2023年7月にアニメ『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』が放送されるなど、いまだ勢いの衰えない本作品。
振り返ってみれば、2021年GWに公開された『るろうに剣心』映画版では、原作の「人誅編」に突入していました。
剣心のルーツと消えない傷に迫り、立ち塞がる敵・雪代縁(ゆきしろ えにし)は【倭刀術】で戦うのですが……。
ここで気になったのは、やはり【倭刀術】でしょう。
一体それはどんなルーツの剣術なのか。
ネット上の『るろ剣』考察では、おおよそこんな説明がされています。
「中国に伝わった日本刀の使い方」
確かに字面からしても中国と日本の歴史に由来するものであることはイメージできるでしょう。
しかし倭刀術は、スッキリと「◯◯である」と言い切ることのできない難しい存在です。
それは中国における剣術の発達が、日本とは異なった経緯を辿ったことが影響しているからで、本稿ではその歴史的背景を考察してみたいと思います。
※『るろうに剣心 最終章』
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近接戦闘武器が廃れていった中国
中国では、伝統的に「将が個人的武勇を自慢すること」はタブーでした。
項羽はこう言い残しています。
「剣は一人の敵、学ぶに足らず」
※剣術は所詮個人単位の戦闘、学ぶに値しない
「個人武勇を自慢するような奴はバカでしかない。無能の極みなので、俺の配下でそういうアホがいたらいますぐやめろ!」
確かに彼の配下には、典韋や許褚のような個人武勇が特徴的な人物もいます。
が、それはあくまで、護衛任務のため。
張遼は騎兵運用、夏侯惇は誠意と堅実さ、夏侯淵は進軍速度が持ち味でした。
武勇を鍛える暇があるなら兵法書を読め――というのが曹操のスタンスであり、確かに若い頃は武芸鍛錬もしましたが、中年以降は『孫子』マニアでした。
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一軍の将とは、あくまで集団戦での能力が重要であり、そうした事情は朝鮮半島でも同様。
東アジアでは、個人的武勇が讃えられる日本が例外的なのであります。
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ただし、そうは言ってもフィクションとなると話は別です。
日本にせよ、中国にせよ、個人の戦闘力がなければストーリーは盛り上がりません。
中国を舞台にしたフィクションは、当時の武器トレンドが反映されています。
例えば「日本刀」が最初に大陸へ伝播した宋代――そんな時代を舞台としたフィクションの代表的存在に『水滸伝』があります。
彼らにとって日本刀サイズの剣は主役ではありません。百八星、しかも人気者が持つ武器は長柄のものが多い。
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長柄とは、リーチが長い武器のことであり……槍、そして「刀」……と言っても日本で言うところの「長刀」のような形状、ハルバード型のものが主流です。
演武としての型と実戦での使用は別の話
中国刀剣の分類は「刃の形状」で区分されますが、刀剣は早い段階で実戦武器としてはあまり使われなくなっていました。
地形や戦闘術、騎兵運用の影響もあり、片手武器を手にした近接戦闘そのものが下火となったのです。
そもそも、刃こぼれしたり折れやすい刃物を使うより、敵を鈍器で殴る方がコスパもいいんですね。
明代に成立した『三国志演義』の関羽や張飛も、長柄武器を使っています。
あれは彼らが生きていた当時のものというよりも、明代の「カッコいい武器」であるとご理解ください。
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中国武術にも、刀剣の型はあります。
しかし、演武としての型と実戦での使用は別の話。
2012年大河ドラマ『平清盛』では、宋から輸入された剣を主役が愛用しておりました。
斬首ができるあの形状の剣が、当時の宋にあったとは想定できません。処刑人の持つものとは異なります。
それ以前に、日宋貿易の主要輸出品に刀剣があります。
つまり清盛が日宋貿易をするならば、買う側ではなく売る側。どうせなら日本刀で敵兵を切り伏せ「ご覧ください、我らが刀剣!」というべきところ。
日宋貿易を強調したいにせよ、不正確な設定でした。
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