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【幕末の英語学習】
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「L」と「R」は江戸時代から弱点だった
マクドナルドは、スコットランド系アメリカ人の父と、カナダの原住民女性の間に生まれた人物でした。
その出生ゆえに人種差別を受けたマクドナルド。
折しも当時は、アメリカでは東方探険ブームでした。
日本という謎の国には、自分と肌の色や容貌が似た人々が住んでいるらしい――そんな話を聞いたマクドナルドは、捕鯨船員となり、ボートでの日本密入国を図ります。
「やめるんだ、処刑されてもよいのか!」
他の船員は止めました。
が、マクドナルドは怯みません。漂流者を装えば処刑されない。そんな風に考え、蝦夷地入りを目指すのです。
いざ捕縛されたマクドナルドは、はるばる長崎へ送られました。
そこで彼を待ち受けていたのは、踏み絵(プロテスタントのマクドナルドは問題なく突破)と通詞たちです。
ここでマクドナルドは、座敷牢に入れられ、14名の通詞に英語を教えることになります。
マクドナルドが音読し、通詞が繰り返す形式でした。
マクドナルドは、通詞たちの文法理解はなかなかのものだと太鼓判を押しました。
ただし、彼らには重大な弱点がありました。
「日本人は、LとRの発音の区別ができない」
こ、これは、今でも言われる弱点、変わらないんですね!
こんな昔からなのか、と思うとなかなか感慨深いものがあります。
マクドナルドのこの時マクドナルドから指導を受けた一人の森山栄之助は、ペリー来航時通訳をつとめ「英語がうまい」という評価を得ています。
ペリー来航時に通訳がいたのは、マクドナルドのおかげであったわけです。
マクドナルドの来日は1年にも満たない短いものでした。
が、通詞にとっては実りある期間でした。
彼の帰国後は、英語辞書の編纂も開始されました。
といってもここで注意したいのは、英語を学習できた者は基本的に長崎の通詞くらいであった、ということです。
勝海舟、福沢諭吉のような、西洋事情に通暁した者であっても、英語学習は困難。語学はオランダ語のみでした。
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黒船来航以降、こうした人々は世界情勢的にも英語学習の必要性を痛感しております。それこそ福沢などは喉から手が出るほど英語教材が欲しかったのですが、流通がないのですから仕方ありません。
彼の願いが叶うのは、万延元年(1860年)咸臨丸のアメリカ派遣によってでした。
ゆえに……2018年大河ドラマ『西郷どん』で、大久保利通(正助)の家から英語辞書が出てきましたが、あれは相当無理のある設定です(というか貧乏下級藩士には間違いなく不可能)。
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幕末、英語での意思疎通手段
開国以降は、英語によるコミュニケーション手段が通詞経由以外でも増えてゆきました。
◆帰国した日本人漂流者
ジョン万次郎が有名ですが、その他にも鎖国により入国できなかった漂流者がいました。帰国した彼らは、当然英語はペラペラであったわけです
◆清人通訳
清人通訳と日本人は漢字でやりとりが出来ました。阿片戦争以降、こうした通訳は数多く存在しました
◆アメリカ側が雇用した、オランダ語通訳
アメリカ側は、英語とオランダ語に通暁した通訳を雇用しました。こうして雇われたヒュースケンは、攘夷事件で暗殺されるまで、日本で活躍しています
◆帰国した留学生
このように、開国によって英語によるコミュニケーション手段は格段に増えました。
ただし、こうした環境の変化は、通詞の地位低下にも繋がります。
世襲制度で生きてきた彼らにとっては致命的ですあらあり、逆に能力が伴えばチャンスでもありました。
雇用主でもある幕府が解体。
彼らは語学スキルを活かして、ビジネスや海軍といった新たな世界で、明治時代を生きていくことになります。
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文:小檜山青
【参考文献】
木村直樹『通訳たちの幕末維新』(→amazon)
岩田みゆき『黒船がやってきた』(→amazon)
『国史大辞典』