江戸時代以来の浮世絵や刺青。
翻案とした『南総里見八犬伝』。
そしてゲームや漫画、小説等々――。
今や『三国志』関連の作品にかなり差をつけられてしまいましたが、もともと『水滸伝』は日本人にとって馴染みの深いエンタメでした。
本作の骨格は「108名の豪傑が集まって、反体制のヒーローになる」という爽快な物語。
波乱万丈のストーリー展開は大変面白く、歴史ファンの皆様には今一度楽しんでいただきたい世界観ではありますが、実は後半は憂うつな展開を迎えてしまいます。
それは一体どんな物語だったのか。
振り返ってみましょう。
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梁山泊に集うのはクセのすごいアウトローたち
水滸伝の舞台は、北宋末期。
北方異民族の脅威が差し迫っているにも関わらず、政治は腐敗し、官僚たちは私腹を肥やすことばかりにふけっていました。
そんな民衆の不満が高まる時代に、108名の豪傑が集うというものです。
彼らは、スカッ!とする英雄らしさをもつ一方、ふとしたはずみで人を惨殺してしまうような者も混ざっておりました。
旅人に一服盛って殺しているような極悪人もおり、そんな者達が義侠心から仲間に加わったりいたします。
梁山泊に加入するには大抵の人物が、何かしらの事件、しかも天下のお尋ね者になるような騒ぎを起こしてしまいます。
この加入までの物語が本作の大きな見どころと言えましょう。
「ストレス解消にもってこい!」なアウトロー文学なのです。
信長より家康 そんな理想のリーダー像がある!?
『水滸伝』で多くの読者が疑問を抱く点は、ほぼ一致しているでしょう。
「なぜリーダーの宋江と、ナンバー2の盧俊義が、ここまで無能なのか?」
人間として嫌味はないものの、やることなすことドジで、かえって味方の足を引っ張ります。
これ、実のところ、宋江一人に限ったことではありません。
『三国志演義』の劉備。
『西遊記』の玄奘三蔵法師。
リーダーシップを発揮するどこか頼りなく、知勇に優れているわけでもない。けれども寛大で、部下任せにしてくれる。
実はこれが理想的なリーダー像なのです。
正反対のタイプは、例えば曹操でしょう。
有能で、部下にすべてを任せない。
猜疑心は強く、部下の行動を疑い、すぐに口を出す。
そんなリーダーは、部下にとってはかえって仕事がしづらい、と。
放任主義こそが理想的で、徳のあるリーダーだと思われるのですね。
人の上に立つというよりも、慕われて周囲に人が集まり、扇の要のように彼らをまとめる。そんな人物こそがリーダーの理想像というわけです。
そういえば中国語圏では徳川家康が人気だとか。
織田信長のようなグイグイ引っ張っていくタイプより、「ゆるくて徳のあるリーダー」に見える家康の方が好まれるのかもしれません。
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ゆえに中国語圏では
「なぜ徳川家康のゲームがないんだろう?」
と、不思議がられるとか。
逆に言えば、KOEIさんはチャンスかもしれませんね。
『家康の野望』が発売され……ないか……。
打ち切り漫画のようなバッドエンドで……
『水滸伝』は豪傑が集うところが醍醐味です。
しかし、です。困ったことに、いざメンバーが集まってしまうと途端につまらなくなります。
宋江はこの108名を朝廷に帰順させ、堂々と開封に入ります。
そして朝廷軍のメンバーとして戦うことになるのです。
彼らはなんと、史実においては北宋相手に高額な賠償金をつきつけてきた「遼」を打ち破ってしまいます。
当時の人々は遼を打ち破ることをおそらく考えてはいたでしょうが、とんでもない史実改変です。
物語では奸臣たちが密かに遼と通じていて同国は存続する展開となり、そこで何とか史実と折り合いはつけるのですが。
このあと、豪傑たちは「方臘の乱(ほうろうのらん)」へ出撃します。
これほど強い奴らならバッタバッタとなぎ倒してさぞや大活躍するのだろう、と思っていたら英傑たちは倒れて行きます。
まるで少年誌の打ち切り漫画のように、ふろしきを畳むような急展開が繰り広げられるのです。
そもそもアウトローが朝廷に取り込まれて戦うっていうのも、ねえ。
ともかくスッキリしません。
なぜこんなバッドエンドなのでしょうか。
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