ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活(原書房)

イギリス

産業革命の闇が異常に深い大英帝国ロンドン~悪臭漂う街で子供たちはドブさらい

NHKで放映された英国ドラマ『ヴィクトリア 愛に生きる』。

ヴィクトリア女王の結婚式は、目がくらむほど絢爛なロイヤルウエディングでした。

白く清楚なドレス、輝く宝石、贅を尽くしたケーキ、豪華な花束。いかにも大英帝国の栄華が極まった映像ですが、本作では同時に別の一面も描かれておりました。

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ヴィクトリアの夫となるアルバートは、ロンドンの下町で見かけた子供の惨めな様子に胸を痛め、ヴィクトリアにこう言います。

「きみはもっと庶民の暮らしを気に掛けるべきだ。4歳か5歳くらいの子供が、物売りをしているんだよ」

ヴィクトリアは治世への無関心を指摘されたように思ったのか、このアルバートの発言にムッとします。

アルバートは庶民の困窮を、ヴィクトリアの信任篤い首相メルバーン卿にも訴えます。

しかしメルバーンは、まったく関心を示そうとしません。

王族や貴族が豊かな暮らしを送る一方で、アルバートが指摘するように超格差社会でもあったロンドン。

世界で初めて産業革命を迎え、貧困や荒廃、公害にも直面していたその姿とはどのようなものだったのか。

産業革命の闇の一面を見ていきましょう。

 

「ロンドンは人間を喰らう飢えた獣だ」

ロンドンは入ってくる人間を片っ端からむさぼり喰う飢えた獣だ――。

ディケンズは嫌悪感をこめて、こう書き残しています。

鉄道が開通し、地方都市からの移動も可能となったこの時代、仕事と金を求めて人々はロンドンに押し寄せました。当時はイギリスのみならず、ヨーロッパ全土、植民地から「人とモノ」が集まる世界一の大産業都市だったのです。

このため、政治の中枢であるホワイトホールやウエストミンスター宮殿が整備される一方、貧民街は悲惨そのものでした。

入り組んだ道は悪党が身を隠す隠れ蓑になり、まるで迷宮のよう。行政も手をこまねいていたわけではなく、貧民街に手が入ることもありました。

しかし大抵の場合、住人は貧民街を追いやられ、また別の貧民街へと移されるだけ。貧民たちは裸同然の汚い格好で折り重なるように横たわっていました。

こうした街では生きている人だけではなく、赤ん坊や行き倒れ、不運な凍死者の死体が転がっていることも、決して珍しいことではありません。

ロンドンを流れるテムズ川は茶色く汚れ、淀んでいました。

川面に犬や猫の死体が浮かんでいても、誰も気にしません。

川岸には崩れそうな家があり、その住民たちは汚水をくみ取って生活用水にしています。

こんな水を飲めば当然病気に感染しかねません。そのため人々は、水代わりにビールを飲んでいました。

 

霧ではなく大気汚染の街・ロンドン

市場では屠られた家畜の脂と血が流れ、街の空気は石炭から出る煙によって汚染されています。

「霧の町ロンドン」とは「大気汚染の街ロンドン」ということでもありました。

建物はすすまみれになり、行き交う人の衣服も黒く汚れています。人々は咳き込み、肺を病むのでした。

街には、いたるところに悪臭がたちこめています。

醸造所や化学工場からは強烈な悪臭。馬車が主要な交通手段であるため、馬そのものの臭いや排泄物の悪臭も漂っています。

夜になると鯨油を燃やした街灯がともり、むっとする生臭さをが辺り一面に広まります。

風呂になど入ることのない人々の体臭。
腐りかけた魚や野菜。
猫の死骸。
ガス。
こうした悪臭も加わります。

馬車に乗る人は夏でも窓を閉め、ハンカチで鼻を覆いました。

貧困、大気汚染、病気、犯罪……そうした危険に巻き込まれて死ぬ者も多いのに、地方から人が吸い込まれ、街の中にきえていく。

ディケンズが語るように、ロンドンは人を喰らう街でした。その中で……。
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