大航海時代――。
いかにもワクワク、お宝目指して冒険の旅に出かけるぞ!的な印象を受けますが、実際のところ、これはあくまで冒険に出かける欧州人からの目線であり、征服された側の先住民にとっては悪夢以外の何物でもありません。
特に世界規模で、人類に大きな瑕疵となったのが「奴隷」でしょう。
この時代、ポルトガル人等は世界各国で現地人を捕まえては売り払う、極めて非人道的な奴隷貿易を行っておりました。
織田信長に仕えた黒人侍「弥助」もアフリカ(モザンビークと推定)から連れてこられた一人です。
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ここで勘違いしてはならないのが、この奴隷売買は、一方的に日本へ持ち込まれたものではないということ。
日本からも大勢の日本人が奴隷として売りに出されていたのです。
「乱取り」特に人身売買はおいしいビジネス
戦国時代、合戦は人々を巻き込む惨禍でありました。
農作物が刈り取られ、田畑は踏み荒らされ、建物は焼き払われ。それだけならまだしも、戦場で捕えられた人々には過酷な運命が待ち受けていました。
「乱取り」された人々は、束にされて人身売買の商品とされたのです。
戦が終わると人を売る市場ができるという話は、2017年大河ドラマ『おんな城主直虎』にも出てきました。これは奴隷以外の何物でもありません。
ヨーロッパから宣教師たちがやってくる前、売られる先はせいぜい隣村や隣国あたりだったでしょう。合戦後に親族たちが行方を捜し、身代金を払って買い戻すこともしばしば行われ、まだ救いの道も残されておりました。
しかし、です。
宣教師たちの来訪が、この状況を劇的に変えてしまいます。
日本で買い取った奴隷を、ヨーロッパにまで運ぶと、実に元値の百倍となりました。奴隷は、遠くへ行けば行くほど価値が高まったのです。
まさに濡れ手に粟の、美味しいビジネス。こうした人身売買は日本人に悪印象を持たれ、心あるイエズス会の人々は「布教の妨げになる」と考えていました。
天下人である豊臣秀吉も強く問題視しており、キリスト教布教を禁じる理由のひとつとしてあげました。
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むろん他ならぬ秀吉も、自身の合戦で人身売買が行われてたことは認知しており、天下統一の進みによって外国人による売買を問題視するようになったのですが、これだけ大々的に利益が出るとなるとなかなか止むものではありません。
かくして人身売買は慶長3年(1598年)、イエズス会が教会法により奴隷取引を罰すると決めるまで続いたのでした。
マカオが奴隷貿易の中継地点だった
では、日本から旅立った奴隷たちはどこへ向かったのでしょうか。
ポルトガル人やスペイン人が向かった先に、彼らの消息が残されています。
日本から比較的近いマカオは、貿易の中継地点として賑わいました。
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ポルトガル人やスペイン人は、母国の女性を妻として航海に連れて来ることはまずありません。そのため、日本人や中国人女性を妻とすることがありました。
マカオには、こうした女性たちが数多く存在していたのです。子守や家事を行う女性使用人として働く人たちもいました。
一方で男性は、肉体労働や傭兵として活動していました。
日本人傭兵は、戦国の世を渡り歩いてきたためもあってか、かなりの強さでした。
当局はしばしば彼らの武力を恐れ、帯刀して行動することを禁止する命令を出したほどです。
ヨーロッパのみならず中南米へも売られた
傭兵には、奴隷と、自ら好んで戦う道を選んだパターンがありました。
自らこの世界に飛び込む者たちは、大半がワケアリ。犯罪を犯して故郷にいられなくなった者にとって、マカオは自由になれる場所としてとらえられたのです。
こうした人々はトラブルを起こしやすく、追い剥ぎになって原住民を襲う盗賊団を結成することもありました。
当時マカオを支配していた明朝はこうした日本人に手を焼き、しばしば追放令を出すほどだったのです。
フィリピンのマニラには、日本人コミュニティもありました。高山右近や内藤如安のように、キリシタン追放令で行き場を失った日本人が流れてきたからです。
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17世紀前半、日本の鎖国まで、こうしたコミュニティは膨張し続けていました。
日本から見れば地球の裏側にある、中南米にも日本人奴隷はいました。
ただし、彼らは日本名を捨てていることもあり、その足取りをたどることは簡単ではありません。
ヨーロッパにたどり着く日本人奴隷もいました。
オリーブ色の肌をして、顔が小さく、身長は平均的であると当時の人々は記録に残しています。彼らは家事や手工業に従事していたようです。そして……。
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