その中でも、お国柄をからかうネタが定番。
・スコットランド人=ケチ
・アイルランド人=アホ、オチ担当
これにはご想像どおり歴史的経緯があり、イングランド人がスコットランドやアイルランドを支配してきたことを考えると、なかなか複雑なものがあります。
スコットランド人がケチというのも、イングランドが支配する際にこってりと重税で搾ったことが根本にあるのではないでしょうか。
税金を払いたくないスコットランド人は、ウイスキーを密造したりして毎日の暮らしをしのぐわけです。
それを見たイングランド人は「スコットランド人はしみったれた奴らだよなあ」と思う、と。
いや、だから、そもそもイングランドが搾取していたのが悪いんじゃないか、と堂々巡りになってしまうのも、本当にスコットランド人は歴史的に痛い目を見てきたからなのです。
その一つが【グレンコーの虐殺】でしょう。
大人気海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で話題となった「レッド・ウェディング」の元ネタ。
食事会をして打ち解け、すっかり油断していたところで殺される――凄まじい惨劇が行われたのです。
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スコットランド人は勇者の国だ 彼らは強い
イングランドの北部に位置するという時点で、スコットランドは宿命的にこの国と対峙する羽目になりました。
スコットランド人は、個々人という単位で見ると大変強い。
しかし残念なことに、この地は山あり谷あり。
山や谷ごとに氏族(クラン)と呼ばれる血族単位の一族が暮らしていて、しかも対立していました。
戦国時代の日本でも、村単位で国衆がいて、近隣する勢力と小競り合いを繰り返しておりましたが、それをイメージしていただければよろしいかと思います。
そしてこの氏族は、対立氏族に勝利するため、イングランドの助力を得ることがしばしばあり、結果、外部の介入を招いてしまいました。
団結すれば強いのにもったいない……。
そう、前述の通りスコットランド氏族は一致団結すればかなりの強さなのです。
一例をあげれば1815年、【ワーテルローの戦い】における「ロイヤル・スコットランド連隊(スコッツグレイ)」があります。
スコットランド人と葦毛の馬で構成された勇敢な騎兵隊は、多大な損害を出しながらも大活躍。あのナポレオンを戦慄させたと言われています。
団結すれば強いんです……スコットランドの人は団結すれば強い。しつこいけど何度も言いたくなります。
問題は、これまたしつこいですが氏族同士がまとまらないこと。
北国の厳冬をようやく進むも、遅刻してしまい……
スコットランドの受難をあげればきりがありません。
そんな中でも、悪名高いのが1692年。風光明媚なグレンコーの谷で怒った虐殺事件でした。
時間は少し遡り1688年、イングランドで名誉革命が起きました。
ステュアート朝イングランド王ジェームズ2世が王位を追われ、代わりにジェームズ2世の娘メアリー2世とその夫でオランダ総督ウィリアム3世が王位についた革命です。
王を斬首するようなこともなく成立したため、【無血革命】であるとされています。
しかし、王は死ななくとも、スコットランド人はこの革命に巻き込まれ、命を落とすことになります。
革命後の1692年――スコットランドのハイランド(高地)地方はまだ不安定な状況にありました。
革命で王位を追われたのはスコットランド系のステュアート朝の王であり、不満がくすぶっていたのです。
この不満を解消し、ハイランド人を配下に置くため、この年の元旦までに各氏族が新王ウィリアム3世に忠誠を誓う署名をしなければならなかったのです。
もし署名を拒めば、どうなるか?
その仕打ちは残酷極まりなく、土地は没収、家屋は破壊、法の保護を失った氏族は殺害されるリスクすらありました。
そこで氏族の長は次々と署名を済ませます。
しかし、一人だけ済ませていない、年老いた氏族長がいました。
グレンコーのマキーアンです。
マキーアンは反逆心からそうしなかったわけではありません。彼は宣誓する場所を65キロほど間違ってしまったのでした。
なんせ北国の厳冬の中です。
厳しい道のりをマキーアンはようやく辿り着き、6日遅れで宣誓を済ませます。
「やれやれ、遅刻したけど宣誓は済ませたぞ」
マキーアンはホッと一息ついたことでしょう。
しかし、王への忠誠が遅れたということは、粛清する“格好の口実”を与えたことになったのでした。
これから殺そうという相手に食事を振る舞われ
遅刻にかこつけてやったれ!
絶好の好機を逃すまい!
そう鼻息荒くしたのはスコットランド国務大臣をつとめていたブレダルベーン伯ジョン・キャンベルでした。
一方、グレンコーのマキーアンは、マクドナルドの氏族でした。
キャンベルとマクドナルドはハイランド地方でも有力な二大氏族であり、しばしば衝突。いわば宿敵です。
「あの憎たらしいマクドナルドの力を削ぐチャンスだ」
キャンベルはこの機に反抗的なマクドナルド氏族を誅滅すべきだと主張しました。
ウィリアム3世もこれに同意し、二人の署名入り命令書ができあがったのです。
「グレンコー谷にいる70才未満の者全てを殺害せよ」
こんな非情な命令を受け取ったのは、キャンベル氏族のロバート・キャンベル大尉でした。
2月1日、ロバート率いる連隊は、グレンコー谷に税金未納という名目で、宿営します。彼らは客人としてもてなされ、食事をともにとり、トランプを楽しみました。
ハイランドの人々は、客人を丁寧にもてなす風習があったのです。
これから殺す相手と、どんな気持ちで歓待を受けたのか。
想像すると背筋が凍るようです。
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