皆様こんにちは。
大河レビューを担当させていただいている武者震之助です。
トンデモ作品でも、史実準拠でも構わないから、歴史映画をとことん楽しもう!
という本コーナー。
今回は『47 RONIN』です。
基本DATA | info |
---|---|
原題 | 47 Ronin |
制作年 | 2013年 |
製作国 | アメリカ |
舞台 | 日本 |
時代 | 江戸時代元禄年間(18世紀初頭) |
主な出演者 | キアヌ・リーブス、真田広之、柴咲コウ、浅野忠信、菊地凛子、赤西仁 |
史実再現度 | 期待してはいけない |
特徴 | 『忠臣蔵』であることを忘れれば結構楽しい作品 |
どこで見れる? | アマゾンプライムでレンタル199円(2019年7月現在) |
本作を見るとき最大のポイントは、
「ハリウッド版『忠臣蔵』と銘打っている作品だが、この映画を『忠臣蔵』だと思ってはいけない!『忠臣蔵』だと思わなければそこそこイケる」
です。
一体何を言っているかわからないかと思いますが、見ればわかるんじゃないかと思います。
そもそも米国版のポスターに映るのは、カイ、妖狐ミヅキ、謎のタトゥー男、ジャイアントゴーレムサムライという『忠臣蔵』には出てこない面々です。
大石内蔵助すらいない!

米国版の『47 Ronin』ポスター/wikipediaより引用
まずは、あらすじをたどりながら、突っ込みたいと思います。
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あらすじ
江戸時代、赤穂の国に「カイ」(キアヌ・リーブス)という名の、異国の血を引く男がいた。
異なる外見から虐げられるカイ。そんな彼は幼い頃領主の浅野内匠頭(田中泯)に拾われ、浅野の娘であるミカ姫(柴咲コウ)に恋するようになる。
本作のあらすじにいきなり突っ込みますが、まず「カイ」って誰やねん!
ミカって何者や!
突然のオリジナルキャラぶちこみに当惑を覚えます。
時は流れ、カイはたくましい青年に、ミカは美しい姫君に成長した。
そしてある時、将軍徳川綱吉(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)が赤穂の国を訪問することになる。準備を整える浅野である。
一方、赤穂の隣国の領主・吉良上野介(浅野忠信)は、赤穂の豊かな領地を手にするべく策を練る。
吉良の側室であり妖狐の化身であるミヅキ(菊地凛子)は、浅野に妖術をかけ、吉良がミカを手籠めにしようとしている幻を見せる。
怒った浅野は、吉良に斬りつけてしまう。
あっ、なんか妖狐出てきました。
そんでもって「松の廊下」は消えました。
でも事件の発端になる刃傷沙汰は、冷静に考えるとキレた浅野内匠頭が悪いんじゃないかな、って日本人でも思ってしまうのでアリだと思います。
それと年齢的には浅野と吉良のキャスティングは逆だと思いますけれども、何も知らない人からすればよってたかって老人虐待するみたいで引っかかりますもんね。
こまけえこたぁ、いいんだよ。
将軍は浅野に切腹を言いつけ、吉良は赤穂の領地を手にした。さらには父の喪が明けたらばミカを正室として迎えることになる。
「赤穂浪士」と呼ばれる赤穂の家臣たちは、地下牢に軟禁されている。リーダー格の大石内蔵助(真田広之)は牢から脱出し、凄腕の戦士であるカイを探す。
カイは長崎・出島の地下闘技場に、剣闘奴隷として売り飛ばされていた。
だから、出島に地下闘技場って何ですか!
しかも、この闘技場にはタトゥー戦士がいて、なぜか本国版ポスターでは主役の一人であるかのように目立っているのです。
カイは大石に救出される。45人の浪人、大石内蔵助の子・主税(赤西仁)、そして47番目の仲間・カイ。伝説の47 RONINがここに結集した。
カイに導かれ、RONINたちは天狗の里に向かう。そこはかつてカイが妖術や武術の修行を積んだ秘境であった。
鞍馬天狗(トーゴー・イガワ)からの試練を乗り込み、RONINたちは伝説の「天狗ソード」を入手する。
これさえあれば妖狐、ジャイアントゴーレムサムライらが待ち受ける、吉良邸への討ち入りも成功するはずだ。
カイ、そしてRONINたち最後の戦いが今、幕を開ける……!
「忠臣蔵」のみどころといえば、大石内蔵助が敵の目をあざむくために遊び惚けるとか、失職した浪人が迷いつつも暮らしてゆくとか、そういう雌伏の日々ではあるのですが……まあ、ハリウッド的にはそういう地味な場面はいりませんね。
パーッと派手に天狗の試練を受け、伝説の剣を探すほうが盛り上がるんだと思います。
そしてラストダンジョンと化した吉良邸には、妖怪やジャイアントゴーレムサムライが待ち受けています。
吉良も若くたくましい浅野忠信さんを起用したことで、ぐっと派手なアクションが楽しめます。
夜中にいい若いもんが、よってたかって老人一人を倒すなんて、見栄えがしないと言われたら確かにそうです。
本作の特徴は「史実に魔女や巨人をぶちこんだファンタジックな世界観」とのことですので、そこはそういう世界観なのだと割り切りましょう!
「忠臣蔵」だと思わなければ結構楽しい!
ここまであらすじを読んで「一体これは何なのか?」と思った方は多いでしょう。
公開時の反応も、日本が舞台のハリウッド大作でありながら、どう扱ったらよいのかわからず、当惑気味に紹介されていました。
日本人がそう感じてしまうのは、きっとこれが「忠臣蔵」だと思ってしまうからです。
本作は本国では「ファンタジーアクション」とされています。
確かにアクションシーンは迫力がありますし、突っ込みどころ満載のプロットも「ちょっと昔の和風RPG」と考えたら納得できるかと思います。
映画としては見所があるのです。
和風なのにどこか不思議な衣装やセット。
迫力あふれるアクションシーン。
キアヌ・リーブスらの日本刀アクション、ハリウッドで活躍する日本人俳優たちの熱演。
本作が真田広之さんや菊地凛子さんの代表作と言われたら……まあ、違います。
しかし、これだけの日本人俳優が一本の外国映画に出演するというのは珍しいことです。ハリウッドで活躍する彼らの活躍を目に焼き付けようではありませんか。
あらすじだけでも突っ込みどころだらけの本作。
本編を見ると一年中桜が満開である等、さらなる突っ込みどころを楽しめます。
珍作好き、外国映画の不思議なニッポンが好きな方にはオススメですし、ほろ酔いのときにボーッとしながら見たら、なかなか楽しめるのではないでしょうか。
歴史作品はアレンジされる、という悟りを開ける!
歴史を楽しむと言いながら、歴史映画としてみると失敗作ともいえる本作をなぜいきなり取り上げたか。
それは「歴史映画はアレンジされるものだ」とはじめに断りたかったからです。
かつて『300(スリーハンドレッド)』という歴史映画を見て感動した私は、感想を読んでいてこんな一文をみかけました。
「本国では突っ込みどころ満載のギャグ作品として扱われている」
うーん(´・ω・`)
『300』は極めてシリアスな映画であり、ラストシーンで感動の涙すら流した私はとまどいましたが、理由はすぐわかりました。
その国の歴史に詳しい人から見れば荒唐無稽なアレンジがされているわけです。
よく考えてみれば、そもそもあの映画のスパルタ人はなぜ革パン一丁にマントだったのか?
あれは本国の人にとってはかなり笑える改変だったのだな、と腑に落ちたものです。
日本でもアメリカでも酷評された『47 RONIN』 ですが、ロシアでは大ヒットしたそうです。
ロシアでは私が『300』に感動したように『47 RONIN』で描かれた気高い精神や勇気に感動する観客が多かったのでしょう。
歴史映画とは『47 RONIN』にせよ、『300』にせよ、制作者が観客に伝えたいメッセージのために、史実を曲げてとんでもない脚色をされます。
しかし、褒めるところがあれば、楽しめるところがあれば、作中で描かれるメッセージ性がよければ、それはそれでよいじゃないか、と私は思うのです。
歴史映画は歴史再現ではないのですから。
ですのでこれから歴史映画を何本か見てようかなぁという方は、最初に『47 RONIN』で長所を探す――という作業がオススメです。
おそらく途方に暮れることになるでしょう。
しかし、その作業のあとで見る大抵の歴史映画は、きっといつもより素晴らしく目に映るハズです。
歴史映画を見る前の準備運動として、本作の鑑賞をおすすめしたいのは、そんな理由があるからなのです。
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著:武者震之助
【参考】
『47 Ronin (字幕版)』(→amazonプライムで現在無料※2020年11月27日)