年末年始も必携!『一生に一度は行きたい日本の名城100選』千田 嘉博 (監修)

年末年始の長期休暇――歴史ファンの中にはこう思ってしまう方も少なくないでしょう。

『城に行きたい……』

『せっかくだから◯◯城はどうだろう』

そしてそんなとき適切な『城のガイド』一冊が手元にあればいいのになぁ、と思うのも自然な流れですよね。

観光情報サイトでは、なんだか物足りない。

あの武将はナゼここに城を建てたのか?

どうやって敵勢を防いだのか?

当時へ思いを馳せる妄想材料を提供してもらえれば、より一層、充実した時間を過ごせる。

そんなアナタにぴったりな一冊がございます。

『一生に一度は行きたい日本の名城100選 (TJMOOK)』(→amazon)です。

金沢城址公園・五十間長屋の夜景※こちらの画像は本書に掲載されたものではございません

 

通り一遍のガイドとは一線を画す

このムックを開いて、まず言いたいのはこのこと。

単なる観光目的のガイドなんかじゃない!

お城愛に満ちた千田先生の監修だけに、やっぱり一ファンの気持ちをよく存じていらっしゃいまして、図版が豊富、かつ「城のつくりを押さえておこう」という基本もバッチリ。

本書だけでお城の構造が理解できてしまう、サービス精神てんこもりな内容です。

初心者でも手にしやすいムック本だからイージーということはなく、中身はガッツリ!なんですね。

お城を通して正しい歴史知識に触れられるって、臨場感があって、とても恵まれていると思います。

イラストの一部を担当しているのが本サイトのメインイラストでおなじみの富永商太氏。

現代タッチで精緻に描かれた城は斬新というほかありません。

『当時の人からはこんなふうに見えていたのだなあ』と味わえます。

絵・富永商太

 

一生に一度で足りるのか?

しかし、本書には困ったところもあります。

一生に一度と言いながら『一生に一度じゃ済まされないぐらい』行きたくなるんですわー(´・ω・`)

私は1ページ目からではなく【実際に訪れた城】から読みました。

はじめのうちこそ、懐かしいと笑顔で読んでいたものの、途中から唖然としてしまいます。

「なんてこった……こんな見所があるなんて知らずに終えてしまった……」

その悔しさと言ったら。

特に仙台城あたりは、私に限らず、こんな失礼なことを考えてしまう初心者さんも少なくないと思われます。

『なんだ、天守ないんかーい!』

仙台城の脇櫓と石垣※こちらの画像は本書に掲載されたものではございません

同じく東北の名城・山形城だって天守がありませんし、復元も中途半端だなぁ、なんて不遜なことを……城に謝れ、私!!!

あの伊達政宗が、仙台城に敢えて天守を作らなかった理由はちゃんとあります。

そんなことも知らずにスルーしていいや、と思って申し訳ありませんでした。

伊達政宗
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山形城だって、いろいろ紆余曲折を経ながら復元を進めているのです。

江戸城なんて、城としてはあまりに地味すぎて広すぎて『ふーん、あっそ』と流して通過しただけだーッ!

つまらない城なんてない――。

本書は、そんな芯を食った真理をズドンと教えてくれます。

歴史が好きなのに『いまいち入りきれない一面があるよなぁ』と感じてしまうのは、知識が不足していたからではないでしょうか。

本書は、そこを補ってくれて、見る目がぐんぐんあがっていきます。

もっと愛したい!

そんな情熱が湧き上がってくるのは、やはり作り手の皆さんから城を愛する熱気がひしひしと伝わってくるからなのでしょうね。

かつての自分に謝り、再訪したくなる、魅力を再発見したくなる。

『あのときボーッと見ていた石垣一つにしたって、敵を防ぐ工夫が幾重にも施されていたんだよなぁ』と、城愛の足りなかった自分に喝を入れたくなる。

城は、武士たちの生死を賭けたアイデアの結晶です。

時代を経て建造物がなくなってしまい、跡だけが残されるケースもあります。

しかし、そこに施された創意工夫がなくなることはありません。

単なるガイドでは学べなかった知恵の集合体。

目から鱗の連続です。

 

上田城に行きたくて行きたくて、今、震えている

一度行った城でも再訪したくなる――となれば未体験の城となると、もうゾックゾクするやろ!

特に千田先生がピックアップされた

【名将にまつわる城ベスト5】

は禁断症状モノです。

たとえば上田城。

尼ヶ淵の崖からは難攻不落を実感できるんだとか。

明治維新以降、廃城になってからも復活に至ったストーリーも感動的ですし、なによりあの真田昌幸・真田幸村(真田信繁)の息吹が感じられる城ですからね。

熱烈な大河真田丸ファンの方でしたら、もう一度足を運びたくなるのでは?

上田城西櫓※こちらの画像は本書に掲載されたものではございません

本書のよいところ。

それは城だけではなく【歴史や作った人とのつながり】も伝わってくるところです。

歴史ファンならば、自分の愛したあの名将ゆかりの城を噛みしめたいところでしょう。

それが本書のような案内の仕方ですと、誰が何を考えて、どういうふうに城を作ったのか、そこまで把握できるのです。

城を作ってしまった武将は、もうとっくの昔に亡くなっています。

それなのに、彼らの思いや制作過程、さらにはその命令を受けた者たちの苦悩も伝わってくる。

これってスゴイことではありませんか?

と、同時に、ふと思いました。

私たちはとんでもない誤解をしているのでは?

戦国大名も、武将も、とっくに死んでいて会うことなんで出来ない。

せいぜいがゲームや漫画で妄想するぐらいだ。

いや、ちがうんです。

彼らは存在するのだと思います。

建てるまでの創意工夫。

城を通してアピールしたかったこと。

守りたかった国。

そういうものは、今だってきちんとそこにあるのです。

城を通して、私たちは歴史を動かしたあの人たちに会うことができる。

そんな奇跡があるのだと感じられます。

八王子城御主殿※こちらの画像は本書に掲載されたものではございません

 

観光ガイドとしても充分使えます!

つい熱くなりました。

それゆえ『歴史&城マニアじゃないと楽しめないんでは?』なんて誤解も与えてしまったかもしれません。

ご安心ください。

旅のお伴にも対応した観光案内情報も充実しております。

多くの情報がバランスよく配置。

例えば観光タワーや、近所の博物館も紹介されたりしていますが、こうしたいかにも現代的な建物の写真配置が絶妙でして。

これよりも大きいとちょっと邪魔、小さいと確認できない――そんなバランスがきっちりと考え作られています。

監修の千田先生だけでなく、担当編集さんやライターさん、デザイナーさんの苦労が偲ばれますね。

まるで築城の名手が手がけたような縄張り(レイアウト)です。

完成度が高く、しかも全国広くカバー。

本当にこのお値段でよいのでしょうか。

今回も充実感あふれる内容で、年末年始には欠かせない一冊かと思います。

文:小檜山青

【参考】

『一生に一度は行きたい日本の名城100選 (TJMOOK)』(→amazon

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