本郷和人氏と言えば「日本は一つでなかった」が持論。
そんな歴史観がどうやって生まれてきたのか?が伺えるのが本書だ。
本郷氏の視線は、天下人に注がれていない。
本郷氏の視線は、無名の庶民に注がれてない。
「注がれてない」というのは言い過ぎであるが、もっとも注がれているのが「歴史を作った人たち」なのではないだろうか。
天下人だけを見ていると、信長や秀吉、家康はスーパーマン級の超人になる。しかし今はマンガだってそんな超人が歴史を動かしたなんてやらない。
では、戦後に流行った、無名の一般人が歴史を作ったんだ! 市民の革命だ! と「庶民の歴史」をいくらみたところで、戦国時代を動かす原動力は見えてこない。
実際に、天下人たちの思いや才能を増幅して歴史を動かしたのは、中途半端に名のない多数の武将たちだからである。
具体的に名前をあげよう。
米田是季
よねだ、でなくて、「こめだ」であり、フルネームで「こめだこれすえ」である。
さすがのWikipediaも項目がたってないこの米田は、もともと細川家の重臣だったが、大坂の陣を前に出奔。大坂城に入城するも敗北し、そこで生き延びて隠遁していたところ、旧家に拾われた。
こう読むと、忠義に劣り、(自刃せず)潔くもなく、とても魅力的な人物には思えない。
なぜ、それをわざわざ取り上げるのか。
この謎の人物を追いかけることで、細川家が生き残りをかけて巡らせた公式の歴史書には残らない「都合の悪い真実(かもしれない)」が浮かぶのだ。
『戦国夜話 (新潮新書)』(→amazon)
このお話は第6夜から第10夜(29~43頁)までで一気に読むことができる。ぜひ立ち読みし、気に入ったら購入していただきたい。
米田のように、名前は今は知られていないけど、当時はバイプレーヤーとして、新聞があれば社会面のトップになるような時代のキーマンたちの逸話が盛りだくさんだ。
タイトルの「夜話」というのは、夜にヒマな戦国武将たちが酒を酌み交わしながら昔話をして、若い衆たちにOJT(オンジョブトレーニング)をしていた重要な行事だ。
もっとも、学校の講義とはちがって、教師である武将は酔っぱらい、好き勝手なことをつながりなくぽんぽんと話していく。あっちのことから、こっちのこと。しかし、優秀な生徒はそれぞれバラバラに見える話の関連性を見つけて、自分の知識と経験とするのだ。
この「戦国夜話」も本郷氏は別に酔っぱらって書いているわけではないが、週刊新潮での連載をまとめたもののために、一つのストーリーで貫徹されていない。
さらーっと読み飛ばしてしまうか、豊臣秀吉の夜話からエキスを吸い取って成長した石田三成となるか。みなさんはどちらになるだろうか。
ぜひ読んでほしい。
川和二十六・記
【参考】
『戦国夜話 (新潮新書)』(→amazon)