作家

クトゥルフ神話の創始者ハワード 悪夢から逃れるために作品を書き続け

作家や作曲家など。
何かを創作するお仕事をされている方は「夢から着想を得た」ということがとてもよくあります。

一般人でもかなり大掛かりなストーリーのある夢を見る人もいますから、そうした職業の方にとってはまさにネタの宝庫。
概ね歓迎されるものなのですが、中には逆に「悪夢の恐怖から逃れるために」創作活動に励んだという変わった方もおられました。

1937年(昭和十二年)3月15日に亡くなった、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという作家です。

いわゆる『クトゥルフ神話』の創始者ですね。

 


16歳で新聞に天文学の記事を書いていた

ハワードは宝石商の家に生まれ、経済的には恵まれた環境で育ちました。
元から幻想的な話が好きだったらしく、愛読書はグリム童話やギリシャ神話だったとか。

が、小さい頃に「化け物にさらわれてしまう」という悪夢をよく見てはうなされるなど、あまり精神的には落ち着けていませんでした。
意外に童話や神話には誘拐とか暴力とか(青少年の健全な育成のため自重)が多いですから、その辺が脳裏に焼きついて悪夢になってしまったんでしょうかね。

アメリカの人なので、おそらく当初はキリスト教を信仰していたかと思うのですけども、この悪夢を克服するには役に立たなかったようで、信仰を捨てると同時に科学の世界に関心を持ってからマシになった、と後に手紙の中で語っています。

16歳の頃には新聞に天文学の記事を書くような俊才になっていましたが、精神の不安定さは変わらず、やがて体調にも影響するようになります。

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト/wikipediaより引用

そんな彼を理解してくれていたお祖父さんがこの時期に亡くなり、せっかく入った大学も退校しなくてはいけませんでした。
ずっと続けてきた創作活動も一度離れ、世間から身を隠すようにして細々と生活していたそうです。

 


添削の仕事と一緒に捜索活動も続けていたが…

そんな状況が変わったのは、しばらく経って24歳頃のことでした。
アマチュア作家のサークルと知り合ったことをきっかけに、また小説を書くようになったのです。

そして、文章に関わる仕事として添削をするようになっていましたが、元の原稿とかなり違ったものになることが多かったせいか、あまり実入りはよくなかったようで、苦しい生活が続きます。

自身の作品が評価されるようになったのは30代に入ってからのことです。それでもヒットまでとはいかず、添削の仕事も続けていたそうです。文才に自身がなかったため、それを補うという目的もあったとか。
その努力が実を結ぶ前に40代半ばでがんが見つかり、その翌年に亡くなってしまいました。

生前出版された単行本は一冊だけでしたので、そのままであればハワードは多くの作家と同様に忘れ去られてしまっていたでしょう。

そんな彼が、なぜ今日特にサブカル・エンタメ界で知られるようになったのか?
それは、友人たちの協力があったからです。

 


友人たちが出版社「アーカム・ハウス」を設立

ハワードの死後、友人であり同じく作家だったオーガスト・ダーレスらが「あいつの作品を世に出してやろう」という目的で”アーカム・ハウス”という出版社を作りました。
ここからハワードの一連の作品と、それを元に広がった”クトゥルフ神話”が出版されていったのです。

”アーカム”とはこれらの作品に出てくる架空の都市で、まあイロイロとヤバイ人やらモノやらが徘徊しているところです。後述の「TRPG」でもよく出てきます。

オーガストは、ハワードの残したメモを整理・追記して新たな小説を書き、これも出版したので、彼もまたクトゥルフ神話の共同創始者といえなくもありません。

ただ、「ハワードの考えたものに余計な概念を付け足した」と見る向きもあるので、必ずしも大歓迎されているわけではないようです。まぁ同一人物じゃないから仕方ないですね。

 

人知を超えた存在にある日突然ヒドイ目に遭わされる

以後、作中で一番象徴的な存在”クトゥルフ”の名を取って”クトゥルフ神話”と呼ばれるようになった一連の作品群は、コアなファンを獲得し、徐々に世界に広まりました。

クトゥルフ神話に関わる小説は、概ね「アーカムやその他の都市で普通に暮らしていた一般人が、ある日ちょっとしたきっかけで人知を超えた存在にヒドイ目に遭わされる」というストーリーのため、好みが分かれる類の話ではありますけども。
また、ハワードが海産物嫌い・有色人種嫌いだったので、これらに対する辛辣というか嫌悪的な表現が多いのも特徴です。

日本人なら大憤激するところですが、実際はそうでもありません。
特にTRPG化された”クトゥルフからの呼び声”(原題”Caoo of Cthulhu)が日本にも入ってきてからは、かなりの好評を博しています。

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”ネクロノミコン”の魔道書や”ニャルラトホテプ”など

TRPGとは”テーブルトークロールプレイングゲーム”の略で、何人かで集まってそれぞれ架空のキャラクターを演じながら話を進めるゲームです。

欧米では単に”RPG”と呼ぶそうですが、日本ではコンピューターゲームの”RPG”が先に広まったので、”T”をつけて区別しています。
TRPGのほうでは、キャラクターの性能や話の流れによっては化け物退治ができるので、RPGと同じ感覚で楽しんでいる人が多いようですね。

また、コンピューターゲームのほうが先に広まっていた日本では、さまざまなアイテムやキャラクターの元ネタとしてもクトゥルフ神話が使われるようにもなりました。

”ネクロノミコン”などの魔道書や、作中一のトリックスター”ニャルラトホテプ”などは、クトゥルフ神話を知らなくても「ソレ聞いたことある」という方も多いのではないでしょうか。
特に日本では、萌えキャラ化など別方向での進化ぶりもスゴイことになっていますし。

生前より死後の評価が圧倒的に高い作家、というのは珍しくありませんが、本人はあの世でどう思ってるんでしょうねえ。
TRPGから入って小説を読み始める人も結構多いので、作家としては万々歳……なんですかね。

長月 七紀・記

【参考】
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト/Wikipedia


 



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