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【藤原穆子】
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倫子と道長を結婚させた先見の明
藤原穆子が歴史に名を残したのは、藤原道長にとって頭の上がらない存在だったからと言えます。
源雅信は「娘の倫子をどうにかして帝に入内させたい」と考えていました。
しかし、その座は藤原摂関家の寡占状態であり、何代にもわたって外戚関係を続けていて、今さら入る余地なんてあるのか?
円融天皇については、藤原氏同士の争い激しく、とても食い込んではいけない状況。
次代の花山天皇は気まぐれ、かつ何かと奔放であり、別の意味で危うい。
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しかし、一条天皇(980年生)となると、倫子(964年)は一回り以上も年長となってしまい、さすがに入内は無理だ――。
倫子の父・雅信が諦めきれない最中、母の穆子は冷静に状況を理解していました。
気がつけば、倫子は年齢が行き過ぎていたのです。
『源氏物語』にも、なまじ親が高い望みを抱いたがために、嫁ぎ先が見つかりにくくなるヒロインが出てきます。
そんな当時特有の行き詰まりに、彼女は突入しかけていました。
あの物語には、娘に運勢を全賭けした結果、人生を左右する困った父親がよく出てきます。
紫式部の想像力だけで生み出されたものではなく、当時の人からすれば
「あぁ、こういう父と娘っているよな……」
という存在だったのかもしれません。
そこで穆子が「いっそのこと藤原道長を婿としてはどうか?」と提案し、夫婦となることが実現したのです。
結果、彼女の読みが大当たり。
穆子の孫である藤原彰子は一条天皇へ入内し、さらには曾孫が後一条天皇になるのですから、先見の明があった女性なのでしょう。
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夫婦の敬愛を集め 曾孫の即位を見届ける
道長と倫子は、仲睦まじい夫婦となり、多くの子女に恵まれました。
道長は素晴らしい妻と娶せてくれた藤原穆子に、頭が上がらなかったと言います。
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『光る君へ』での穆子も、のびのびとおおらかに倫子を育てたとされ、道長の感謝は深まるはず。穆子は婿たちに優しく、贈り物を欠かさなかったとされます。
ただし、この点は道長も同じだったりします。
独占的権力者ではなく、気遣いのできる人物でした。
心配りのできる人同士が集まって盛り立ててゆく――そこには穏やかな連帯が見えてきます。
正暦4年(993年)、夫・源雅信の死により、藤原穆子は出家、一条尼と称されるようになりました。
藤原道綱の妻の娘が亡くなると、孫を引き取り育てています。
藤原道綱とは、藤原兼家と『蜻蛉日記』の作者である藤原道綱母との間の子。
つまり、道長にとっては異母兄にあたります。藤原一族がどれだけ婚姻関係を回していたか、この辺からもご理解いただけるはず。
穆子にとっては孫、道長にとっては甥にあたる藤原兼経も、道長の養子として世に出てゆきます。
★
長保3年(1001年)、穆子の七十歳を祝う修法が、道長夫妻によってにぎにぎしく開催されました。
彼女は古希とされる歳まで生きただけでなく、さらに長生き。
長和元年(1016年)、曾孫である後一条天皇が即位するまで、穆子は見届けたのです。
とはいえ歳が歳ですから、程なくして病に伏せ、道長夫妻たちが見守る中、亡くなりました。
享年86。
当時としては驚異的な長寿。
道長夫妻は穆子の遺言を守り、盛大な仏事で彼女を送ったのでした。
この後も、別の曾孫が後朱雀天皇として即位し、孫の妍子は三条天皇の皇后となる――道長で良い!とした藤原穆子の先見の明が花ひらいたのでした。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
橋本義彦『平安貴族』(→amazon)
倉本一宏『敗者たちの平安王朝 皇位継承の闇』(→amazon)
大塚ひかり『源氏の男はみんなサイテー』(→amazon)
他