本郷和人東京大学教授

本郷和人の歴史ニュース読み

女上杉謙信を描いた『雪花の虎』ほか歴史漫画に熱視線! 本郷和人(東大教授)の「歴史キュレーション」

日本中世史のトップランナー(兼AKB48研究者?)として知られる本郷和人・東大史料編纂所教授が、当人より歴史に詳しい(?)という歴女のツッコミ姫との掛け合いで繰り広げる歴史キュレーション(まとめ)。

今週は、自他共に漫画ヲタクと認める本郷先生が歴史コミックに注目だ!

 

【登場人物】

本郷くん1
本郷和人 歴史好きなAKB48評論家(らしい)
イラスト・富永商太

 

himesama姫さまくらたに
ツッコミ姫 大学教授なみの歴史知識を持つ歴女。中の人は中世史研究者との噂も
イラスト・くらたにゆきこ

 

本郷「このまえの秀吉書状(詳細はコチラ)の反響は大きかったねえ。びっくりした」
「良かったじゃない。新しい史料が見つかるのは、やっぱり歴史のロマンなのよ」
本郷「この前の記事で、たつの市のHPからの写真があったでしょう。その中に、三人の人が写っていたものがあったけれど、文書発見の立役者、村井祐樹くんは左端の人。史料編纂所イケメン四天王の一人です」
「へー。イケメン四天王ね。そんなのがあるんだ。ちなみに、あとはだあれ?」
本郷「長身でシティーボーイの黒嶋敏くん。おもしろい本を書く人だから、是非、覚えておいて。あと、癒やし系の川本慎自くん。禅宗の研究者。話がおもしろいらしくてね、講演がとっても好評なんだ」
「あと一人は?」
本郷「ぼく」
「え?」
本郷「いや、だから、ぼく」
「えええええ。じゃあ、今までの話、全部うそなのおお??」

 


◆歴史が苦手な人必見!読まず嫌いのためのオススメ歴史漫画3選 music.jpニュース 1月23日

*編集部注 記事では以下の3作品が紹介されています。
東村アキコ「雪花の虎」

岩明均「ヒストリエ

中村真理子・園村昌弘「天智と天武」

本郷「ちょっと遅くなったけれど、この記事は見逃せませんな」
「いよっ! マンガおたく! そういえばあなた、マンガの時代考証もやってるのよね。」
本郷「そうなんですよー。東村先生の『雪花の虎』はまさにそれなんですよー。東村先生といえば、超有名なマンガ家さんですよねー。その方が上杉謙信を女性として描いている」

「ゲームでは謙信を女性とするのはよくあるけれど?」
本郷「そうだねー。その始まりは小説家の八切止夫(1914~87)さんかな。この人は謙信に実子がいないこと、着物が小さいことなどを根拠として、謙信は女性だった、という本を出した。他にも本能寺の主犯は光秀ではない、とか、徳川家康は二人いた、とかおもしろい説を打ち立てたんだね」
「へー。でも、まじめに謙信は女性じゃない、と論証しようと思ったら大変じゃない?」
本郷「そうなんだよ。だからフィクションの世界で想像するのは、まったく問題ない。来年の大河ドラマの主人公は井伊直虎、女城主だしね『雪花の虎』、注目です!」
「岩明均先生っていえば『寄生獣』の大ヒットで知られる方よね」
本郷「そう。でも岩明先生は『雪の峠・剣の舞』なんていう実に渋い歴史物も書いてる」
「あ、それ読んだわよ。雪の峠は佐竹家の家老、渋江政光が主人公なのよね。江戸初期の秋田藩の国替えとお家騒動の話。剣の舞は剣聖・上泉信綱の高弟、疋田文五郎の淡い恋を描いた作品。両方ともとにかく名作よね。歴史好きなら、ぜひ読まなくちゃ」
本郷「あ、なんだか熱くなってるね。それで、『ヒストリエ』なんだけどね」

「まっかせなさーい。マケドニアのアレキサンダー大王の活躍を、歴史家であり、軍略家でもあったエウメネスの目を通して描く作品でしょ?」
本郷「ふふふ。そう思うでしょう。そうじゃないんだなー。主人公がエウメネス。これは動かない。だけど、もう一人の主人公はアレキサンダー大王ではなく、そのお父さんのフィリッポス2世なんだな、これが」
「えええ?そんな話、聞いたことないわよ。証拠は、証拠」
本郷「いやあ、そこを詳しく書くとネタバレになるから。マンガおたくのぼくを信じて!」
「いやあ、そんなに大げさな話じゃあないんだけれどね。あとは『天智と天武』ね」

本郷「うーん、それはぼく、読んでない。ごめん。代わりにものすごくおもしろい作品を紹介するから、許して。灰原薬先生の『応天の門』! 平安朝を代表する美男子、在原業平とのちの学問の神様、菅原道真がコンビを組んで、難事件を解決していくんだ」
「うん。それも、おもしろそうね。読んでみるわ」

※編集部注 繊細な線で描かれた『天智と天武』は一見女性向きと勘違いされる方もおりますが、権謀術策が蠢く政争の世界は男性読者お好みの世界観であり、かなりオススメです。これぞまさしく読まず嫌いな方が多いかもしれません

 


◆歴史語る短刀、関市に寄付 三代目兼房作か 中日新聞 1月30日

本郷「うん? 三代目兼房? よく分からないな。説明していただける?」
「私も詳しくはないんだけれどね。関の孫六ってしってる?」
本郷「うん。名前はね。室町時代、岐阜県の関市周辺では刀の生産が盛んで、その代表的な刀工が関の孫六なんだよね」
「そうねえ。そんなところ。名前は兼元ね。でも、孫六兼元は一人ではなくて、受け継がれるのよ。代々その名を名乗るわけ。で、一番有名なのは2代目で、ただ孫六というと彼を指すのね。「最上大業物」に分類されている。それから関の刀工として有名なのは、二代目孫六と同じ頃に活躍した和泉守兼定。彼もやっぱり二代目なの」
本郷「司馬遼太郎の「燃えよ剣」で土方歳三の愛刀として出てくる名刀だね」
「そうね。ただし、歳さまが用いてた兼定が二代目の通称「のさだ」じゃない、というのは新撰組ファンの間では有名ね。彼の刀は「会津兼定」。江戸時代末期の会津藩の刀工(本名は古川清右衛門)なの。まあ、それはそれとして、室町時代後期に活躍した孫六兼元や和泉守兼定たち刀工グループを末関物、と呼ぶのよ。兼房という名前はやっぱり世襲で、三代目兼房は末関物に分類される刀鍛冶さんなのね。今回の短刀は、その三代目兼房の作品じゃないか、と鑑定されるものです、ということね」
本郷「そうかあ。とても大切な作品なんだね。」

 


◆駿府城天守台跡 発掘調査「見える化」 静岡市、16年夏着手 静岡新聞 1月29日

本郷「おおお。駿府城でも天守閣再建の話が進むのかな」
「え?天守閣じゃなくて、天守台の発掘調査でしょう?」
本郷「うん。一応はそうなんだけれどね。これには経緯がありまして。駿府城の天守3度、建てられたんだね。。まず、天正年間に建てられた天正期天守。次が、1607年(慶長12年) の慶長1期天守で、この天守は完成後まもなく焼失してしまった。最後は、その翌年から1610年(慶長15年)に再建された慶長2期天守。1896年(明治29年) まで現存した天守台は、この慶長2期のものなんだ。
「ああ、天守台そのものも今はないわけね」
本郷「そうだね。歩兵第34連隊を招致するために、明治29年に城の設備はみんな破却したそうです。この34連隊の第一大隊長を務めていたのが、日露戦争で戦死して「軍神」とあがめられた橘周太中佐(戦死時は少佐)なんだ」
「ふんふん。それで天守閣は?」
本郷「駿府城の天守閣を再建しようという運動はずいぶん前からあってね。でも、天守閣がどんな形をしていたのかについては確たる資料がなかった。それで、模擬天守であってもいいじゃないか、いや、やっぱり資料に則ってつくるべきだ。そんな論争があったんだね。それにもちろん、再建費用を問題にして、建てるべきじゃない、という意見も多かったわけだし」
「なるほど。今回、天守閣跡を発掘してしっかりした成果が出ると、天守閣自体を再建する動きも出てくるかもしれない、というわけね。でもあんまり先走ったらだめよね」
本郷「そうだね。まずは発掘成果を見守ろうね」

【TOP画像】Photo by (c)Tomo.Yun


 



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