レンブラント・ファン・レインの『夜警』/Wikipediaより引用

画家

その名も「光の魔術師」画家レンブラントが破産同然で絵を手放すまで

二つ名(ふたつな)ってカッコいいですよね。

有名どころでいえば
「越後の龍」(上杉謙信)
「甲斐の虎」(武田信玄)
あたりでしょうか。
現代だと「厨二乙www」としか思われませんが、これが似合っちゃうんだから戦国時代ってすげぇ。

その頃ヨーロッパでも熱い二つ名を持つ画家が起伏に富んだ生活をしておりました

1606年(慶長十一年)7月15日、後に「光と影の画家」と賞される画家のレンブラント・ファン・レインがオランダで誕生します。

日本でも人気のある画家の一人ですし、度々作品が来日していますから、ご存知の方も多そうですね。

レンブラント・ファン・レインの自画像(1640年)/Wikipediaより引用

 


飛び級で大学進学するほどの頭脳だったが

レンブラントはオランダがスペインから独立する20年ほど前に、アムステルダム南西の町・ライデンに生まれました。

さほど身分が高かったわけではないのですが、兄弟の中でも際立って頭がよかったようで、飛び級で大学へ進学。
両親の望んだ法律家ではなく、レンブラントは画家として歩みたいと考えだします。

しかし、この頃のオランダはまだ実質的には植民地だった時代です。
芸術に関する教育設備が整っていたとは言いがたく、絵を学ぼうにも学校がないという状態でした。

そこでレンブラントは、イタリアに留学したことがある画家に弟子入りして、絵の勉強を始めます。
絵の具の扱い方やデッサンといったいかにも画家に必要な技術から、人体をより正確に描くための解剖学まで、レンブラントは貪欲に学び取りました。

その努力が実り、18歳の時には当時国内最高の画家といわれていた、ピーテル・ラストマンという人に弟子入りしています。
そのためにライデンを出てアムステルダムに引っ越したりと、恐ろしいまでの熱意でした。

 


石打ちの刑に処された「聖ステバノの殉教」

このお師匠様の絵も素晴らしいものです。
光の当たり方などから「ああ、レンブラントの先生なんだな」という感じがしますね。知名度では弟子に逆転されてしまっています。

半年後、レンブラントはライデンの実家にアトリエを作り、そこで自分の作品を書き始めました。

現在レンブラントが描いたものの中で最古の作品だといわれているのが「聖ステバノの殉教」という絵でして、19歳のときに描かれています。

処女作と言われる聖ステバノの殉教/Wikipediaより引用

この辺ではまだピーテルの影響が強く、オリジナリティは少し弱いような気がしなくもありません。

ちなみに、聖ステバノ=聖ステファノとは、1世紀に生きていたキリスト教最初の殉教者といわれている人です。キリスト教とユダヤ教の板ばさみになって石打ちの刑に処されたと伝わっています。

「石で打ったくらいで人が死ぬの?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、どちらかというと「罪人が死ぬまで大勢で石をぶつけ続ける」という刑です。

新約聖書で、イエス=キリストが「あなたたちのうち、一度も罪を犯したことのない者が石を投げなさい」と言ったときに行われていたのもこの刑ですね。
これ以上詳細を書くと気分が悪くなりそうですので、ご興味のある向きは各自でお調べください。

 


グロになりかねない風景を芸術に昇華

22歳のときにはレンブラントも弟子を取れるようになり、
「知識を実践すれば、知らないことやこれから学ぶべきことがわかる」
というスタンスで慕われました。

レンブラント自身もこれを実践し、彫刻刀を作ったり、絵画の他に版画に取り組んだりと、多方面の芸術に取り組みます。
この頃から世の中にもレンブラントの名が知られるようになり、ときのイギリス国王・チャールズ1世への献上品にした人もいたほどです。

24歳のときに父親が亡くなると、レンブラントは思い切ってライデンからアムステルダムに引越し、ここに地盤を固めました。

デビューが19歳、弟子を取り始めたのが22歳、本拠地を移したのが24歳ってすごいスピードですよね。
当然知名度も上がっており、大きな絵を頼まれることも増えてきました。

この頃の作品として有名なのが、「テュルプ博士の解剖学講義」という絵です。タイトルまんまの様子を描いているのですが、上記の「聖ステバノの殉教」と比べると、彼の進歩振りがはっきりわかります。

テーマがテーマなので、画家によってはかなりグロい絵になってしまうのですが、レンブラントは解剖よりも講義の様子に焦点を当てているためか、さほどグロテスクさは感じないのではないでしょうか。あくまで「比較的」ですが。

テュルプ博士の解剖学講義/Wikipediaより引用

 

教科書にも載る代表作「夜警」は不運な絵だった!?

その後、親戚のサスキアという女性と結婚し、私生活でも充実。
妻をモデルに女神の絵を描くこともありましたし、行ったことのない国々を描くために、さまざまな工芸品や衣類・装飾品を買い集めました。

この辺になると自らの人気や実力を自負するようになっていたようで、現在、美術館兼博物館になっている「レンブラントの家」という豪邸を購入しています。

もちろんレンブラントの実力は疑うべくもありません。
が、芸術家にはよくあることで、財テクは苦手でした。

そのためこの家も後々売らざるをえなくなってしまい、現在もこの名で呼ばれていることを考えると、「やっぱりレンブラントにはこの家だろ」と考える人が多かったのでしょうね。

話が前後しますが、「レンブラントの家」を買う前後に、歴史の教科書にも載っている「夜警」の受注を受けています。
画面が暗いのでこの名で呼ばれていますが、実は経年劣化であのような暗いシーンに見えるだけなのだそうですよ。

ついでに言うと、「夜警」は通りすがりの情緒不安定な人から数十年おきに切り付けられたり酸をぶっ掛けられたりしているという不運な絵でもあります。

レンブラントの代表作がそのような目に遭っているというのもあまり知られていませんが、彼の私生活もまた、「夜警」の受注前後から不幸が目立ち始めます。

 


他人の自画像にサルの遺体を描くって……?

不幸とは他でもありません。
三人の子供が生後1~2ヶ月程度で亡くなってしまい、さらには妻・サスキアもたった29歳でこの世を去ってしまったのです。

当時の栄養・衛生環境からすれば無理もない話です。
妻が亡くなったとき、ただ一人残った息子はまだ1歳。レンブラントは「男手だけでこの子を育てるのは無理だ」と考え、乳母を数人雇います。

しかし、彼女らに対して別の関係を持ってしまったため、まずこの辺から人間関係がこじれ始めました。

さらに、レンブラントは絵に対して完璧主義が過ぎました。
まあ芸術家ならよくある話ですが、それで依頼主を怒らせてしまったりしては元も子もないですよね。

あるときは、とある家族の肖像画を描いていたときに、レンブラントの飼っていた猿が亡くなったというので、その遺体を肖像画に書き加えています。な、何を言っているのか(ry
たぶんレンブラントとしてはそれを描くことによって、自身の心境を絵の中に表したかったのでしょうけれども……。そりゃ、温かな(?)一家の肖像画にそんな不吉なものを、許可なく描き足されたら不愉快になりますよね。

結局、その絵は買い取ってもらえず、破棄されてしまったのだそうで。
しかも似たようなことが何回も続いたため、社交界でも「あいつはロクな絵を描かない」といった悪評が広まっていってしまったらしく、レンブラントの収入は減るばかりでした。

現在は博物館になっている「レンブラントの家」/photo by WarXboT Wikipediaより引用

 

本人の生涯もまた、光と影に満ちていた!?

それでも、絵のために骨董品などの資料を買う金は惜しみません。
当然のことながら生活は徐々に苦しくなり、さらにオランダとイギリスが戦争に入って国全体の景気が悪くなると、数少ない依頼主がさらに減ってしまいました。

ついに家のローンまで払えなくなったレンブラントに、裁判所は「作品と資料として集めたコレクションを全部売ってお金を作るように」と命じます。

破産よりはマシですよね。
しかし、これによってレンブラントは画家の組合から「この人画家じゃありません」的な扱いを受けるようになってしまいます。

幸い、息子とその乳母が画商になり、レンブラントを画家として雇うことで何とか絵を描き続けることはできたのですが。この息子人間デキすぎ。

件数は少ないながらに絵を描き続けることはできたものの、最後に残った息子にも先立たれ、最盛期ほどの生活はできないまま、レンブラントは62歳で世を去ります。

何というか……これほどの才能があり、若い頃から成功していたにもかかわらず、寂しい晩年だったというのは、一般人からすればある種贅沢にも見えますね。

ゴッホあたりがレンブラントの生涯を知ったら(知っていたかも知れませんが)、「恵まれてたのにバカなことしやがって……」と歯噛みするんじゃないでしょうか。
ゴッホの生涯も以前取り上げたことがありますので、よろしければどうぞ

ゴッホが自殺を図った理由はなに? 狂気の天才画家、その生涯

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綺麗な言い方をするとしたら「本人の生涯もまた、光と影に満ちていました」というところなのでしょうけども。そのきっかけが散財というのが、うーん。

西教会

長月 七紀・記

【参考】
レンブラント・ファン・レイン/Wikipedia
ピーテル・ラストマン/Wikipedia
http://art.pro.tok2.com/R/Rembrandt/Rembrandt.htm


 



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