昭和十二年(1937年)1月4日、名古屋城の金鯱(きんしゃち)からうろこが盗まれるという椿事がありました。
犯人は特に何ということもないただの男性でしたが、昼のうちに天守に侵入し、夜になるのを待って屋根に上り、犯行に及んだのだそうで。
何がしたかったのかサッパリわからないというか、その根性をもっと別のことに使えと。
犯人いわく「大阪で売ろうと思った」らしいのですが、あっという間に足がついてお縄になりました。チャンチャン。
ところで、このお城というか名古屋といえば金鯱ですが、アレってどんな生き物なのかご存知ですか?
調べてみたところ、いろいろ面白いことがわかりましたのでまとめてみますね。
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鯱(シャチ)は空想上の生き物である
意外や意外、鯱(シャチ)は「海のギャング」とも呼ばれる白と黒の海洋生物シャチとは全く関係ないそうです。
ずっと昔からある物ですからそりゃそうだという気もしますが。
いわく、「姿(体)は魚で頭は虎で、常に尾ひれが天を向いていて、背中にはたくさんの棘がある」生き物なのだとか。
体と尾ひれ・背中のとげは多分どなたも納得できると思うのですが、現代人でアレの頭が虎に見えた人はいるんですかね。
夫婦一対である
鬼瓦と同様、鯱も建物の守り神としてお城やお寺の装飾に使われました。
鯱の場合は雌雄一対、つまり夫婦だそうで。
しかし哀しいかな、名古屋城の金鯱は明治時代に夫婦バラバラに扱われていたことがあります。
奥さんの方は海外の展示会に出され、旦那さんの方は国内のあっちこっちで展示されたとか。
どこでも好評を博したそうですが、その間名古屋市民の間では「お城にはやっぱり金鯱がいないとなぁ(´・ω・`)」という感じだったそうです。
そりゃ何百年間も代々見てきたものなんですから、いきなりなくなったら寂しいですよねえ。
江戸時代から何度も改鋳されている
江戸時代の大名といえば財政難です。
御三家筆頭である尾張家もその例外ではなく、代々の当主があの手この手で藩政を何とかしようとしていました。
となると、一番手っ取り早くお金になるというか金そのものである金鯱が利用されるのは当然ですよね。嫌な話ですが。
一番はじめのオリジナルは「慶長小判で17,975両分(金量約270キログラム)の金が使用された」(公式サイトより)そうですが。
そんなわけで、江戸時代の間に三回改鋳されたことがあります。身を削って藩政に貢献したと思うと(´;ω;`)
改鋳されるごとに質が悪くなり、最後の方は鱗が風に飛ばされそうなほどだったとか……。
しかも風除け・鳥避けの名目で金網が被せられてしまい、「なんだかなあ」という状態だったとか。
明治時代にも三回盗難に遭っている
冒頭では昭和年間の盗難についてお話しましたが、金鯱は明治時代にも三回ほど、それぞれ違った経緯で盗難されかけたことがあるそうです。
当時の刑罰は厳しく、順に銃殺刑、懲役十年、「犯人が旧陸軍兵だったため軍秘処理」にされたそうで。
特に最後の怖すぎるやろ……。
戦中に一度下ろされたことがある
戦中に全国各所で銅像やお寺の鐘などが回収の後溶かされて再利用されたことはよく知られていますが、金鯱は素材のためかその対象にはならなかったようです。
空襲が頻繁になった頃、保護のために一度天守から下ろしたこともあるそうですから、やはり別格のものとしてあつかわれていたのでしょうね。
しかし、市民の思いも空しく昭和二十年(1945年)5月14日の名古屋大空襲で、本丸その他と一緒に焼けてしまいました。
運良く?雌の方と思われる燃え残りが見つかり、一度GHQに回収されたものの、後々名古屋市へ返還されています。
元があれだけデカイものですから、返還されたときも燃えカスというより金塊に近かったそうで。
そのとき、当時の名古屋市長は「こんな姿になってしまったが、これは市民が見られるようなところで使うものにしよう」と考え、名古屋市の旗竿の頭飾りや、金の茶釜として作り直したそうです。
江戸時代の改鋳と合わせると、現在の金鯱は少なくとも四代目ということになるわけですね。
シヤチハタは名古屋の会社 由来はもちろん金鯱
そんなこんなで名古屋とは切っても切れない存在なので、金鯱を元にした名称などもいろいろあります。
有名なものだと、スタンプ式の便利なはんこ「シヤチハタ」は本社が名古屋市だからという理由でこの社名にしたそうで。
漢字表記だとズバリ「鯱旗」になるとか。男らしい。
「金しゃちビール」など、そのまま使っているものもありますね。
全く関係ないですが、ワタクシ金しゃちビールでビールを飲めるようになったクチなので、苦手な方はぜひ。
他にもエビフライを金鯱に見立てて飾った料理やら、市内に駐屯している陸上自衛隊の愛称やら、どの方面でも引っ張りだこです。
名古屋城築城にはあっちこっちの大名が駆り出されていろいろありましたが、金鯱やお城がこれほど愛されているのを知れば、少しは溜飲を下げるかもしれませんねえ。
長月 七紀・記
【参考】
名古屋城公式ウェブサイト(→link)
シヤチハタ(→link)