本郷和人東京大学教授

本郷和人の歴史ニュース読み

江戸期に急増した日本の人口~歴史から少子高齢化社会を考える 本郷和人東大教授の「歴史キュレーション」

日本中世史のトップランナー(兼AKB48研究者?)として知られる本郷和人・東大史料編纂所教授が、当人より歴史に詳しい(?)という歴女のツッコミ姫との掛け合いで繰り広げる歴史キュレーション(まとめ)。

今週のメインテーマは、歴史から振り返ってみる人口問題です!

 

【登場人物】

本郷くん1
本郷和人 歴史好きなAKB48評論家(らしい)
イラスト・富永商太

 

himesama姫さまくらたに
ツッコミ姫 大学教授なみの歴史知識を持つ歴女。中の人は中世史研究者との噂も
イラスト・くらたにゆきこ

 


◆国勢調査初の総人口減 15年は1億2711万人、一極集中続く スポニチ 2月26日

本郷「これは何とも、大きな問題だなあ。人口が減ってしまうと、どうしても国力が下がるわけだからね」
「そうよね。人口増で国力増進というと中国とインドのイメージが強いけれど、実はアメリカだって増えていて、4億人なのよね、確か。もちろん、それはそれでトランプさんが吠えるような問題が出てくるわけだけれども」
本郷「人口総数ももちろん問題だけれど、老年層と若年層のバランスがやばいよね。お年寄りが増えて、つまり、生産には携われない人が増えて、若い人が減る。これでは国力は伸びない。人口を増やすために抜本的な手を打たないとね」
「でも、今の状況だと、女性は子どもを産まないわよ」
本郷「そうだよなあ。ぶっちゃけ現状、キャリアを取るか、子どもを取るか、だものね。両方はムリ、と考えている方は多いだろう。そうなると、人口を減らさないためには外国の方に日本人になってもらうしかないね。ネトウヨは拒絶反応を示すだろうけれど」
「歴史を考えると、ネトウヨだけじゃなくて、社会が拒絶反応を示すと思うわねー」
本郷「うん。そうだろうなあ。でも、それだと、人口が減って、日本の生産力が下がることは必至だよね。だから、女性をめちゃくちゃ優遇して子どもを産みやすい社会にするか。外国人を受け入れるか、いや、それは両方ダメ、認められない、という立場を取るか。腹をくくって議論しなくちゃいけない時じゃないかなあ」
「ちょっと話はそれるけれど、日本語教育をやめて、英語にしよう、ということもいわれてるわよね。言語を捨てるっていうことは、伝統を捨てるっていうことにもつながると思わない?」
本郷「うん。その通り。でね、伝統も捨てる、日本人のDNAも否定するとなると、日本って何だ、という議論にならざるを得ない。日本の歴史の研究者としては何とも複雑な思いなんだよなあ。日本人みんなの議論がどっちに向かうか、注目しているところなんだ」
「なるほどねー。うん、でも、これで終わっちゃうと、ただの床屋政談で終わっちゃうから、少しは日本史と人口の話をしてちょうだい」
本郷「はいはい。人口の増加はね、日本という国全体の状況をとても良く反映しているんだ。だとえば、西暦600年。この頃の日本列島の人口がね、600万人といわれる。覚えやすいでしょう」
「それしかいないの・・・。そうすると、輝ける古代、なんてイメージは」
本郷「もちろん、幻だと思うよ。いやまあ、その詳細はひとまず置いておこう。でね、その600万人の人口が関ヶ原の1600年には1200万人になる。つまり、1000年で600万人、100年で60万人しか増えてない」
「中世は全く増えてないのね。なんでそんなに増えないわけ? 避妊でもしていたの?」
本郷「いや、この時代に避妊はないよ。子どもは大切な労働力だからね。どんどん生まれるけど、たくさん死んでしまう。そのイメージかな。ぼくの友人のウェイン・ファリスは、人口の増加を妨げる要因は3つあり、疫病と、飢餓と、戦争だ、という。言い得て妙だね」
「ファリスさんはアメリカの研究者だからヨーロッパの歴史学の影響を強く受けているわよね。そうすると、ペストとかコレラとかのことが念頭にあると思うんだけれど、日本ではそういう病気はなかったんじゃないの?」
本郷「いや、ペストとかはないにしろ、食糧事情から来る脚気とか、栄養が良くないから結核とかね。病気で若死にする人は多いよ」
「なるほどね。それに加えて、戦乱かあ。つまりは古代・中世の日本のシステムは、1000万人ほどの人口を抱えるので精一杯の、まあ発展途上のものだった、ということね」
本郷「その通り。それでね、江戸時代になるとね、どういう変化が起きるかな?」
「戦争がなくなって平和になる。統一権力ができる、かしら?」
本郷「ご名答。統一権力ができると、おおよそではあるけれど、日本列島の中に1つの基準ができる。それにつれて、悪いことをした奴は、どこへ逃げても罰せられるようになる。つまり、悪いことはしてはいけない、という意識が浸透し、合戦もなくなるわけで、平和な日常がやってくるわけだ」
「そうか。みんな安心して暮らせるようになるのね。そうなると人口は?」
本郷「1600年から1700年の100年間に、2500万人にまで急増する。劇的な変化だ。もう一度言うけれど、中世には100年間で60万人しか増えてないんだからね」
「へー。江戸時代って、偉大ねー」
本郷「いや、まったく。でも、そのあとは人口は3000万人まで増えて、頭打ちになる。ということは、江戸時代=近世、というシステムは人口3000万人を養えるシステムだった、ということになるわけだね」
「それ以上になるには、四民平等の明治維新を待たなければダメなのね」
本郷「そういうこと。これを参考にするとね、今の日本のシステムは人口1億人前後に適合的なものだ、ということでしょ。だからこれをもしも増やそうというならば、江戸幕府の成立とか、明治維新クラスの、抜本的な改革が必要だ、ということだと思うよ」
「そうすると、あれね。日本の変革につきものなのは黒船だから、どういう外的要因がやってくるかよね」
本郷「ああ、そういう見方もあるかも。ともかく、ここしばらくの世界情勢は要注意だろうな。テロ、石油、中国経済、ヨーロッパの凋落。火種がありすぎて困っちゃうね」

 


◆徳川美術館、人気の刀剣4振り「鯰尾」「後藤」「本作長義」「物吉貞宗」をGWに一挙公開!

本郷「すいません。刀剣乱舞の世界、完全に乗り遅れています」
「まあいいんじゃない。おじさんはいらないわよ」
本郷「はあ。で、なんですか。このうち「鯰尾」と「後藤」はともに粟田口藤四郎吉光の作品ですよね。彼らを含めて藤四郎兄弟とかいうわけですか?」
「そうなのよー。みんな美しくて可愛いの。うっとり・・・」
本郷「うわあ・・・。ええと、とりあえず説明だけしておきますね。「後藤藤四郎」は、金座の元締めである後藤庄三郎がもっていた吉光の刀で、のちに尾張徳川家のものになりました。国宝です。それから、「鯰尾藤四郎」は豊臣秀頼がもっていたんだって。それで大坂の陣で焼けて、もとは小薙刀だったものを磨り上げて今のかたちになっているんだって。鯰尾というと、前田利家の兜とかがそういう風に呼ばれる。こう、ふっくらした形状なので、この刀の名にもなったみたいだよ、って・・・えーと、姫さま、・・・だめだ、自分の世界に入っちゃって、聞いちゃいねえ」

【TOP画像】Photo by (c)Tomo.Yun


 



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