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幕末から戦前まで人々は何を娯楽としてきた?日本の伝統演芸36をリスト化

水や食べ物のように生きるために必要不可欠ではない。
されど、人生を乗り切る上で大切にしたい。

それが娯楽ではないでしょうか。

あるいは文化と言ってもいいかもしれません。
今も昔も、人は「面白いもの」「笑えるもの」を常に探しており、そして楽しんできました。

そこで本稿では、幕末から明治にかけて、世の中には一体どんな見世物があったのか。
振り返ってみたいと思います。

 


技能系~23演目

現代の私たちは、アクション映画やカンフースターの素晴らしいアクションを映像で楽しんでいます。

また、舞台に目を移しても手品や曲芸といった技を見ることも楽しいですよね。
これも昔からありまして。以下のようなラインナップとなっております。

足芸:足で筆を握り、字や絵を描く

居合抜き:居合術の技を見せるだけではなく、軽妙なトークで観客を笑わせることも。歯磨き粉や薬販売とセットになることが多くありました

犬芝居:犬が衣装を着けて演じる芸。和犬より洋犬、オスよりメスが向いているとされました

角兵衛獅子:子供の曲芸師。児童虐待であるとして、明治時代以降徐々に禁止されました。ただし伝統芸能として角上映獅子は現在も演じられています

 

籠抜け:竹籠や細い輪をくぐりぬける芸。脱出マジックのような感覚でしょうか

曲独楽:大きな独楽を超絶技巧で回す芸

 

曲馬:乗馬して行う曲芸。明治以降は外国からチャリネ曲馬等、より高度なものが伝わり、日本独自のものは廃れました

撃剣:四本柱を立てて試合場を作り、剣術の試合を行うもの。現代のプロレス観戦のような感覚ですね。美女が華麗な衣装で薙刀で戦うものもありました

声色遣い:声の物真似ですが、この場合は歌舞伎の口上を真似していました。明治以降は歌舞伎の衰退とともに人気が下落し、形態模写にかわられます

里神楽:仮面劇。無言で所作や舞を行います

 

猿芝居:猿に衣装を着せて寸劇をさせるもの。「猿回し」の発展系です。もともと猿は武家にとって“死ぬまで病うこと無し”といわれ、当初は由緒ある縁起物とされていました。それがエンタメとして洗練されたのです

自転車の曲乗り:自転車の上で様々な曲芸を行うもの。明治以降流行しました

砂文字:色をつけた砂を用いて、即興で技巧を凝らした絵を描くパフォーマンスです

相撲:現代でも人気のある国技の相撲。エアギターのように一人で相撲の真似をする「一人相撲」、レスリングこと「西洋相撲」等バリエーションも。女性同士の「女相撲」は、風紀を乱すとして禁止されました

太神楽:江戸時代の神事芸能が、明治時代に寄席の演目となったもの

 

玉乗り:大きな玉の上に乗って曲芸を見せる技。日本の伝統的なものではなく、明治以降伝わった比較的新しいものです

力持ち:岩や米俵を持ち上げてみせるもの。『わろてんか』では岩さんが行っている芸です。体の上に重たいものを乗せて、その上で軽業を演じさせることもありました。女性もいました

綱渡り:当初は若い女性が演じる「チラリズム」狙いでしたが、女性の履くタイプの下着が普及すると技能重視になりました

剣の刃渡り:抜き身の刀の上を素足で歩く芸で、元は修験者の修行でした。構造的に刃をあてただけでは切れないものですが、失敗すると血塗れになる危険な芸です

手品:手妻、奇術とも。日本の伝統的な手品に加えて、明治以降は西洋からのマジックも導入されました

天井渡り:天井につけた板の上を、吸盤を付けた靴を履いた女性が渡る曲芸

歯力:歯の力で重たいものを持ち上げるという、想像するだけで痛くなりそうな芸

火渡り:素足で火の上を渡る、スタントマンのような芸。元は修験者の修行。炎の中に飛び込んだり、熱湯を浴びたりすることも。絶対に真似しないでください

 


演芸系~10演目

歌、楽器演奏、踊り等のパフォーマンスを見て楽しむものです。

大三味線:通常よりはるかに大きな三味線を用いた演奏パフォーマンス

かっぽれ:豊作を祈る早乙女の踊り「住吉踊り」をコミカルな振付にしたもの

 

剣舞:日本刀を持って、歌い踊る芸。幕末は若者が憂国の心や鬱屈をまぎらわすために行っていたもの。明治時代になると寄席でも行われる芸に

 

照葉狂言:能狂言に歌舞伎の要素を加えた演芸

鳥追い:元は小正月に行われた害鳥を追い払う芸。可愛らしい衣装の女性が三味線を弾きながら踊り、男性が毛槍を持って踊るパフォーマンス。うなじを見せる鳥追笠が愛らしくセクシー。鳥追笠は現在も阿波踊り、佐渡おけさ等の踊りで使用されています

鳥追いに扮した尾上菊五郎と中村清三郎/wikipediaより引用

流し:現在もまれに「流しの芸人」という言葉を聞きます。飲食店や盛り場を周り、三味線の演奏、物真似、歌を披露した芸人のことです

浪花節:もとは三味線による弾き語り芸のことでした

俄:歌舞伎のパロディ

八人芸:一人で八種類の楽器を演奏する芸

へらへら踊り:へらへらとした滑稽な動作で踊る芸。立ち上がらず、中腰で踊ることがポイント

 


話芸系~3演目

コントや漫才のような、トークが持ち味の見世物です。

蝦蟇の油売り:軽妙な口上が持ち味の芸

 

万歳:年始やめでたい席に踊っていた、二人一組の芸。「漫才」の原型にあたり、吉本や松竹が大々的に売り出し一時期大ヒットしました

 

娘義太夫:「女義太夫」とも。浄瑠璃の一種である義太夫節の女性版ですが、未熟で可愛い女の子の仕草を愛でることが主で、演技の巧拙はあまり問われませんでした。アイドル稼業ですので現役期間は短いもの。大正期には廃れました。

 

ウケればええやん♪

いかがでしょうか。
現在も同じ形で残っている講談、文楽等はのぞきましたが、こんなにいろいろとあったのです。

形を変えて残った手品。
伝統芸能として残った神楽系や角兵衛獅子。
衣装だけが残った鳥追い。
消滅してしまった娘義太夫や俄。

落語以外のこうした様々なパフォーマンスは、一段階下にあるものとされてきました。

万歳(後に吉本興業によって漫才となる)のような複数の芸人による芸は今でこそお笑いの王道でありますが、当時は一人で観客と向き合う芸より下とされてきました。

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しかし、明治維新以降の変動の中、芸のバリエーションも増えて、観客のニーズも変わります。

落語だけを頂点とする寄席でよいのかと疑問を投げかけたのが、岡田政太郎率いる浪花落語反対派(『わろてんか』における寺ギンのおちゃらけ派)、およびその後継者である吉本花月派(『わろてんか』における北村笑店)であるわけです。

もうひとつ注意したいのは、こうした芸は必ずしもお笑いに特化していなかったことです。

観客を驚かせる芸もあれば、お色気重視の芸もありました。

要するに「ウケればええやん♪」ということでして。
現在のよしもとクリエイティブエージェンシーにもマジシャンが所属していますし、『笑点』にマジシャンが出ることもありますよね。

芸というのは笑いだけではない。
そして奥深い。
いくらAIが発達しも、この分野だけは人が請け負っていく文化ではなかろうか。そう思います。

文:小檜山青

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【参考文献】
『幕末明治見世物事典』(→amazon link


 



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