夏目鏡子

漱石、書斎にて/wikipediaより引用

明治・大正・昭和

夏目鏡子『漱石の思い出』を読めば あの文豪・漱石も可愛く見えてきます

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漱石といえばやはり猫のイメージがありますが、かつては犬を飼っていました。

明治三十三年ごろに夏目家で飼われていたその犬は、結構な問題犬だったといいます。

通行人に吠えまくるのはもちろん、あるとき警察官にまで吠えかかったり、その警察官の奥さんに噛み付いたりするほどでした。

その奥さんは夏目家の前に朝早くゴミを捨てていくので、元からよく思われていなかったそうですが。

漱石がその辺を知っていたのかどうかはわかりませんが、「犬だってよくよく人を見て吠えるのだから、怪しい人相や言動をするほうが悪い」と言い張り、警察官に「犬を出せ」と言われても頑として譲らなかったといいます。

が、ある日漱石が夜遅く帰ってきたとき、その犬に噛みつかれてボロボロにされるという”事件”が起きます。

まさに「飼い犬に手を噛まれる」になったわけで、それ以降は流石の漱石も、何も言えなくなってしまったのだとか。

その犬は引っ越しのときによそへ貰われていったとのことです。

もしも漱石が作家になるまで飼われていたら、猫だけでなく犬がキーキャラクターとして出てくる小説も書いていたかもしれませんね。

 

泥棒の話

明治時代は、現代と比べるとかなり物騒な時代でした。

窃盗や殺人なども多く、新婚の時期から後々まで、夏目家も複数回泥棒に入られています。

もちろん困ったことなのですが、笑ってしまうのがある春の日に入った泥棒の話です。

これも原稿料が入ってくるようになってしばらく経った頃のことなのですが、夏目夫妻と子供たちの衣類が一切合切盗まれてしまったことがありました。

当然着るものに大層困ったのですが、幸運にも一週間ほどで犯人が見つかり、ほとんどの衣類は戻ってきたといいます。

まだ貧乏暮しが響いていた頃なので、盗まれる前は破れたところを乱暴に縫い直したものなどもあったのですが、戻ってきたときには多くの服が綺麗に縫い直してあったのだそうです。

おそらく、泥棒が古着屋に少しでも高く売るために直したか、売られた先で手入れされたか、どっちかでしょうね。

前者の場合「そんな技術があるなら、その道で生きていけよ」という気もしますが……廃業したんですかね。

物が戻ってきたとしても泥棒に入られると気分が悪いものですが、夏目家では「こんな親切な泥棒なら、一年に一回くらい入ってくれたらいいのにねw」と笑いあっていたそうです。

鏡子は『思い出』の中でいろいろな人のことを「豪の者」と評していますけれども、現代人からすると夏目家の人々も……この時代では珍しくなかったんですかね。

 

有名な『吾輩は猫である』のモデルになった猫は、明治三十七年の夏に夏目家に出入りし始めた子猫でした。

鏡子は最初嫌っていたが、漱石が「何度も入ってくるんなら、うちへ置いてやれ」と言われて嫌々飼い始めた。

だが按摩師のおばあさんに「これは福猫ですよ」といわれてから可愛がるようになった。

というのも有名なエピソードですよね。

漱石が朝、腹ばいになって新聞を読んでいると、この猫が背中によく乗っていたのだそうです。なにそれかわいい。

彼の神経症はこの頃も治っていませんでしたが、明治末期~大正初期にかけて和らいだそうなので、猫の影響も少しはあったのかもしれませんね。

現代では「動物を撫でると、愛情ホルモンであるオキシトシンが出て精神衛生に良い」ということがわかっていますし。

 

何かためになる本を読みたいときに

こんな感じで、『思い出』には小説中からはうかがえない、漱石のさまざまな面が記されています。

イメージが変わった方も多いのではないでしょうか。

参考書や勉強がイヤになったとき、あるいは「小説は苦手だけど、何かためになる本を読みたい」と思ったときなど、お手にとってみられるのも良いかと思います。

「最近の中高生は読解力がない」なんてニュースがちらほら流れたりしますが、それは面白い本を知らないまま、お堅い本ばかり押し付けられるからであって、軽く読めて面白い本を見つけられれば、多少は読書に親しめるのではないでしょうか。

我々大人もただ「本を読め!」「最近の若者は!」なんて態度ではなく、「これ面白いから読んでみw」とユル~く勧めていきたいものです。

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【参考】
国史大辞典
青空文庫
夏目鏡子/松岡譲『漱石の思い出 (文春文庫)』(→amazon

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