明治九年(1876年)12月19日は、伊勢暴動が始まった日です。
名前からして穏やかな感じはしませんが、よくよく見ると「そりゃそうなるわ」と納得できてしまうようなことが原因の一件でした。
大久保も「税の軽減を図るべきか?」と一瞬考え……
この暴動が起きたきっかけは、明治時代初期の重要な単語としておなじみの「地租改正」です。
それまで米で納めていた税を、現金で払うようにしろ、という政治改革の一つですね。
当時は、地方ごとに制度の整う速度に差がありました。
そして伊勢=三重県では北部には比較的早く広がったものの、南部にはなかなかこの考えが浸透していなかったのです。
こういうのはだいたい中央省庁からの距離と比例しますから、それ自体は不自然なことではありません。
それ以上に問題になったのが、「税の金額は前年の米の価格を基準として決める」という点でした。現在の住民税とほぼ同じ考え方ですね。
転職したことがある方はわかると思いますが、前年よりも収入が下がった場合、住民税の支払いは結構な負担になります。
しかもこのときは前年の方が米価が高く、税負担が大きくなったのですから、農民たちが怒るのも無理からぬコト。
やがて地租改正そのものに反対する地域がでてきます。
実は、三重県の事件の半月ほど前に、茨城県でも農民約300人による強訴が起きていました。
大久保利通はこれを受けて、「税の軽減を図るべきか?」と一瞬だけ考えたのですが、すぐ鎮圧できたので減税を取りやめています。
この判断が、伊勢での暴動を招いたといってもいいかもしれません。
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農民を挑発する警察官がいて村人たちが激高!
そして140年前の今日12月19日、三重県で徴税するための会議が開かれることになり、18日の朝に各村の長が会場に向けて出発していました。
その隙に、各地の村人が集まって徴税の延期を願い出ようと言い始めます。
皆腹を立てながら集まっているので、時間が経つにつれて騒ぎが大きくなり、落ち着かせるために警察や村のお偉いさんが説得を試みました。
最終的にお偉いさんのほうが折れて、三重県宛てに徴税延期の嘆願書を作ったところまではよかったのですが……。
警察の中の誰かが農民を挑発するような言動をとったため、村人たちが激高し、実力行使に発展してしまいました。
「農民たちが暖を取るために焚いた火を、少し離れたところにいた人が”決行”の狼煙だと勘違いした」という説もあるようです。
そして納税窓口となっていた銀行や学校・役所などあっちこっちで焼き討ちのターゲットになった他、徴税に関わる者の屋敷を打ち壊すなど、一揆勢はかなり過激な行動に出ました。
また、この暴動は距離的に近い愛知県や岐阜県の一部にまで波及します。
三重県は自分たちでは鎮圧しきれないとみて、中央政府に軍の派遣を依頼。
しかしそれだけでは追いつかず、士族が徴用されて一揆勢と戦闘になったところもありました。
一揆勢も場所によっては数千人単位になりましたが、リーダー不在の上に、戦闘のプロである士族や軍を相手にあっさり鎮圧されてしまっています。
場所によって鎮圧までにかかった時間は異なものの、24日にはおおむね収まりました。
地租を慌てて3%→2.5%へ軽減するドタバタぶり
これを受けて大久保は12月31日に閣議を招集、年明けの1月4日に地租を3%から2.5%に引き下げています。
「竹槍でドンと突き出す二分五厘」なんていわれるのは、この数字からきたものです。
これは全国での数字なので少なく見えますが、県単位ではもっと大きな減税率となりました。
一揆勢の目的は一応達成されたことになりますね。
ただし、明治政府にとっては痛い話で、1000万以上の税収減になっています。その分は官僚削減や役所の統合・整理で対応したとか。
てか、まずそこから手を付ければ、暴動ももう少し小規模で済んだんじゃね? というのは禁句でしょうか。
伊勢暴動の人的被害は死者35人、負傷者48人、公的処分者50,773人(うち絞首刑1人、終身刑3人)とされています。
お偉方が事前に工夫していれば、これほどの犠牲者も出なかったかもしれませんね。
また、上記の通り暴動鎮圧には士族が使われています。
不平士族の反乱も主にこのころ(1874~1876年)起きており、最終的に1877年の西南戦争へと至るのですが、後手後手の政府の対応を見ていると、むべなるかな……とも思えてきて切なくなったりもしますね。
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長月 七紀・記
【参考】
日本大百科事典・世界大百科事典「伊勢暴動」
伊勢暴動/Wikipedia