戦神ゴッド・オブ・ウォー

戦神ゴッド・オブ・ウォー/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

渋カッコいい日本の武士が倭寇で大活躍!映画『戦神ゴッド・オブ・ウォー』が熱い

2025/04/28

倭寇って覚えていますか?

昔、中国沿岸部を襲っていた海賊だよね……なんか教科書でみたような……と、そんな記憶を書き換える映画があります。

楽しみながら勉強できて、歴史を学ぶ学生さんにもおすすめ。

そんな力作が『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』です。

基本DATAinfo
タイトル『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』
原題蕩寇風雲 God of war
制作年2017年
制作国中国・香港
舞台中国、浙江沿海部
時代明朝・嘉靖年間(16世紀)
主な出演者趙文卓(チウ・マンチェク)、倉田保昭、サモ・ハン・キンポー、小出恵介、レジーナ・ワン(万茜)
史実再現度世界史の授業に使えるくらい、すごく頑張っている。倭寇もきっちりしている
特徴倉田保昭さんがカッコよすぎて痺れる!!

 


あらすじ

明朝、嘉靖36年(1557年)――。

厳しい海禁政策をとる明。

しかし、交易したい民を止めることはできない。

明と密貿易をしたい日本人と、中国人の王直は利害が一致。日中混成の「倭寇」が組織される。

明の将・俞大猷(ゆたいゆう)は勇敢に戦うものの、敵は手強く、苦戦が続いている。

宮廷は自分たちの利害を考え、前線を守る将兵の足を引っ張るばかりだ。

どうすれば倭寇に打ち勝てるのか?

それから4年、戚継光(せきけいこう)はついに倭寇対策の手応えを掴む。

2万の倭寇が迫る中、3千の兵で迎え撃つ明軍。

決戦の時は迫っていた。

 


かつてないほど正確かつカッコいい倭寇

倭寇を撃退する明の将のお話です。

もしかしたら不快感を募らせる方もいるかもしれませんが、実は本作は、ここ数年でも真に武士道を理解している屈指の作品です。

邦画でもここまではそうそうないかもしれない。

歴史映画を見る醍醐味が詰まっています。勉強にもなるし、ともかく隙がないのです。

世界史を学ぶ学生さん、学んだけど忘れた方に是非ともご覧いただきたい!

この映画は、明側のみならず倭寇も痺れるほど素晴らしい、そんな特徴があります。

熊澤という、倭寇の将を演じる倉田保昭さんが、国宝としか言いようがないほどただひたすら素晴らしいんですね。

もう、褒め言葉しか思い浮かばない。ともかくこの熊澤を見て! そう断言できます。

本作は、そんなカッコいい倭寇の定義をきちんと説明します。

そのまま世界史参考書に流用できるくらいレベルが高く、しかもカッコいい。本作を世に送り出したのが日本でないことを喜ぶべきか、悔しがるべきか、もはやわかりません。

・倭寇と言っても、全員が日本人ではありません

王直という著名な人物のことをきっちりと説明します。

・ならず者のみならず、兵法を知り、武士道を身につけた、そんな構成員もいます

平戸松浦氏の若殿も倭寇にはおり、雑兵たちの暴虐な振る舞いに胸を痛めています。

松浦氏は乱世を生き抜くために、明の物資や人材を求め、倭寇になっているのです。

・武士はかっこいい!

そんな松浦氏に使える家臣・熊澤がカッコいい。

こんなにカッコいい外国映画の武士は衝撃的だ!!

本当に倭寇と、そこに含まれる武士が無茶苦茶イケていて、ダメな大河ドラマなど足元に及びません。

個人的には『47RONIN』や『サムライマラソン』も好きなんですけどね。素敵な武士という点では、この作品はレベルが高すぎて、涙が出てきます……。

映画『サムライマラソン』(→amazon

では、なぜそんなにカッコいいのか。

大きな要因は、なんといっても倉田さんの存在感です。

 

日本人影帝・倉田保昭さんにひれ伏そう!

中国語には「影帝」という呼び方があります。

電影の帝王、ビッグな映画スターであり、ひれ伏したくなるほどの称号です。

日本人でありながら「影帝」の名にふさわしい。それこそが、本作で存在感を見せる倉田保昭さんであります。

空手や合気道といった武道を極め、香港映画界のショウブラザーズに招かれた、若き日の倉田さん。

動きはキレキレ、ルックスはシブく、スタイルもよいイケメン。

絶対にひくな、立ち向かえ!

そんな気合いとともに、異国の地で戦いぬく青年でした。

しかし、回ってくるのは悪役ばかり。ひどいやられ方ばかりをする。

自分より動きにキレがなく、ルックスもそうでもない俳優が主役をはれるのに、そりゃないよ。そう愚痴ると、身もふたもないことを言われてしまいます。

「観客は、やっぱり日本人が殴られるところを見たいんだよね」

戦争の記憶がまだ強い時代――香港や台湾で、日本人としてやられ役を続けたのです。

そんな彼をこう思う観客も、当然出てきます。

「あの日本人……やられ役だけど、かっこよくない?」

「わかる!」

ボコボコにされても、あんなにカッコいいスターはいない。

こうして徐々にファンを獲得していった倉田さんは、中国語圏でも敬愛を集めるようになりました。

ブルース・リーを知る世代のカンフースターは、だんだんと減ってゆきました。引退をしたり、実業家に転向してゆく。あるいは酒やバクチに溺れて消えてしまう人もいる。

そんな中、倉田さんは持ち前のアクションをこなし、あの体型も保ち続ける。

彼こそ、香港映画界の宝ではないか?

彼は「影帝」だ――そんな敬愛を集めるようになるのです。

倉田さんはアクションのみならず、日本関連の考証でも的確な指示を出します。

若い頃は無茶苦茶な日本人悪役も回ってきたものです。

しかし、近年彼が出ている作品は、日本描写がしっかりしていて安心感がある。

英語圏映画の真田広之さんと、中国語圏映画の倉田保昭さんは、本当に偉大な方。感謝しきれないほどのアクションスターです。

本作『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』はそんな倉田さんの真骨頂をじっくり味わえる作品。

2017年には第24回「香港電影評論学会大奨最優秀男優賞」も獲得しました。第37回「香港電影金像獎助演男優賞」にもノミネートされました。

いくら褒めても褒めきれない。納得のいく熱演が本作にはあります。

 


明朝、倭寇、そして世界が抱える問題もわかる

倉田さんとサモ・ハン、そしてこれまたアクションスターとして名高い趙文卓!

これはキャストの時点で勝利だろう――。

カンフー映画マニア必見だけでなく、本作は世界史の教材としてバッチリ使えるのがいい。なかなかそんな作品はありません。

当時の明が直面していた内政問題。

倭寇を招く世界史的な要因が、きっちりと説明されます。

明の問題とは?

サモ・ハンが演じる俞大猷は、些細なことで逮捕されてしまいます。

彼は中国武術史において欠かせぬ人物で「南拳」と称される拳法の確立に功績のある人物です。

それなのに、なぜ逮捕され、屈辱的な目にあわされるのか?

嘉靖帝の時代、明朝は政治腐敗が極まっていたことが背景にあります。

嘉靖帝は現実逃避しがちな性格で、そういう皇帝をコントロールする奸臣が権力を握ってしまう。

科挙を目指す文人も「なんかどうでもいいや」と、投げやりになるし。

そんな立ち回りができない武人は、苦しめられるばかり。

ドロドロした権力闘争の合間に、倭寇は勢いを増してゆく。一体どうすればいよいのか?

本作の武人が暗い顔である背景には、理由がありました。

そもそも倭寇にしたって、前述の通り明の人物もいるわけです。海禁政策を見直さない限り、根本的な問題は解決できません。

しょうもない権力闘争をしないで現実を見てくれ! みんな苦しいんだ!

そういう問題提起が、きっちりと出てきます。

倭寇の主目的が略奪ではなく、あくまで貿易というところもクローズアップされております。

大航海時代以来、銀が世界的に流出し、明にも貧富の差が生じてゆきます。

そういう民が求める経済政策が整わぬために、エネルギーが噴出していると描いているのです。

倭寇の中の武士だって、そんな世界的なパワーゲームに巻き込まれ、乱世を生き抜くために明まで来ている。

そういうダイナミックな流れがコンパクトにまとめられていて、とてもレベルが高いのです。

鉱山が発見された村と、その隣接する村において、住民同士が争う様も描かれます。

資源をめぐる争いは、同時代の日本でもしばしばあったことでした。

本作と同時期に放送された『真田丸』や『おんな城主 直虎』では、木材ような資源をめぐる民同士の争いが描かれていました。

『真田丸』(→amazon

あれは当時の日本のみならず、他国でも噴出しつつある問題であったのです。

そういう歴史の流れがわかるからこそ、本作は世界史教材として極めて優れています。

そうはいっても、所詮外国人から見た日本像だと思っておりますか?

いえいえ、本作には日本からも多くのキャストとスタッフが揃っています。

衣装、セリフ、仕草、時代考証、そして日本の武術もバッチリ!

日本人だからといって「残酷だ」決めつけるようなことはありません。

小出恵介さんが演じる武士の「山川の若殿」は、略奪や暴行は武士の道に反すると嫌がっています。

一方で、追い詰められて倭寇になった者もいる。セリフや衣装、所作まで階層差が表現されていて見応えありなのです。

倉田さんが若い頃の香港や台湾映画では、日本人は忍者なのに新選組の羽織を着ていたり、タクシーで轢殺しないと蘇る不死身設定といった、無茶苦茶な扱いもあったものですが……思えばここまで進歩したのかとしみじみと思えます。

 

日明関係を描くという意味において、本作は本当にレベルが高いのです。

歴史映画を楽しむ喜びって、本作のような作品を見つけて見た時にこそ、心の底から湧き上がってくると思えるんですよね。

 

将たるもの 軍師たるもの

『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』は、アクションスターが揃っているため、無双乱舞しながら戦うようなイメージを抱く方もいるかもしれません。タイトルからしてそういうイメージはあります。

しかし、本作はそうではありません。

リアリズムを重視した作りで、当時の将たるものの心構えや像を示してゆきます。

サモ・ハン演じる俞大猷は、勇敢で人格高潔ながら、同じ時間帯に攻めてくるというワンパターンさを見せる将として描かれています。

倭寇は「また定刻通り来たぞ」と簡単に迎撃してしまいます。

そんな相手を見て、兵法を引きつつ、簡単に勝てると笑うのが熊澤なのです。

サモ・ハンvs倉田さん!

となれば、殴り合うところを見たくはなりますが、そうはいかない。両者ともにアクションはせず、演技力、知識、人格によって、将としての力量が示されます。

そんな俞大猷の後任者として、戚継光が赴任してくると、熊澤が相手から名将の器を察知します。

明軍は変わった。どうやら戚継光は何かが違うようだ。

互いに知将がいることを察知して、探り合う。

そんな攻防が熱いのです。

熊澤は、リアルな戦国武士であり、軍師像として描かれています。

個人的武勇は当然あるものの、それだけではなく、兵法を引用し、地の利や敵の動きを見て兵を動かす様がきっちりと描かれる。

理知的で賢い軍師像で、倉田さんが演じる黒田官兵衛あたりを見たくなってたまらないものがありました。

一方の戚継光は、カリスマがあるとか、パワフルであるとか。そういうタイプと違い、理詰めエンジニアタイプです。

倭寇の武器を入手し、防ぐ手立てを考える。新兵器を開発してワクワクしている。名将というより、発明家のようなところを見せてくるのです。

押し付けがましく引っ張るというよりも、きっちりと戦術を組み立てて勝利を目指す。そんな将としての姿が見えます。

しかし、そこが彼の凄いところであり強み。

根性論でもない、理知的でクールなイノベーションを用いて、彼は明軍を生まれ変わらせたのです。

この描き方は、むしろ史実に即したものと言えます。

彼は『武備志』というイラスト豊富な実践戦闘術書に残されています。本作のワクワク兵器は、それをもとに再現したのでしょう。

諸葛亮の「木牛流馬」のようなイノベーションを備えた、たいした名将なのです。

 

愛ゆえに恐妻家

そんな戚継光ですが、結構いい歳なのに髭すら伸ばしておりません。

当時は髭がないことは宦官とみなされるものであり、あの年齢で既婚者ならば、伸ばしている方が妥当かとは思われます。これは彼の若さを表しているのかもしれません。

演じる趙文卓の顔立ちのせいか、主役の戚継光は年齢不詳です。

若いようで、そうでもないような、年齢が関係ないような不思議な感覚が出ています。

どっしりとしていて「将軍に任せておけば安心だ!」とも別に思えない。現代ならば、スーツではなくてポロシャツで仕事をしていそうな、フランクさがあります。

そんなソフトな印象を強めるのが、彼の妻である王氏です。

日本語の紹介ではごくあっさりとしている、邪魔にすら思われかねない、そんな王氏。

戚継光の恐妻家ぶりは、当時から有名でした。

あの名将が妻には頭が上がらないと、笑えるゴシップ扱いをされてきて、小説等にも描かれてきたものです。

この王氏は、部下の目の前で夫をビンタするし、夫が少し遅れるだけですねるし、なかなか困った妻のように思えるのです。

しかし、部下からすればこうなる。

「将軍〜、奥様くらいなんとかしましょうよ〜。奥様もわがままだけど、将軍がちょっと情けないッス〜」

そこであれやこれやをして見せるのですが、王氏はわがままであっても賢いので、自分があくまで家を支配しているとキッパリ見せつけるのでした。

戚継光も、妻相手にして皆が見ている前で腕相撲に負けてしまうほど。これは確かに突っ込まれそうな甘さです。

しかし、この恐妻家描写もきっちりとアップデートをされていると思えます。

王氏は何もかも理不尽に暴れるわけでもなく、一応理由はあると思えます。

夫が妻に逆らえないのも、深い愛ゆえだとわかります。この妻がいればこそ、夫としては頑張ることができるのだと思える。

この王氏にも見せ場はあり、彼女には智勇あればこそ、夫に愛されているのだともわかります。

「わがままな女房の尻に敷かれてさ〜」

そんな古いコメディタッチの恐妻家描写から、夫妻が支え合う描き方へ。時代と脚本の進歩を感じさせるのです。

 

古典的なようで 斬新な作品

戚継光はじめ、本作の人物の描き方は、古典的なようで実は斬新です。

カリスマ性や勢い、個人的な武勇ではなく、きっちりとデータや理論を組み立ててゆく。怒鳴りつけることで従わせるのではなく、相手を納得させてこそ。

心を攻め、感服させる。そんなリーダー像を印象付けます。

けれども、そうなってくると映画ファンとしては物足りなさも出てきます。

本作は、これだけアクションスターが揃っていながら、実は無双乱舞するような場面がそこまでありません。

香港映画得意のワイヤーアクションもあまり出てこない。地味といえば地味。

むしろ、倉田さんやサモ・ハンがまだ若かった70年代あたりまでにあった、古武術由来の動きを重視しているように思えます。

そういう古いアクションは地味でつまらない?

そんなことはありません!

本作には、趙文卓、サモ・ハン、そして倉田さんのアクションが楽しめる場面がきっちりと用意されています。

古武術由来の動きにまでさかのぼることで、改めてどれほど美しく、実用的か、わかるようなアクション。伝統への回帰こそが新しいとわかる、そんなアクションです。

2000年代はワイヤーアクション全盛期であったものの、香港はじめ世界では2010年代後半ともなるとそれが抑えられてきます。

今、当時の作品を見るとむしろ古臭い。

一方で、こうした古武術の動きが新鮮に見える。重厚でありながら爽快感という、新境地アクションがそこにはあります。

ラストの船内における戚継光と熊澤の対決は、ただただ、素晴らしい!

狭い空間でのアクション。日本刀を使いこなす熊澤。倭刀術で対抗しようにも慣れず、失敗してしまう戚継光。

しかし、彼には南拳、拳を連打する中国武術がありました。

日中の武術特性、演じるものの武術流派、武器の違い、そして守りたい命。武士と明将としての誇り。

拳と刀に全てを載せて戦う、そんなラストシーンにはただただ、圧倒されます。

この映画は、中国語圏で作られ、かつ倭寇が題材ということで「反日」という評価をしている感想も見かけます。

いや、だから、70年代のブルース・リーは、変な日本語を話す日本人をボコボコにしていましたよ。

倉田さんやサモ・ハン、それに趙文卓がスターダムにのぼりつけたころと比較すると、香港映画はここまで変わり、レベルがあがったのだと痛感できる。

歴史研究や、英雄像、そして恐妻家描写まで変わりつつあるとわかる。そんな力作がこの映画です。

世界史の勉強になります。

今鑑賞できる範囲でトップクラスの素晴らしい武士像を堪能できます。

本作に対して日本人が怒るべき点があれば、こんなところでしょう。

どうして日本映画で、ここまで素晴らしい武士像を描けないのか?

倉田保昭さんという人間国宝の真価を引き出しているのが香港であるのは一体どういうことか?

猛反省して欲しい。そう愚痴も言いたくはなります。

ただ、それでも私は悲観していません。

本作に参加したした日本人キャスト、スタッフは、大きな実りを得たことでしょう。

彼らに道さえあれば、きっと素晴らしい映像を生み出すことでしょう。

そう願いたいのです。

【参考】
映画『戦神 ゴッド・オブ・ウォー DVD』(→amazon)※現在アマゾンプライムでのレンタル未対応


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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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