「事実は小説より奇なり」という言葉ほど、世の中を的確に表しているものはない気がします。
それは何も人間に限った話ではなく、ある大陸もそうではないでしょうか。
1929年(昭和四年)11月29日は、アメリカ海軍少将リチャード・E・バードが南極点上空の飛行に初めて成功した日です。
この出来事は、飛行機という新たな技術はもちろん、南極調査の歴史にも大きな一歩となりました。
「人の住んでないところで歴史って言うの?」という感じもしますが、「人間がいなければ歴史は存在しない」というわけでもないと思います。
本日は南極の歴史を見てみましょう。
10~7億年前にロディニア大陸が2つに分かれた
まずは地理的な特徴からいきましょう。
南極大陸は、地球に6つある大陸で5番目の広さを持ちます。
次のような順番になりますね
①ユーラシア大陸 5,493万平方km
②アフリカ大陸 3,037万平方km
③北アメリカ大陸 2,449万平方km
④南アメリカ大陸 1,784万平方km
⑤南極大陸 1,372万平方km
⑥オーストラリア大陸 900万平方km
平面の地図だと平たく潰れて見えづらいので、あまり大きいイメージはなかったのですが、オーストラリアより全然大きいんですね。思ったよりでかい。
気候区分だと、実は砂漠に近かったり、火山があったり、km単位の氷の下に湖があったり、意外に多彩なんだとか。
というのも南極大陸は、かつて氷の世界ではなかったのです。
話は、人類どころか哺乳類がわずかしか存在しなかった頃にさかのぼります。
かつて地球には、”超大陸”という巨大な大陸が存在しました。
10~7億年前にロディニア大陸というデカイ大陸があり、その後ローラシア大陸とゴンドワナ大陸という二つに分かれたとされます。
ローラシア大陸は現在のユーラシア大陸&北アメリカ大陸+α、ゴンドワナ大陸はアフリカ・南アメリカ・インド・オーストラリア・アラビア半島・マダガスカル島と南極大陸が含まれていました。でかい(確信)
そして2,500万年前にゴンドワナ大陸がそれぞれの大陸に分かれ、南極も現在の位置に動いていきます。
たまに南極で恐竜の化石が見つかることがあるんですが、恐竜の絶滅が6,500万年前ですから、それも当然というわけですね。
別に「現在の南極の気候に耐えられる超進化タイプ」がいたわけではありません。いたらこわい。
その後、だいたい1,500万年ぐらい前から現在とほぼ同じ気候になったそうなのですが、場所によっては300万年前ぐらいまで森があったらしき痕跡が見つかっています。うーん、地球ってすごい!
北半球にだけ大陸が多すぎね?
オーストラリア大陸同様、南極は他の大陸とかけ離れた環境にあったがゆえに、独自の生態系が育まれていきました。
代表例はペンギンですね。
鳥類の場合、離島や隔絶された大陸=外敵がいない場合、翼がどんどん退化していく……というケースはたくさんあります。他にはダチョウやキーウィなどが挙げられますね。
そんな環境だったので、人間が地球上に表れて数千年の間、南極大陸の存在は人間に知られていませんでした。
南極大陸発見のきっかけとなったのは、地学が進むにつれ「北半球にだけ大陸が多くて、地球全体のバランスがおかしい。南半球のどこかに、未知の大陸があるはずだ」という視点が生まれたからです。
古くは2世紀頃のギリシアでそういった考えが存在し、大航海時代の著名な探検家たちがこぞって未知の大陸を探しました。
有名どころでは、フェルディナンド・マゼラン、フランシス・ドレーク、ジェームズ・クックなどがいます。
クック一行は南極大陸沿岸から約121kmのところまで近づいたものの、上陸には至りませんでした。
なんででも「あの方向に陸地があるだろう」とは思っていたようなのですが、「寒すぎて人が住めなさそうだし、何もなさそうだから上陸しなくてもいいだろう」と考えたとか。
ちなみに、現代では南極大陸で数々の貴金属や宝石類、石炭・油田・ガス田が見つかっています。
油田やガス田はクックの時代には「ナニコレ(´・ω・`)」なものでしたが、もし”金属や宝石、石炭が豊富な土地”と知って、クックが南極に上陸していたら、イギリスがいち早く南極大陸の調査を進めて、実効支配していたでしょうね。
もっとも、この時代の装備で南極を調査するのはほぼ不可能でしょうから、あまり変わらなかった可能性も高いですが。
第一次世界大戦時のパイロットだったリチャード・バード
実際に調査が本格化したのは、クックの時代から70年ほど後のこと。
19世紀の半ばにあたります。
この頃から南極大陸に上陸し、鉱物や動植物のサンプルを持ち帰るなどの研究が始まりました。
そして、リチャード・バードの初飛行は南極の研究が始まって100年ほど後になります。
リチャードは第一次世界大戦時にパイロットになっており、戦間期は北極点への飛行を試みたこともあります。
残念ながら、北極点の方は位置を勘違いしていて、途中で引き返したことになってしまったのですが……。
北極には大陸がありませんし、当時の技術力で上空から正確な位置をつかむのは難しかったでしょうからねえ。
その果敢な挑戦に「アンタすごいじゃないか、もっとやってみろよ!」と応援する人々が表れ、史上初の南極点飛行の資金を集めることができたのです。
「失敗は成功の母」というところでしょうか。
条約で保護区とされ現在は世界で一番平和
リチャードは資金を使って入念に準備をし、11月28日の夕方に飛び立ちました。
途中で食料等の荷物を捨てて高度を上げる、というトラブルもありましたが、日付が変わって11月29日の深夜に、見事南極点を通過しています。
帰路も順調で、午前中に無事帰還しました。
こういう話ってそのまま行方不明になってしまうことも多いですから、周りの人々も偉業を称えるとともに、安心したでしょうねえ。
リチャードはその後も飛行機で南極をたびたび訪れており、「南極上空は航行可能である」ということを身をもって証明しました。
南極には永住者がおらず、国もないため、空白地帯ということもできます。
所有権を主張する国はあるにはありますが、条約で「南極は保護区であり、学術調査以外の活動は禁止」と決まっているのです。
もちろん軍事活動や核実験も禁止なので、ある意味世界で一番平和な場所といえますね。
もし温暖化が進んで地表が顕になったら、前述の豊かな資源を巡って戦争になるかもしれません。
その頃には、現在人間が多く住んでいる土地は住みにくくなっているでしょうし……。
温暖化そのものは「寒冷化の前兆で一時的に気温が上がっているだけ」という説がありますので、まだ断定はできないにしても、こと南極に関しては、戦争を起こさないために現状のままでいてもらいたいものです。
長月 七紀・記
【参考】
『世界を変えた100日』(→amazon)
南極の地理/wikipedia
南極大陸/wikipedia
南極の歴史/wikipedia
南極条約/wikipedia