ありそうでなかった展示会。
それが「特別展 三国志」(以下:三国志展)ではないでしょうか。
公式サイトで
「いざ、リアル三国志へ参らん!」
と謳ってはおられますが、なんだかモヤモヤするもの。
メインビジュアルの関羽像(TOP画像)からして明代のものであり、『三国志演義』ベースの話で「リアル」と称されても、中国史好きからすればどう反応をしてよいか困るというもの……。
新聞の紹介記事を読めば「豊富な当時の文物」とも記されていて、思わず中国史関連の友人に確認してしまいました。
「あの時代って文物がないことで有名では?」
「そりゃあ、あれだけモノが不足していた時代に比べたら、他にもっと豊富な時代はあるわな」
「しかし……」
「明清と比較したらダメでしょ。程度の問題なんだから」
歴史オタクはうるさいなぁ、と、気分を害してしまったら申し訳ありません。
なんせ東京国立博物館「東洋館」の展示にしたって、三国時代関連はわずかしかなく、そうした状況を踏まえて三国志展が開催されると言われても、やっぱり釈然としないものがあるのです。
しかし!!!
その答えはきちんと用意されておりました。
灼熱の外気に負けないような、熱く生々しいリアル三国志展。
現地リポートさせていただきます!
【編集部より】
2ページ目に武将人形の名前当てクイズございます。
当選者1名様にamazonギフトカード3,000円分をお送りしますので、ふるってご参加ください!
お好きな項目に飛べる目次
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プロローグ「伝説の中の三国志」
上野駅から公園へ。
展示会場となる東京国立博物館・平成館へ進むと、まずはメインビジュアル「関羽像」にお出迎えされました。
今回の展示が斬新なところは、肖像権等の問題をクリアすれば、原則的に館内撮影ができるということです。
SNS映えが入場者を呼び込む――現代らしい取り組みですね。
「関羽像と写真撮影ができる!」となれば実に画期的です。
さて、そのメインビジュアルの関羽像ですが……前述の通り、明代のものです。
ええ、そんなものでしょう。
後世の伝説で神になった――そんな関羽像です。
関羽は死後が熱い!「義」の代表が「万能の神」として崇敬されるまでの変遷
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「プロローグ」展示室は、明清に作られた三国志のものが集められております。
しかし、です。
ここで『嗚呼、やっぱりそうか……』とテンションが下がらないのが巧み。
それどころか、悠久の流れすら感じさせます。
当時の人も私たちも、このロマンを楽しんできたのだな。そう、思うとある意味リアルではないか?
英雄伝説を楽しむこと。
それも歴史と言えるのです。
第1章「曹操・劉備・孫権ーー英傑たちのルーツ」
まずは曹操・劉備・孫権のルーツをたどる展示へと向かいました。
並んでいたのは高価な瓦や玉製品です。
当時でも贅沢な日用品や副葬品ではあるのですが、うーん、やっぱり地味かな……。
テカテカとして複雑に作られた明清時代のモノと比較すると、そうなってしまうのですが、実はこれこそがタイムスリップ感を高めてくれます。
三国志の難しいところって、後世の潤色が混ざってくることでして。
オーパーツがどうしても入ってしまうのです。
横山光輝『三国志』にせよ。
人形劇『三国志』にせよ。
唐代を参考にしているそうですし、見栄えだけで明代の甲冑が使われている映像化作品も、かつては多かったものです。
※映画『レッドクリフ』はそこを正確に再現しています
『里見八犬伝』にて、伝来前の鉄砲を出していたり。
鎌倉時代の話だろうと江戸時代の衣装を出す歌舞伎だったり。
実は、日本でも同じ傾向が見られるんですが。
今回の展示は、そういう後世との時間差を意識させる、とても巧みな構成になっております。
第2章「漢王朝の光と影」
第2章は、漢王朝の文物へと向かっていきます。
銅製の食器はじめ、当時の人々が使ったものを展示。
錆びついた鉄製の農具も、時代の流れを感じさせます。
鉄製品が地方でも生産できるようになると、耕作の効率と共に農業生産性が向上する。
と言っても実際に行うことはかなり大変です。
秦が中国大陸を統一し、その支配が続いた最中、漢王朝では人口増大ももたらしました。
その原動力となったのが、こうした鉄器もあるのだということは重要です。
展示されている文物からは、豊かな生活も想像できます。
四層と五層の穀倉楼と邸宅の模型を見ていて、「むむむ……」とうなりたくなりました。
こんなに高い楼を作るほど、穀物が収穫できたのか。
立派な邸宅に、人が住んでいたのか。
そこには豊かな生活がある。
しかし、乱世で多くが破壊される。
一体どれほどの惨劇と衝撃であったでしょうか……。
第3章「魏・呉・蜀ーー三国鼎立」
第2章では、鉄製の農具が出てきました。
第3章になると、武具に変わります。
たとえば弩機(クロスボウ)。
戦国時代に登場し、兵馬俑でも装備しており、その後、全国まで広く普及したのは、漢代でした。
【火器】という書き方のせいか。
どうしても後世の人間は弓矢や弩の威力を過小評価してしまうかもしれません。
しかし、こうした武器は当然ながら殺傷力を有しており、まとめて使えば大量殺戮だってできるのです。
展示品は、魏の皇帝直属の工房製品であり、製作した職人名まで刻まれています。
戦乱の中、武器品質管理に気を使っていたことがわかります。
人口減の時代なのに、食べるものではなく殺すものを作る。その辛い感覚も、展示品から伝わってくるかのようではあります。
中国の武器特性も、このあたりからあるのだと理解できます。
長柄武器が多いのです。
日本はじめ、リーチがあるからには他国でも同傾向がありますが、差はあります。
戟の形状は、見飽きることがありません。
後世のものと違い、発展途上ですがそこも含めて興味深い!
中国武器アラカルトは『少林寺三十六房』あたりでも
出土地もロマンがあります。
赤壁。
定軍山。
あの歴史を見てきたものかと思うと、実に灌漑深い。
赤壁出土品のコーナーは、天井に矢が飛んでいくディスプレイがなされていて、視覚効果抜群です。
武器以外の出土品もあります。
前述の通り、三国時代の出土品は少なく、その中でもレアケースとされてきたのが、呉・朱然の墓からの出土品です。
そこまで数は多くないものの、なかなかよい暮らしだったとわかるものがこのコーナーにはあります。
ただし、それだけでは展示物が不足するわけで、青銅器や像、印が出てきます。
投石機が投げた石もあります。こんなものが飛んでくるなんて絶対にイヤだ!
当たり前ですが、そういう生々しさがあります。
日用品の中に、この手の武器が並ぶと、やっぱりゾッとさせられる。生々しい暴力が感じられるような、当時の空気がうっすらとある。
たしかにこれは「リアル三国志だわ」と納得できるのです。
第4章「三国歴訪」
ここは魏・蜀・呉の順序で、ご当地巡りコーナーになっています。
【魏】
漢王朝の後継者であり、日本との関連も指摘されています。銅鏡からそのことがわかる展示です。
【蜀】
俑が多い。三国の中でもっとも可愛らしいかもしれません。
蜀というと、日照時間が短いことから「蜀犬日に吠ゆ」(※犬が不審物だと思うほど、蜀では日が出ない)言葉もあるほど。蜀への流罪が決まった呂不韋が自害するほど、貧しいイメージがあるものです。
それを逆転させるような、笑顔の俑がそこにはあります。
踊り、食卓の前にいる蜀の人々の姿は、見ているだけで楽しくなってくる。素朴な豊かさを感じさせます。
【呉】
呉は日用品ですね。
魏は日本との繋がりを感じさせましたが、呉は地理的に南方との交流がわかる内容です。
ガラス玉のアクセサリーがその一例でしょう。
この展示からも、呉の豊かさが感じられるようになっています。
第5章「曹操高陵と三国大墓」
はい、そしていよいよ、本展メインとなる墓の展示へ――。
曹操高陵あっての本展です。
なんと、展示室がその内部を再現されているという気合の入りようです。
葬儀も墓もとにかく地味が一番!乱世の奸雄・曹操の墓はリアルに質素だった
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決定代になった「魏武王常所用挌虎大戟」という石碑もあります。これはもう見逃せません!
それまで隋からしかなかったとされる白磁も、展示されております。
歴史を覆す大発見です。
曹操の墓発見には、さまざまなインパクトがあります。
「薄葬」だとわかったこともそのひとつ。
遺言通り、当時の基準からするとかなり地味な墓なのです。曹操の質素倹約思考が証明されたわけですね。
それに比べて曹丕は物欲がすごい。
彼は、かなりマニアックな探求をしたのですが、その一例が【鮮卑族風の金製ベルトバックル(鮮卑頭)】です。
戦乱の中で、現物を作れる職人がいなくなってしまい、曹丕は臣下に所有者がいると知ると、わざわざ手紙を書いて現物を借り、複製したそうです。
その成果が、展示されています。
なかなか面白い話ではありませんか。
曹丕と帝位を争った悲運の弟といえば、曹植です。
彼も墓が発掘されたため、人柄が伝わるようなものが残されています。
愛用の耳杯とか。
素朴でファンシーな動物模型の焼き物とか。
この動物模型がかなりゆるくて、ほほえましい気分にさせられます。
リアリストである兄・曹丕と比較すると、気弱なロマンチスト。
後世の強調や脚色もありましょうが、動物模型を見ていると納得できるんですね。
水鳥、鶏、犬。
そんな動物を愛し、囲まれて生きていた曹植の人生を想像してしまいます。
展示品の解説も粋なもので、曹植はきっと今も詩を作り続けているという旨のものもありました。ロマンがあるなぁ。
曹操と曹植の墓からは、石の球も発掘されています。
父子で同じものが出てきたわけですが、用途は不明で研究が待たれます。
かように曹一族は誰のものかはっきりしている一方、蜀と呉はそうではありません。
誰か偉大な人物の墓として「大墓」と称され、出土品はそこにはあるのです。
蜀で目を引くのが揺銭樹でしょう。
現在まで140個以上の出土例があるのですが、ほぼ蜀だけからという謎のオブジェです。
信仰によるものということはわかります。
青銅製の樹ではあるのですが、見ていると気分がぐるぐるとして来ます。
妙な気持ちになって、意識が飛んでいきそう。確かにこのオブジェには、何かのパワーがあるような気がして来ます。
これ以上、どういうものか?を説明しようにも、「本物を見てください」としか言いようがありません。
蜀という土地柄なのか。
三星堆遺跡といい、魏のある中原とは違う、異質な何かがあります。パンダだって蜀特有の存在で、他エリアではUMA扱いされてきたものでした。
そういう怪しげ・面白い気配が、そこにはある……。
蜀を経てから呉の大墓出土品に来ると、なんだかわかりやすい場所にやって来た感覚すらあります。
金の指輪にせよ、筆と書刀(※木簡や竹簡を削る、いわば当時の消しゴムか修正液)にせよ、日用生活品です。
牛車模型も、いわばミニチュアカーですね。
蜀とは違って、用途が想像できるからホッとします。
エピローグ「三国の終焉」
最後は、三国は滅びて西晋になってからの発掘品なんですが……。
なんとなく胸が痛む――というのも、そこに技術の向上を感じるのです。
壺にせよ。
金属製品にせよ。
テクノロジーは常に進歩します。
職人の名前入りである弩のこと。
どこか素朴さのある三国時代の出土品のこと。
後漢の高層穀物倉にあった豊かな生活が崩れ、三国時代はやはり生活が荒れ果てていたことが、天下泰平を喜ぶ西晋の出土品から伝わってくるのです。
そしてプロローグに戻りたくもなって来ます。
三国時代は終わりました。
それでも、三国志は終わりません。
後の世まで、ロマンが伝わる。
そうです。この展のおそろしいことは、エピローグのあとにも戦いは続くことです。
物販コーナー「横光も人形劇も無双もあるぞ」
本展の面白いところ。
それは、展示物に横山光輝氏『三国志』の生原稿、川本喜八郎氏による人形劇『三国志』の人形、そして『三國無双』シリーズの武器レプリカがしれっと混ざっていることです。
ゲームや漫画から入ってきた人でもOK!
そんな姿勢がはっきりとわかります。
そして『三国志』愛好家は年齢層が幅広いことも痛感できるのです。
例えば日本刀の展示会場では、ゲームの影響で若い女性が増えたことが新聞記事にもなったりしましたが、一方、三国志はエンタメとしての歴史も伝統があるゆえにファン層も多岐にわたっている。
それが、プロローグで感じたことにもつながってきます。
フィクションから入った『三国志』でもいいの?
いいんです!
フィクションから楽しむことを続けてきた。それも歴史です。
こうして今、『三国志』というコンテンツを味わっている熱気こそ、ある意味リアル『三国志』ではないか? あなたの心にあるのではないか?という興奮が湧き上がって来ます。
そんな熱い気持ちになってしまうのは、物販コーナーのせいでもありますね。
これまた、なかなかえぐいんですよ。
財布への打撃的な意味で、えげつない!
中国直輸入の本格的なグッズ、印鑑、瑪瑙細工のアクセサリー、お茶。やっぱりこういうのは買っておかないと!
それだけではありません。
人形劇、横光、コーエーテクモ、それぞれのポストカードやトートバッグ、一筆箋、ハローキティコラボ缶バッジ、ミニフィギュア……てんこもりです。
どうしてくれる!
むむむ……これも見逃せない!
横光三国志ネーム入りハンコなんて、どうしろっていうんですか。
ガチャコーナーにも、豊富なグッズ勢揃いですから、散財も覚悟しましょう。
嗚呼、それと図録も買わなければ。
展示品だけではなく、当時の日常生活についての記載もあり、ファンならば必須、お役立ちの一冊です。
そんなわけで、財布にはある意味痛い、けれども満足度が高い展示会でした。
そうそう。
【自分を三国志の武将にしてくれる】武将メーカーも忘れずに遊んでおきましょう。
会場だとレア度がSSSRになるようです(公式サイト)。
私は魏の軍師でした。
・戸籍管理をする地味文官だったものの、趣味で兵法を研究したら曹操にスカウトされた
・ある戦で、寡兵ながら呉の大軍勢を切り立った隘路に誘いこみ、火計で大勝利を得る
・稀代の兵法家
だそうで、実に根性が悪いキャラであり、大満足です(マジです)。
★
『三国志』好きならば、行くか行かないか、迷うまでもない――素晴らしい展覧会。
展示会のフォーマットとしても斬新です。
こういう楽しくて、ハードルが高すぎない取り組みは、今後ますます広がっていくことでしょう。
注意すべきこと。
それは、お財布とお時間の余裕でしょう。
魏呉蜀へ、いざ参らん!!
文:小檜山青
【編集部より】
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画像を見て武将の名前を当てるだけ!
ちなみにこんな感じの画像です。
↓
正解は孟獲さん!
名前が書いてありますね^^
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