌したリア王は娘達の賢さを理解することはできず、コーデリアを勘当してしまいます。正直者を敵に回すとか完全に死亡フラグですどうもありがとうございました。
そしてゴネリルとリーガンを頼って穏やかな老後を過ごそうとしますが、この二人も父親の横暴とボケっぷりに嫌気がさすように・・・。彼女達はコーデリアと敵対していたわけではなく、むしろ正直だっただけなのに感動された妹を哀れんでいたからです。
「コーデリアのことを一番可愛がっていたのに、お父様ったらなんて酷いの」
「私達もいつ難癖をつけられるか……」
そんな懸念が生まれるのも無理のないことです。そして「やられるまえにやれ」ということで彼女達は父親を追い出します。蛙の子は蛙やな。
「娘達に対し兵を挙げようと思う」って、またかいな
一方、王様一家のこの有様を見て暗躍する人がいました。
リア王の重臣・グロスターの次男であるエドマンドです。彼は(当時の常識的には仕方ないのですが)私生児であるというだけで世間から冷たい目で見られており、兄であるエドガーをどうにか出し抜いて、グロスターの正当な後継者になりたいと考えていました。
そこでエドマンドは、兄が書いたものと見せかけて「父親を殺す計画がある」という内容の手紙を用意し、さらに「兄さんを止めようとしたら抵抗されました」と大嘘をついて自分を切りつけ、まんまと領地を相続することに成功します。
この騒動にリーガンが協力しており、彼女もまた「エドマンドは忠実な家臣だ」と勘違いしてしまったため、彼を重用するようになっていきます。
身内の騒動が一段落したグロスターは、娘達に追い出されたリア王を助けました。すっかり失望したリア王は「娘達に対し兵を挙げようと思う」という計画を打ち明けます。
が、既にリーガン側についていたエドマンドはこれを姉妹にバラしました。当然のことながら彼女らは激怒し、父親とグロスターを捕らえるべく動きます。
身内に裏切られ続けたリア王は徐々に正気を失っていきました。そこに狂人のフリをしたエドガーが現れ、リア王をさらに追い詰めていきます。
エドガーは上記の件で追い落とされて以降、ホームレスの身なりをしていたため父親ですらその正体がわからず、グロスターは「コイツと一緒にいたら王がますますダメになってしまう」と判断しますが、時すでに遅し。リア王は忠実な家臣よりも不審者(エドガー)を信用するようになってしまっていました。
が、グロスターはとにかくリア王を安全なところに避難させます。忠臣の鑑ですね。
もう絶対元には戻らん… ドロドロすぎる人間関係
場面変わって、姉妹とエドモンドはリア王討伐の計画を進めていました。
その最中、ゴネリル(※既婚)がエドモンドに迫り、それを夫であるアルバニーが立ち聞きしてしまうという昼メロ展開が起きます。
ついでに姉妹とエドモンドがリア王やグロスターにした酷い仕打ちについても聞いてしまい、妻の裏切りも相まってアルバニーは「敵を取ってやろう」と決意しました。
ちなみに同時進行でリーガンもエドモンドに心を寄せており、密かに三角関係になっています。ドロドロにも程があるやろ。
イングランドがこれほど不穏な状況になっていることは他国にも知れており、勘当されてから大陸に渡ってフランス王妃になっていたコーデリアの耳にも入りました。
彼女はクールな受け答えをしたものの、父親をウザがっていたわけではないので、夫であるフランス王に頼んでリア王救出の兵を出してもらい、自身も同行してイングランドに戻ってきます。
が、そこで待っていたのは正気を失った父親と、三角関係をもつれさせた姉二人&(実は裏切り者の)男。
父親との和解は叶いましたが、三角関係についてはどうしようもなく、ゴネリルがリーガンに毒を盛り、実の妹を殺すという非道な出来事が起きます。
そして王家は誰もいなくなった… あーあー
忠臣だったグロスターはエドモンドに陥れられて見るもR-18Gものの状態になり、戦争でもコーデリア側が負けてしまい、父娘揃ってエドモンドに捕まってしまいました。
もう少しでゴネリルと結婚し、イングランド王になれると見込んだエドモンドは有頂天でしたが、ここでエドガーが再登場。顔を隠したままエドモンドに決闘を申し込み勝利します。
顔を明かしたエドガーに対し、今際の際にエドモンドは謝罪。リア王とコーデリアの死刑執行命令を出したことを告白しました。
エドガーは急いで刑場に向かい、リア王を助け出すことに成功したものの、コーデリアの処刑は既に終わった後。それを聞かされたリア王もショック死してしまい、イングランド王の座はエドガーが受け継ぐことになります。
彼が物語の締めくくりに発した台詞(一部省略&意訳)は以下の通り。
「我々はこの悲しい時代を忘れてはならない。
最も老いた者が最も思い知ったはずだ。
我々はまだ若いが、彼のような目には遭わないし、彼ほど長く生きられないだろう」
兄弟姉妹の相続問題と不倫&三角関係というただでさえややこしさMAXの素材を組み合わせたあたりに、シェイクスピアの頭の良さが伺えます。普通の作家だったらこんなのまとめきれないというかネタとして選ばないでしょうし。
最後にエドガーが残ったあたり、一応正義が勝ったことになるのでしょうが、後味の悪さは随一ですね。
ちなみにゴネリルはエドガーvsエドモンドの決闘中に逃げて自害しているので、王家的には「そして誰もいなくなった」状態です。あーあ。
一つだけIFを言うとすれば、リア王の奥さんが生きていれば
とはいえ、この話は人によって大きく解釈が分かれます。登場人物の内面についてあまり書かれておらず、台詞にも表されていないので、想像の余地が大きいのです。
例えばコーデリアについて。彼女は心の底から冷血で、父を救うためではなく母国の混乱に乗じてイングランドを丸ごとかっさらうために戻ってきた、という見方もできますよね。
エドガーにしても、最初に貶められたときはどうかわかりませんが、最後の最後でオイシイところをかっさらうために出てきたといえないこともありません。
一番悪役に見えるのはエドモンドですが、彼にしたって私生児というだけで白眼視されたというコンプレックスがなければ、ここまでのことはしなかったでしょうし。
フィクションでIFを語るのもナンセンスですが、もしリア王の奥さん=三姉妹の母親が生きていたら全く違う話になるような気もします。
実際の人間関係同様、誰が100%正義で誰が100%悪とは言い切れない、というのが正解でしょうかねえ。
長月 七紀・記
TOP画像 リア王/wikipediaより
参考:リア王/wikipedia ITCL『リア王』あらすじ