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【北尾重政】
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江戸の中国趣味ブーム
書道に注目しますと、江戸時代には独特の潮流がありました。
書道には【和様】があり、【かな書道】をいかに流麗に記すか?ということが重視され、上方が本場でした。
京都の朝廷が中心だったからです。
しかし、貴族社会の勢力が弱まるにつれ、洗練されにくくなったともされ、その最高峰は平安時代の藤原行成とされる。
だからでしょうか、現在でも【かな書道】を学ぶ人たちは、行成に近づくことを目標としています。
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日本語の実用的な文章となれば漢字とかなが混合され、江戸時代になると【和様】の標準的な事態として【御家流】が定められます。
伏見天皇の皇子・青蓮院尊円法親王が創始したため【青蓮院流】とも呼ばれるこの書体。
いわば公式フォントであり、公文書から庶民の消息まで、なるべくこの字に近づけることが目標とされました。
藩校や寺子屋でも、この字を習ったのです。
しかし、こうして公式が定められると、敢えて別の字を求めたい需要も湧き上がってくるもので。
【唐様】――つまり、中国の書道家を見本とし、独自性のある字体が流行り始め、ついには江戸時代中期にこんな川柳も出てきました。
売り家と唐様で書く三代目
売り家と中国風の書体で書いているのが三代目だ。
直訳するとわかりにくいのですが、時代背景から読み解くと、こんな意図となります。
本来、書道をやるならば【和様】の【御家流】で十分だろうがよ。
それが気取ってわざわざ【唐様】なんて習いやがって。
それで本業を疎かにして家を売りだすなんてよ、バカなボンボンはどうしようもねェな!
文化芸術にうつつを抜かして家をダメにしてしまうボンボンを皮肉っているのですね。
江戸の街には、こうした人種がかなり増えていたことがわかるでしょう。
わざわざ【唐様】なんて、気障ったらしい、気取ってやがるというニュアンスがあるのですね。
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北尾重政も典型的なボンボンでした。ただし家は潰しておりませんが。
篆書も隷書も得意ということは
北尾重政は書道においては三体(楷書・行書・草書)のみならず、篆書と隷書も得意としていました。
日本に書道が伝わったのは、紙と筆が発明されてから――楷書・行書・草書で記すようになってからのことです。
篆書と隷書は、それ以前、木簡と竹簡の時代に用いられていた書体。
つまりは古代中国の難しい字体であり、それをわざわざ学ぶとなると、限られたエリートだけのものとなります。
中国では古代の書体でしたが、日本では江戸時代も成熟してきた頃にエリートが学ぶ書体でした。
それが得意となれば、相当洗練されている証拠といえます。
俳諧も「花藍」という号で嗜んでいます。
しかし重政は生家が書店であり、それだけに真価を発揮するのは本の出版業でした。
単体の絵を売るよりも版本に挿絵をつけ、総合的にプロデュースをしながら売ることで本領が発揮されます。
現代人にとって版元の挿絵は馴染みが薄いものですが、当時はそうともいえません。
安価な【墨摺本】(モノクロ本)は、貸本屋で手に取りやすいもの。
重政の画風は癖が強くないため、馴染みやすい挿絵であったでしょう。
優秀な弟子を輩出して人脈を築く
北尾重政は温厚な性格なのか、多くの弟子を輩出しました。
津山藩のお抱え絵師・鍬形蕙斎となる北尾政美。
戯作者として名をなす山東京伝も、絵師としては北尾政演と号した弟子です。
そして勝川春章とは、家が近所同士でした。意気投合し、親しく、次第に絵を描き合い、切磋琢磨するようになっていったのです。
ドラマでも斜め向かい同士のご近所さんとして登場し、春章と重政が仲良く交流する様が描かれます。
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文政3年(1820年)、享年82というかなりの長寿で亡くなるまで、大勢の人々と交流を続けました。
長命でありながら現存する作品数は多くない絵師ですが、重政の人脈と文人サロンの中心にいた役割は大きいものです。
蔦屋重三郎の人脈を豊かにする彼の姿に注目。
大河ドラマ『べらぼう』を機に、彼の作品鑑賞の機会が増えることも期待しています。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
小林忠『浮世絵師列伝』(→amazon)
深光富士男『浮世絵入門』(→amazon)
他