甘露寺蜜璃(鬼滅の刃・恋柱)

『鬼滅の刃』14巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

甘露寺蜜璃のピンクと緑は今どきバッド・フェミニスト♪鬼滅の刃恋柱

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戦う姫君

むしろ蜜璃には、ジェンダー最先端の要素も見られます。

彼女は鬼殺隊でも、際立った上流階級出身と思われる部分もある。

◆胸を出し、羞恥心が薄い

なんでお姫様が胸をむき出しにするんだよ、おかしいじゃないか!

そういうツッコミはわかります。

ただ、お姫様ゆえにかえって羞恥心が薄いということもあります。

貴人というのは、ある意味不自由なもの。

健康管理のために排泄物を確認されるとか。トイレや入浴にまで使用人がついてくるとか。そういうことはありました。

では、どうすればいいのか?

羞恥心をなくし、見られてもどうでもいい、おっとりとすればいい。そういう対処法があります。

蜜璃のセクシーな場面はサービスのようで、むしろあっけらかんとした育ちの良さがある。そんな要素ですね。

◆恋を求める

添い遂げる殿方を求めるロマンチックな気質。

恋愛感情を歌に詠み、憧れてきたお姫様気質だと考えれば納得できるものではあります。

◆甘露寺という家

甘露寺家(かんろじけ)は実在します。

しかも藤原北家高藤流(勧修寺流)の堂上家であり、大正時代は華族でした。

薩長土肥出身の華族ではなく、堂々たる公家の家系です。

公家といえば武勇と無縁のように思えますが、明治維新以降は変化します。

西洋からノブレス・オブリージュが伝わり、皇族や公家も西洋の君主のように戦場に立ち、社会をよくすべきであるという考えが生まれたのです。

公家の出身なのに、鬼殺隊に入るってどういうこと?

そう思うかもしれませんが、当時の華族ならばありえた意識です。蜜璃の場合、女性という点が特殊ではありますが。

蜜璃は、維新の際に西軍が歌っていた「トコトンヤレ節」を口ずさんでもいます。

戦闘的な人物も多い公家の流れを汲む出身ならば、自然です。

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蜜璃に似ている境遇の人物として『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくるタースのブライエニーをあげましょう。

彼女は貴族の生まれながら、あまりに大柄で不器量。誰もあんな女は妻にしないと言われ続け、女でありながら騎士をめざします。

その性格は素直で善良、ロマンチックな恋に憧れているのです。

彼女は武勇のみならず、その美しく素直な心根で戦い続けます。

【フェミニズム批評】観点からも高評価のキャラクターでした。

実は『鬼滅の刃』は、連絡にカラスを使うところなどからして『ゲーム・オブ・スローンズ』に通じる要素もあります。

インプットを欠かさないワニ先生が、2010年代を代表する作品を意識していたとして、まったく不思議はないでしょう。

 

気は優しくて力持ち

そんな蜜璃ですが、ジェンダー観点からいうと男性的な要素も強いキャラクターです。

えっ、あんな乙女チックな恋柱に男らしさが?

ええ、ありますとも。彼女は日本男児の理想であり、純粋な心で相手を射止める要素があります。

「気は優しくて力持ち」

かつて、こんな概念がありました。

炭治郎たちが生きた明治から大正にかけて、国は桃太郎伝説を推奨します。

鬼退治をする桃太郎の姿は、軍国主義と結びつくものであり確かに危険ではありますが、それはさておき仲間と協力する桃太郎の姿には、日本男児の理想像が込められてもいました。

1900年(明治33年)に作られた桃太郎の童謡歌詞にも、この「気は優しくて力持ち」というフレーズが出てきます。

シャープな頭脳よりも、コミュ力よりも、まずは気持ちの優しさ。そして力持ちであること。それが理想像でした。

理想の人物像は、時代とともに変化します。

壁ドン、顎クイ、肩ズン……そういう少女漫画や乙女ゲーにありそうなシチュエーションに、大正時代のしのぶや蜜璃がキュンキュンしたかというと、【無礼】だとしてむしろ喜ばれないと思います。

無口だとか。素朴だとか。そっと見守っているとか。礼儀正しいとか。律儀であるとか。誠実で一生懸命であるとか。

『鬼滅の刃』の男性には、かつての理想像を持つ人物像が多い。

そんな中で、蜜璃は「気は優しくて力持ち」という美徳を持っています。

蜜璃は優しくて、仲間の美点を探します。

おそろしく空気が読めない冨岡義勇にだって、こうなる。

「冨岡さん♡ 離れた所にひとりぼっち! 可愛い♡」

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恋柱だし、なんでもときめいちゃう子なのかな?

……そう思えれば楽ですし、パッと見は恋愛主義のゆるふわ設定である。それが実は怪力で、意思強固であることが見えてくる。

彼女の日輪刀と戦闘術のように、剛と柔、両方の美点があるのだとわかってきます。

この美徳を持つ人物といえば、岩柱・悲鳴嶼行冥もそうでしょう。彼についてはまた後日考えましょう。

 

蜜璃に添い遂げる殿方は

そんな蜜璃は、柱の中でも第一印象が悪く得体が知れない――そんな伊黒小芭内に対してもこう出ます。

「伊黒さん♡ 相変わらずネチネチして蛇みたい! しつこくて素敵♡」

小芭内の純粋さを知った後ですと、否定したくなるでしょうが、彼の外見や印象はとても悪い。

・口元を隠している。表情が見えにくく、不気味さを感じさせる

・オッドアイ。これも必ずしもプラスとは言えない……ましてや大正時代では

・蛇を巻いてるぞ! ひー!

それでも純粋な蜜璃は、彼に対して偏見無く接します。

初対面から、家族や猫のことを話しかけてきました。

そして小芭内は彼女の素直さ、純粋さに好意を抱きます。

そもそも小芭内は家庭環境が原因で女性が苦手。しのぶのように、壮絶な覚悟を秘めて鬼殺隊に入る女性も近寄り難いものがありました。

彼は鬼から利益を受けて生きてきた一族の出身ですから負い目もあったのでしょう。

それが蜜璃は違う。

眩しくて、純粋な心根が、女性嫌いで恋愛すらできそうにない相手を変えました。

小芭内のみならず、蜜璃にとってもこれぞ運命だったのでしょう。

彼女の血筋、実家の財産、豊かなバスト、ガードが緩いところ……そういったスペックだけを見て選んでくるような相手では、添い遂げることはできません。

スペック重視で選ぶタイプは、もっと上位の存在を見つけたら乗り換える可能性も否めない。

※【トロフィーワイフ】という概念があります

その点、小芭内は蜜璃にしかない純粋さと明るさを見出したのだから、彼女が添い遂げる相手は彼に決まっているのです。

詳細は小芭内の考察にありますが、

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蜜璃と小芭内の純愛は、蛇伝説の性別逆転版めいた趣があります。

邪悪だとみなされかねない蛇が、純愛によって救われる。そんな古典的な題材を、新しくに作り上げたような、そんな二人なのです。

ゆるふわ萌えヒロインのようで、実に奥深く斬新。

これからを生きる人々の目標やロールモデルとしてふさわしい、そんなキャラクターが甘露寺蜜璃です。

大正時代の規範をまとい、賢く、いかにも意思が強く、ハキハキとした胡蝶しのぶは、わかりやすいフェミニスト像に直結します。

では、しのぶじゃないとダメなの?

そう挫けそうになったら、蜜璃を示せばよいのです。

好きだから敢えて髪を染めたり、短いスカートや露出の高い格好をしていて「なにそれ、男誘ってんの?」と言われたら?

自分の意思で、好きだからそうしている、蜜璃と同じだと答えればいい。

胸やかわいい見た目ばかりを見て、褒めて、おだてて、何か近づいてくる誰かには、心を見て欲しいと思えばいいのです。

蜜璃みたいな女の子が理想の交際相手だと思ったら?

どうしてそうなのか、大きな胸のせいなのか、かわいい顔のせいなのか、それともその心根なのか?

そう問いかけてこそ、小芭内への道も近づくのでしょう。

蜜璃は押し付けがましくもない。むしろゆるく思える。

けれども噛みしめるほど、魅力とその意義がわかるキャラクターです。

蜜璃のような人が増えれば、世の中はもっと明るくなるのでしょう。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
『鬼滅の刃』14巻(→amazon
『鬼滅の刃』アニメ(→amazonプライム・ビデオ

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