【戦国時代最強の毒】って一体何だったんだろう?
たとえば忍者がどんな毒を使っていた可能性があるか? 当時、身近で使える毒とは何だったのか? 先日、担当編集さんから聞かれまして、いつか専門家に尋ねてみようとしていたとのことです。たぶん、吹き矢でシュッと殺す定番のシーンを想像しているのでしょう。
もちろん私も即答できるはずもなく、まずは毒について調べてみましたので今週も診察をすすめていきたいと思います♪
破傷風菌が作る毒素が超デンジャラス
いったい毒の中で最強の物質は何なのか?
毒性から言いますと、これは0.5gで世界人類の致死量となる『ボツリヌス毒素』が1番です。ただし、精製技術が確立されたのは第2次世界大戦中なので戦国時代の実用は難しいでしょう。
そこで毒の一覧をざっと見て目に付いたのが『テタヌストキシン』。この毒の半致死量(半分の人が死ぬ濃度)は2ng/kgです(2ng=0.000002 mg)。
テタヌストキシンというのは破傷風菌が作る毒素です(テタヌス:Tetanusというのが破傷風のこと)。破傷風菌はそこらへんの土の中に普通に存在しており傷口から侵入し感染します。
この破傷風菌の作る毒素が神経細胞に入ると、『運動を抑制する神経の働きを抑えたり、運動神経を興奮』させます。簡単に言いますと【ものすごい痙攣がおきたり、それに伴う麻痺がおこる病気】で、重症の場合は呼吸筋の麻痺をおこして死亡します。
現代日本では年間100人前後と患者数は少ないものの致死率は約50%と高く1950年のデータでは致死率85%という恐ろしい病気です。
戦国時代だったらまず死にますね。
調べてみると傷口を汚くすることで破傷風の感染率を高めることができるため、いくさの際に矢じりに「ウ◯コ」を塗り付けて使用していた話もありました。このあたりのことは漫画『ドリフターズ』にも登場します。
破傷風に限らず、汚れた傷口からはいろいろな感染をおこす恐れがあり、相手の戦力を低下させるには効率の良い手段だと思います。
手間と成果を考えるのであれば戦国時代最強の毒は「ウ◯コ」というのも一つの答えだと思いますが、美人女医さん(自称)のコラムで「ウ◯コ」ばかり書いて終わるのもチョットあれですので『破傷風』についてもう少し解説してみたいと思います。
意識ハッキリしたまま骨が折れるほどの痙攣を起こす
先ほどの説明で『破傷風菌は土の中に普通にいる』と言っておきながら『日本での患者数は年間約100人』と少なめです。
破傷風って滅多にかからない病気なのかな?と感じたのではないでしょうか。
答えはyesでありnoです。
世界全体でみると年間に数十万~百万人の方が破傷風により命を落としています。気付かないくらいの小さな傷から感染するケースもままあります。
ではなぜ日本では患者が少ないのでしょうか? それは『予防接種』が普及しているためです。
わが国では昭和43年から破傷風ワクチンを含む三種混合ワクチン(DTP)が開始されました(但し昭和50年~55年は副作用のため破傷風のワクチン接種が休止)。このためワクチン接種をきちんと行っていれば20代くらいまでは破傷風に対して免疫があるため患者数が少ないのです。
破傷風に感染すると通常3 ~21 日の潜伏期を経て開口障害(口が開けにくい)から始まる特有の症状をおこします。開口障害の後は、ひきつり笑い→全身痙攣へと症状が進行していきますが、開口障害から全身痙攣までの期間が短いと予後不良となります。
重症の破傷風は骨が折れるくらいの重症痙攣をおこしますが『意識はハッキリしている』ので悲惨です。
毒素が神経に取り込まれる前であれば抗毒素が効果を持ちますので、傷が土壌で汚染されるような怪我をした場合は念のため受診をすることをお勧めします。ちなみに破傷風菌を純粋培養し、毒素を発見、抗毒素による治療(血清療法)を確立したのは『北里柴三郎』です。
そうそう、江戸時代のスーパーひらめきマン『平賀源内』も破傷風で亡くなっております。
破傷風ってどんだけ強い風力なんだ!と思っていたら><;
余談ですが私が初めて【破傷風】という言葉を知ったのは、小学生の時に読んだ『恐竜の本』でした。
破傷風は人畜共通感染症であり、人間だけでなく牛や馬もかかる病気です。私が見たのは「破傷風で骨が弓なりに変形した恐竜の化石(のけぞるような弓型)写真」でした。
おそらく傷口から感染し重症痙攣をおこし死亡したものだと思いますが、当時、破傷風を知らなかった私は「古代の地球では風速50メートルくらいの凄い風“破傷風”が吹くことがあり、この恐竜は風圧で骨が曲がったに違いない!」と勝手な解釈をしておりました。
・・・全然違ったよ、もう><;
★
蛇足の蛇足。
文中にあるドリフターズですが、主人公は島津豊久です(笑)。
島津豊久や織田信長などが中世ファンタジー風の異世界に召喚されるアクション系歴史ファンタジーで、めちゃくちゃな話ですがなかなか面白いのでお勧めです。
では、また♪
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イラスト・文/馬渕まり