犬の名前はなぜポチなのか

円山応挙『狗子図』/wikipediaより引用

明治・大正・昭和

犬の名前はなぜポチなのか 起源は明治である意味これも文明開化

ペット保険を手がけるアニコム損保さんによると、「2021年犬の名前ランキング」の上位は以下の通りです(参照)。

1. ムギ
2. ココ
3. ソラ
4. モカ

ちなみに「2017」とほとんど同じ(参照)。

1. ココ
2. ソラ
3. マロン
4.チョコ

なんだか想像するだけでも可愛らしい名前が並んでいますよね~。

あくまでイメージですが、トイプードル、ヨークシャテリア、チワワあたりに付けられそうな感じと申しましょうか。

お菓子のように可愛らしく、夢のある名前をつけたい――飼い主のそんな温かい気持ちを感じます。

これが昭和になりますと、「クロ」とか「シロ」、あるいは「ブチ」といった毛色由来の名前が多かったように感じるのですが、他には映像作品などにも影響されたりするようで。

漫画・ドラマ『動物のお医者さん』のチョビとか、映画『南極物語』のタロとジロとか、大ヒット作品に関連して名付けられる現象はよくみられました。

さらに時代を遡ってみます。

毛色や模様からの由来ですと、白虎隊士・酒井峰治の愛犬「クマ」がいます。

おそらく熊のように黒かったのでしょう。

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『南総里見八犬伝』の犬は「八房」。

模様が八カ所あるわけです。

『南総里見八犬伝』の八房/wikipediaより引用

毛色ではなくどういう理由で付けられたのかわからないのが、『枕草子』に出てくる「翁丸」。

北条高時は「雲竜」ですから、なんだかお相撲さんのようでもあり、立派な体格の犬をイメージしますなぁ。

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幕末維新期の犬好きで有名な方と言えば西郷隆盛であり、その愛犬は「ツン」でした。

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さて、ランキングに全く登場しないものの、「犬といえばコレ!」という典型的な名前があります。

それは、ポチ――。

メディアでも度々登場しております。

◆「THE 犬」と思える名前といえば? 1位「ポチ」マイナビウーマン(→link

◆「ポチたま」(→link

◆「タマ&フレンズ」(→link

さて、この「ポチ」ですが、起源をご存知でしょうか?

というか「起源があったのをご存知でしょうか?」とお尋ねしたほうが良さそうですね。

 

ランキングに登場しないのに典型的

結論から申します。

ポチの起源は明治時代。

多くの外国人がやってくることによって生まれました。

まず、背景に、こんなエピソードがあります。

幕末から明治にかけて、来日した外国人は愛犬にこう呼びかけておりました。

「カモン、ジョン!」

「カムヒア、ジャック!」

このときの「カモン」とか「カムヒア」の発音が、日本人には「カメ」と聞こえてしまった。

そして『そうか、西洋じゃ、犬のことを「カメ」と呼ぶのか』という誤解が生じ、今度は洋犬を「カメ」と呼ぶという、ちょっと奇妙な状態になったわけです。

外国人にとっては狆が大変珍しいお土産として人気を集めました。エドワード7世妃アレクサンドラと愛犬パンチ/wikipediaより引用

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同時に問題になったのが、そんな洋犬「カメ」たちにふさわしい個々の名前です。

それまで犬の名前と言えば、【トラ、クマ、ムク、クロ、シロ】といった名前がほとんど。一目で特徴のわかる名前が好まれておりました。

仮に共同体で飼育する場合、都合がいいということもありましょう。

「クロはどこに行った?」と聞かれたら、とりあえず黒い犬なんだな、とわかりますからね。

では洋犬「カメ」はどうするか?

というと西洋風の名前にしようということで、ジャック、ジャッキー、ジョンといった名前が増えてきます。

その中の一つに「ポチ」もあったのですね。

当時は、これが西洋っぽい、お洒落ネームだったのですね。外来語のフシギです。

 

「ポチ」の語源は謎が多い

ここで疑問が湧くかと思います。

なぜに「ポチ」は西洋っぽい名前とされたのでしょうか?

明治時代ではありませんが、アメリカン・ケンネル・クラブ2015年の、人気名調査をみてみましょう(参照)。

オス
1. タッカー
2. ベア
3. デューク
4. トビー
5. ロッキー

メス
1. ベイリー
2. クロエ
3. ソフィー
4. マギー
5. セイディ

ポチに通じそうな「P」で始まる英語圏犬の人気名は「ピーナッツ」や「プリンス」だそうです。

「ポチ」にはかすりもしません。

ただし、英語圏では「ポチ」と同じく、典型的な犬の名前として「スポット」、「スポッティ」があります。ぶち、まだら模様の犬という意味です。

「スポット」や「スポッティ」を実際にクチに出して発音してみてください。

このあたりまでいくと、少し近づいて来た気がしませんか? どちらかと言うとスポッティがより近いですかね。

こうした状況を踏まえた上で、諸説ある「ポチ」の語源を5つ確認してみたいと思います。

1. 日本語由来説(「ポチ袋」等の「ポチ」から小さくて可愛らしいという意味)

2. 英語圏の犬の名前「スポット」が由来

3. フランス語の「プチ(小さくて可愛らしい)」が由来

4. チェコ語、ロシア語が由来

5. 日本人がブチ犬を「ブチ!」と呼んでいるのを、横浜駐留の外国人が「Patch(ブチ)」と呼んでいるのだと思った。ブチ→Patch→ポチという変化

どれをとってもナルホド、と思わされます。

「これぞ!」という結論には至れず申し訳ありません。

ただ明治時代からというのは間違いなく、かくして「ポチ」は日本の犬の名前として普及してゆくのです。

そして明治以降の小学校では、愛唱歌や教科書に「犬はポチ、猫はタマ」と登場しており、いつの間にか典型的な名前として認知されました。

今ではすっかり古典的な名前となった「ポチ」。

そこには犬好きの人たちの確かな思いが詰まっていたんですね。

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文:小檜山青

【参考文献】
仁科邦男『犬たちの明治維新 ポチの誕生』(→amazon

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