昨今大人気の漫画『ゴールデンカムイ』は、日露戦争直後の北海道が舞台。
登場人物の多くに、日露戦争従軍経験があります。
しかし、この物語。
大勝利であったハズの日露戦争について、勝利の喜びに浸る者はほとんどおりません。
それどころか、皆トラウマや苦い思いを抱え、政府の対応に大きな不満を抱き、反乱を企てる人物すら出てきます。
第1巻の3話から、こんなシーンがあります。
銭湯の客「兄ちゃんたちが戦ってくれたから 日本は南樺太を取り返せた おかげでこの港町はこれからもっともっと栄えるだろう 本当にご苦労様でした」
杉元「……儲かるのは商人だけだろ」(ゴールデンカムイ
第1巻より)
なぜ、主人公の杉元はじめ、皆そのような不満を抱いていたのか。
実は歴史的に見て日露戦争は、勝利でも当時の国民が素直に喜べない苦さ(=ポーツマス条約)が残ったのです。
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薄氷勝利からのポーツマス条約へ
幕末以来、北方ロシアの脅威をひしひしと感じていた日本。
明治3年(1870年)になると、ロシアが樺太のクシュンコタンを襲撃しました。
日本政府は、その処遇に困り果てました。
そんな最中、日露問題に介入してきたのがイギリス公使ハリー・パークス。
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彼はコップを投げつけ砕きながら、こう語気を強めてきたと言います。
「樺太なんて、古船一艘の価値もない土地です。ロシアにくれてやればいい。樺太問題でロシアと揉めたら、日本の運命は、このコップのようになりますよ」
かくして明治8年(1875年)、日本政府とロシア帝国の間で【樺太・千島交換条約】が成立し、樺太はロシア領となりました。
そしてその後、日露間は多くの権益で対立を激化させ、ついに日露戦争が始まりました。
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ロシアは当時、止まらぬ帝国崩壊の流れに苦しんでいました。
欧米列強の中でも”Russian Bear(ロシアのヒグマ)”として恐れられていたとはいえ、その中身は満身創痍。
日露戦争は、ロシアというヒグマに、日本という小さなクズリが噛みついたようなものかもしれません。
確かに勝利はした。
されど日本側の損害も小さくない。
まさに薄氷を踏むような勝利であり、その後に待っていたのがロシアとの交渉、その末の【ポーツマス条約】でした。
※傑作映画『二百三高地』を見れば、薄氷の勝利だったとよくわかります
もはや戦争遂行能力はない
1905年(明治38年)3月【奉天会戦】。
日本軍の勝利で、この戦いは終結しました。
しかし、児玉源太郎は勝利を喜ぶことすらできません。
ここまでで動員兵力は108万人。
戦費は20億円。
戦死傷者は20万人。
さらに続けば、一年で25万人の兵士と、15億円の戦費がかかってしまう。
そこまで動員する余力がないのは明らかでした。
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そこで、なんとか「奉天会戦」勝利の中で、講和に持ち込まねばならない――日本側は、そう考えていたのです。
講和会議に挑んだのは小村寿太郎。
アメリカへ旅立つ小村は、盛大な見送りを見てこうつぶやきました。
「戻ってきたときは、逆の反応をされるでしょうな……」
そのとおり、小村の嫌な予感は的中するのです。
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