戦神ゴッド・オブ・ウォー

戦神ゴッド・オブ・ウォー/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

渋カッコいい日本の武士が倭寇で大活躍!映画『戦神ゴッド・オブ・ウォー』が熱い

倭寇って覚えていますか?

昔、中国沿岸部を襲っていた海賊だよね……なんか教科書でみたような……と、そんな記憶を書き換える映画があります。

楽しみながら勉強できて、歴史を学ぶ学生さんにもおすすめ。

そんな力作が『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』です。

基本DATAinfo
タイトル『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』
原題蕩寇風雲 God of war
制作年2017年
制作国中国・香港
舞台中国、浙江沿海部
時代明朝・嘉靖年間(16世紀)
主な出演者趙文卓(チウ・マンチェク)、倉田保昭、サモ・ハン・キンポー、小出恵介、レジーナ・ワン(万茜)
史実再現度世界史の授業に使えるくらい、すごく頑張っている。倭寇もきっちりしている
特徴倉田保昭さんがカッコよすぎて痺れる!!

 


あらすじ

明朝、嘉靖36年(1557年)――。

厳しい海禁政策をとる明。

しかし、交易したい民を止めることはできない。

明と密貿易をしたい日本人と、中国人の王直は利害が一致。日中混成の「倭寇」が組織される。

明の将・俞大猷(ゆたいゆう)は勇敢に戦うものの、敵は手強く、苦戦が続いている。

宮廷は自分たちの利害を考え、前線を守る将兵の足を引っ張るばかりだ。

どうすれば倭寇に打ち勝てるのか?

それから4年、戚継光(せきけいこう)はついに倭寇対策の手応えを掴む。

2万の倭寇が迫る中、3千の兵で迎え撃つ明軍。

決戦の時は迫っていた。

 


かつてないほど正確かつカッコいい倭寇

倭寇を撃退する明の将のお話です。

もしかしたら不快感を募らせる方もいるかもしれませんが、実は本作は、ここ数年でも真に武士道を理解している屈指の作品です。

邦画でもここまではそうそうないかもしれない。

歴史映画を見る醍醐味が詰まっています。勉強にもなるし、ともかく隙がないのです。

世界史を学ぶ学生さん、学んだけど忘れた方に是非ともご覧いただきたい!

この映画は、明側のみならず倭寇も痺れるほど素晴らしい、そんな特徴があります。

熊澤という、倭寇の将を演じる倉田保昭さんが、国宝としか言いようがないほどただひたすら素晴らしいんですね。

もう、褒め言葉しか思い浮かばない。ともかくこの熊澤を見て! そう断言できます。

本作は、そんなカッコいい倭寇の定義をきちんと説明します。

そのまま世界史参考書に流用できるくらいレベルが高く、しかもカッコいい。本作を世に送り出したのが日本でないことを喜ぶべきか、悔しがるべきか、もはやわかりません。

・倭寇と言っても、全員が日本人ではありません

王直という著名な人物のことをきっちりと説明します。

・ならず者のみならず、兵法を知り、武士道を身につけた、そんな構成員もいます

平戸松浦氏の若殿も倭寇にはおり、雑兵たちの暴虐な振る舞いに胸を痛めています。

松浦氏は乱世を生き抜くために、明の物資や人材を求め、倭寇になっているのです。

・武士はかっこいい!

そんな松浦氏に使える家臣・熊澤がカッコいい。

こんなにカッコいい外国映画の武士は衝撃的だ!!

本当に倭寇と、そこに含まれる武士が無茶苦茶イケていて、ダメな大河ドラマなど足元に及びません。

個人的には『47RONIN』や『サムライマラソン』も好きなんですけどね。素敵な武士という点では、この作品はレベルが高すぎて、涙が出てきます……。

映画『サムライマラソン』(→amazon

では、なぜそんなにカッコいいのか。

大きな要因は、なんといっても倉田さんの存在感です。

 


日本人影帝・倉田保昭さんにひれ伏そう!

中国語には「影帝」という呼び方があります。

電影の帝王、ビッグな映画スターであり、ひれ伏したくなるほどの称号です。

日本人でありながら「影帝」の名にふさわしい。それこそが、本作で存在感を見せる倉田保昭さんであります。

空手や合気道といった武道を極め、香港映画界のショウブラザーズに招かれた、若き日の倉田さん。

動きはキレキレ、ルックスはシブく、スタイルもよいイケメン。

絶対にひくな、立ち向かえ!

そんな気合いとともに、異国の地で戦いぬく青年でした。

しかし、回ってくるのは悪役ばかり。ひどいやられ方ばかりをする。

自分より動きにキレがなく、ルックスもそうでもない俳優が主役をはれるのに、そりゃないよ。そう愚痴ると、身もふたもないことを言われてしまいます。

「観客は、やっぱり日本人が殴られるところを見たいんだよね」

戦争の記憶がまだ強い時代――香港や台湾で、日本人としてやられ役を続けたのです。

そんな彼をこう思う観客も、当然出てきます。

「あの日本人……やられ役だけど、かっこよくない?」

「わかる!」

ボコボコにされても、あんなにカッコいいスターはいない。

こうして徐々にファンを獲得していった倉田さんは、中国語圏でも敬愛を集めるようになりました。

ブルース・リーを知る世代のカンフースターは、だんだんと減ってゆきました。引退をしたり、実業家に転向してゆく。あるいは酒やバクチに溺れて消えてしまう人もいる。

そんな中、倉田さんは持ち前のアクションをこなし、あの体型も保ち続ける。

彼こそ、香港映画界の宝ではないか?

彼は「影帝」だ――そんな敬愛を集めるようになるのです。

倉田さんはアクションのみならず、日本関連の考証でも的確な指示を出します。

若い頃は無茶苦茶な日本人悪役も回ってきたものです。

しかし、近年彼が出ている作品は、日本描写がしっかりしていて安心感がある。

英語圏映画の真田広之さんと、中国語圏映画の倉田保昭さんは、本当に偉大な方。感謝しきれないほどのアクションスターです。

本作『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』はそんな倉田さんの真骨頂をじっくり味わえる作品。

2017年には第24回「香港電影評論学会大奨最優秀男優賞」も獲得しました。第37回「香港電影金像獎助演男優賞」にもノミネートされました。

いくら褒めても褒めきれない。納得のいく熱演が本作にはあります。

 

明朝、倭寇、そして世界が抱える問題もわかる

倉田さんとサモ・ハン、そしてこれまたアクションスターとして名高い趙文卓!

これはキャストの時点で勝利だろう――。

カンフー映画マニア必見だけでなく、本作は世界史の教材としてバッチリ使えるのがいい。なかなかそんな作品はありません。

当時の明が直面していた内政問題。

倭寇を招く世界史的な要因が、きっちりと説明されます。

明の問題とは?

サモ・ハンが演じる俞大猷は、些細なことで逮捕されてしまいます。

彼は中国武術史において欠かせぬ人物で「南拳」と称される拳法の確立に功績のある人物です。

それなのに、なぜ逮捕され、屈辱的な目にあわされるのか?

嘉靖帝の時代、明朝は政治腐敗が極まっていたことが背景にあります。

嘉靖帝は現実逃避しがちな性格で、そういう皇帝をコントロールする奸臣が権力を握ってしまう。

科挙を目指す文人も「なんかどうでもいいや」と、投げやりになるし。

そんな立ち回りができない武人は、苦しめられるばかり。

ドロドロした権力闘争の合間に、倭寇は勢いを増してゆく。一体どうすればいよいのか?

本作の武人が暗い顔である背景には、理由がありました。

そもそも倭寇にしたって、前述の通り明の人物もいるわけです。海禁政策を見直さない限り、根本的な問題は解決できません。

しょうもない権力闘争をしないで現実を見てくれ! みんな苦しいんだ!

そういう問題提起が、きっちりと出てきます。

倭寇の主目的が略奪ではなく、あくまで貿易というところもクローズアップされております。

大航海時代以来、銀が世界的に流出し、明にも貧富の差が生じてゆきます。

そういう民が求める経済政策が整わぬために、エネルギーが噴出していると描いているのです。

倭寇の中の武士だって、そんな世界的なパワーゲームに巻き込まれ、乱世を生き抜くために明まで来ている。

そういうダイナミックな流れがコンパクトにまとめられていて、とてもレベルが高いのです。

鉱山が発見された村と、その隣接する村において、住民同士が争う様も描かれます。

資源をめぐる争いは、同時代の日本でもしばしばあったことでした。

本作と同時期に放送された『真田丸』や『おんな城主 直虎』では、木材ような資源をめぐる民同士の争いが描かれていました。

『真田丸』(→amazon

あれは当時の日本のみならず、他国でも噴出しつつある問題であったのです。

そういう歴史の流れがわかるからこそ、本作は世界史教材として極めて優れています。

そうはいっても、所詮外国人から見た日本像だと思っておりますか?

いえいえ、本作には日本からも多くのキャストとスタッフが揃っています。

衣装、セリフ、仕草、時代考証、そして日本の武術もバッチリ!

日本人だからといって「残酷だ」決めつけるようなことはありません。

小出恵介さんが演じる武士の「山川の若殿」は、略奪や暴行は武士の道に反すると嫌がっています。

一方で、追い詰められて倭寇になった者もいる。セリフや衣装、所作まで階層差が表現されていて見応えありなのです。

倉田さんが若い頃の香港や台湾映画では、日本人は忍者なのに新選組の羽織を着ていたり、タクシーで轢殺しないと蘇る不死身設定といった、無茶苦茶な扱いもあったものですが……思えばここまで進歩したのかとしみじみと思えます。

 

日明関係を描くという意味において、本作は本当にレベルが高いのです。

歴史映画を楽しむ喜びって、本作のような作品を見つけて見た時にこそ、心の底から湧き上がってくると思えるんですよね。

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