三国志演義

三国時代の魏呉蜀/photo by Yeu Ninje /wikipediaより引用

三国志

『三国志演義』は正史『三国志』と何が違う 呂布は中国で美男子?

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三国志演義と正史三国志
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◆劉備
→お人好しで優柔不断。されど人徳者。『水滸伝』の宋江や『西遊記』における三蔵法師同様、中国における「理想の上司タイプ」で描かれています

◆関羽
→人々の「義」の理想を”全載せ”した感のある人物として描かれるようになります。究極の武人

◆張飛
→大騒ぎをして場を盛り上げる。『水滸伝』ならば“黒旋風”李逵、『西遊記』なら孫悟空と同じタイプ

実は関羽という人物は、講釈師語り物時代では、張飛よりも人気のない人物でした。

正史では記述が少なく、語り物では張飛より影が薄いのです。

そんな彼を「人々の模範となる義の化身としたい」と考えた羅貫中が、関羽像をブラッシュアップし、ともかく素晴らしい人物に仕上げました。

更に時代を経て彼は、理想の義の化身となり、崇拝の対象として神格化されていくことになります。

※詳しくは以下の関連記事をご覧ください

関羽
関羽は死後が熱い!「義」の代表が「万能の神」として崇敬されるまで

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敵役・曹操も悪カッコイイ男にしよう

敵役の曹操も、ただのやられ役ではありません。

憎々しい悪人の曹操は「呂伯奢一家殺害事件」で悪の華としてデビューを飾ります。

この事件のあらましは――。

呂伯奢という者の家に立ち寄った曹操が、彼らが自分を殺そうとしているのを察知し、返り討ちにするというもの。

正史の段階では本当に殺そうとしていたので、曹操がやや過剰な正当防衛をした筋立てです。

ところが『演義』では、

「おもてなしのために豚の解体相談をしていた呂伯奢たちの話を曹操が立ち聞きし、自分が殺されそうだと誤解して先に彼らを殺してしまう」

となっています。

曹操が完全に悪いという方向に改変されているのですね。

しかも曹操はここで名台詞を吐きます。

「俺がたとえ天下の人に背こうと、天下の人が俺に背くのは許さん!」

まことに自分勝手でふてぶてしい台詞ですが、悪の華としては完成度の高い言葉でしょう。

羅貫中、やるじゃん!

更には、この事件に陳宮が居合わせ、もう曹操にはついていけないと見限るのも、秀逸なアレンジですよね。

曹操は確かにワルです。

ただしカッコイイ、人を見る目がワルと書き替えたのも羅貫中です。

曹操は『演義』においても、忠実な許褚や典韋を大切にします。劉備にも目を掛け、とりわけ関羽には深い親愛の情すら見えます。

曹操すら魅惑する関羽は凄いという意味もあるのでしょうが、「単純な悪党ではなく、魅力ある人物」としても造形されているのです。

こうした魅了ある曹操像は、孫権あたりと比較するとよくわかります。

 

呂布が脳筋なのは日本独自の現象です

日清食品が公開した漫画『名探偵呂布』が話題になっておりました。

名探偵呂布/NISSINより引用

ここで注意したいのは、羅貫中はじめ中国の人々が「呂布を脳筋にしたわけではない」ということです。

『蒼天航路』では、もはや人として意志疎通が困難な人物にされています。

こうした絶大な武力と、相反する残念な知能という設定は、実は日本独自のもの。コーエー『三国志』シリーズの能力値あたりが影響しているのでしょう。

ゆえに中国の人から見ると日本流の呂布は、驚きのキャラクター設定なのだとか。

羅貫中が見たら、おそらく「ここまでアホに描いてないぞ!」と驚くことでしょう。

では羅貫中の呂布はどのように描かれているのか?

 

美女とのロマンスもあるワケで

まず何といっても美男子。

これまた美女と名高い貂蝉とのロマンスもあるわけでして、そうなると美男美女のほうがよろしいわけです。

貂蝉
絶世の美女・貂蝉とは? 董卓と呂布に愛された美女 伝説の真相

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更に呂布は、主君を平然と殺す人物です。

日本の最近の作品ですと、深く考えないためにそうなってしまうという描き方ですが、『演義』では知能よりむしろ“倫理感の欠如”からそうなってしまったところに重点が置かれています。

呂布は曹操ほど賢くはないものの、美男子で、ロマンスも用意されている。

そんな格好いい悪党、いわゆる「色悪」。

真面目な桃園三兄弟と比較すると独特の魅力がある人物であり、まぎれもなく前半の要といえるでしょう。

また呂布とのロマンス相手である貂蝉が、呂布と董卓を引き裂いた時点で自殺あるいは殺害される展開も日本独自のものです。

三国時代の物語は、歴史ベースであるため、結末やストーリーの流れを大幅にを変えるわけにはいきません。

そこで魅力を増すためには、文章やキャラクター像を洗練させることがポイントでした。

この点、まさに羅貫中は卓越した手腕を発揮しました。

正義の味方が敵を殴って喝采を叫ぶような、そんな語り物の素朴な魅力を、洗練されてリーダビリティの高い物語に変えたのはまさに彼の功績。

こんなにも魅力があって面白いのは、歴史的な要素だけではなく、羅貫中ら才知豊かな人々が洗練されさせてきた結果でもありましょう。

三国志受容の歴史もまた面白いもの。

そこに思いを馳せるのも、なかなか興味深いことではないでしょうか。

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絵・小久ヒロ
文:小檜山青
※2020年1月16日発売の『三國志14 TREASURE BOX』同梱のアートブックで全武将の紹介文を書かせていただきました(→amazon)(PS4版はこちら

『三國志14 TREASURE BOX』WIN版 PS版/amazonより引用

【参考文献】
井波律子『中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 (岩波新書 新赤版 1128)』(→amazon

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